その日の寝覚めは最悪だった。
なんか小学校の同窓会かなんかに出席する夢を見た。そこで、よく覚えていないのだが凄く嫌な目に遭う夢だった。なんだか最近そういう夢を見る日が増えた気がする。
でも、その日は楽しみにしていた日だったので、気分は悪くなかった。その日は年に一度、J3に所属する福島ユナイテッドFCが会津で試合を開催する日なのだ。
福島ユナイテッドがまだJFLにいた時代に会津若松に出来たあいづ陸上競技場は、FIFA規格のピッチを持つ陸上競技場だ。正直言って、会津若松で綺麗な緑の天然芝のピッチが見られる日が来るとは思ってもみなかった。完成したピッチを見た時は素直に感動したし、なにより、会津若松でJリーグのフラッグがはためいているのを見た時には、とてもとても嬉しかった。
それもこれも、Jリーグ百年構想の賜である。
Jリーグは、やれ「チーム数が多すぎて覚えられない」だの、「戦力が分散して各チームが弱くなっている」だのと色々言われるが、チームが増えることで会津若松のような田舎にも生でサッカー観戦という楽しみがやってくる「恩恵」のことも少しは考えて欲しい。スカパーのCMではないが、代表戦だけ盛り上がっているようではこの国のサッカーに未来など無い。
あいづ陸上競技場は、あいづ総合運動公園の中にある。そこには、体育館、テニスコート、野球場、あいづドーム(という名の多目的競技場)などがあり、休日には色々な大会が催されている。
その日は、あいづ球場で高校野球の県大会の3回戦が開催される予定で、駐車場は満杯になることが予想された。なので、車で行くのは諦めて歩いて運動公園まで行くことにした。だいたい20分位の距離だ。
運動公園に着くと、案の定駐車場は車の列で大変なことになっていた。そして、今回でこの運動公園に観戦しに来るのは5回めなのだが、それまでで一番混み合っていた。どうやら、高校野球だけでなく、体育館ではバスケ、テニスコートではテニスの大会が行われていたようだ。ひょっとしたら道を挟んだ反対側のあいづドームでもなにかやっていたのかもしれない。とにかくすごい人の数だった。
あいづ陸上競技場まで行くと、いつもどおり出店が出ていた。グッズショップにも人が並んでいる。
ふと芝生席の入り口を見ると、今日ベンチに入らない選手たちが歩いていた。中には怪我で出場できないキャプテンの石堂和人の姿もあった。サポーターが「(リハビリ)がんばってくださいね!」と声をかけ、石堂がそれに笑顔で答えていた。選手との距離が近い下位ディビジョンらしい光景だった。
とりあえず昼ごはんを食べていないので、なにかを食べようとお店を物色。謎の萌え絵のお店でたこ焼きと牛串を買い、食べる。
味は…
まあ、こんなもんだよね〜という感じだった。会津開催だからなのかなんなのか、福島ユナイテッドのスタグルとしてはまだウリがない感じがする。
物足りなかった上、気温も高かったのでかき氷を買いに行く。台湾で売っているようなフワフワのかき氷を売っているお店があったので、そこで抹茶味とマンゴー味のかき氷を買う。
※本当は山盛りだったけど、シロップかけたら溶けちゃった。
その後、やることも無くなったので入場ゲートへ。入場時、マッチデープログラムと一緒にうちわとタオルをくれた。タオルは持ってくるのを忘れたのでありがたい。
入場する前から気がついていたのだが、その日は対戦相手のカターレ富山のユニフォームを着ている人が結構多かった。というか、いままでの試合で一番多く見かけた。そして、入場して席についてアウェー側のゴール裏を見てみると、結構な数の人が来ていた。明らかに今までで一番多い。
さすがJ2経験クラブ。遠征に来る人の数も今までとは全然違った。太鼓もチャントも堂に入っている。応援の熱では完全に富山の方が上だった。
というか、いままで会津で対戦したチームの中で、カターレ富山は最も強い相手だ。会津と福島ユナイテッドは相性が良いとはいえ、現在5位でJ2昇格をうかがう位置にいるカターレ富山と、11位とぱっとしない状況の福島ユナイテッドである。ちょっと不安だ。
フェアプライフラッグを先頭に両チームの選手が入場する。否が応でも高まってくる。
カターレ富山には、かつてセレッソ大阪で活躍し、U-20日本代表や、北京五輪を目指した反町ジャパンなどに選出されたこともある苔口卓也がいる。セレッソ時代に少し輝きを見せた苔口は、個人的に期待していた選手でもある。まさかこんな形で生観戦することになるとは思わなかった。
試合は、前半開始から丁寧に繋いで両サイドから突破しようとするカターレ富山と、ブロックを作って前線のアレックスにボールを渡してカウンターをうかがう福島ユナイテッドという構図になった。
富山は特に福島ユナイテッドの右サイド、酒井高聖が上がった裏を突いてくる。富山の北井が何度も突破を試みてコーナーキックを沢山獲得していた。正直、5位と11位という力関係通りの試合だった。
だが、先制したのは福島ユナイテッドだった。前半15分に酒井のクロスから福島の10番金功青が飛び込み、ネットを揺らした。会津では不敗を誇る福島ユナイテッドの相性の良さを表すようなゴールだった。
その後、富山がバックラインでボールを回すような展開が多くなり、後ろに座っていた富山サポーターは不満を漏らしていた。このまま前半を終わらせることが出来れば最高の展開だったが、残念ながらそこまで甘くはなかった。
前半の追加タイムにゴール前でボールを奪われ、富山の窪田良に得点を許し同点とされる。我慢しきれずに失点してしまったような展開で、ちょっと残念な形で前半を終えた。
後半は開始直後からハイプレスをかける福島ユナイテッドと、それをいなしていく富山という展開。前線のアレックスに結構ボールが収まるので、酒井も何度もオーバーラップして相対する北井を押し込んでいく。
後半だけなら5位と11位の試合には見えなかった。むしろ、声援に押されて福島ユナイテッドの方が多くのシュートを放っていたが、残念ながらゴールネットを揺らすまでには至らず、試合は1-1のドローに終わった。とりあえず会津不敗伝説は守られたが、後半にあったビッグチャンスを決めていたら勝てたかもしれない試合だった。
試合が終わると、スタンドの前方に人々が集まってくる。中にはゲーフラっぽいものを掲げている人もいた。どうやら酒井のファンのようだ。子どもたちも沢山いる。こういう触れ合いが、地域にサッカーを根付かせていくのだ。
Jリーグの理念のひとつである、「日本サッカーの水準向上及び普及促進」は、ゆっくりだが確実に日本に浸透してきている。ここ数年の福島ユナイテッドの試合を見ていても、それを実感できる。チームが、そしてそれを取り巻く人々が、着実に成長していることを肌で感じ取ることが出来るのだ。
日本代表の成績だけがサッカーではない。
ボールを蹴る風景がそこにある事こそが、サッカーなのだ。