たっぷり現金があれば、イヤな客からのクソ案件を断ることができる。
しばらく収入がなくなったとしても、
優良顧客からの美味しい案件が入るまで、貯金で食いつなぎながら待てばいい。
現金持ちの企業が断ったクソ案件は、現金のない企業が苦しみながらこなすことになる。
思わぬチャンスが訪れたとき、現金がなければ、そこに優秀な人材をアサインすることができない。
ろくに現金のない企業は日銭を稼がないと潰れてしまうから、優秀な人材を、日銭を稼ぐための案件に投入してしまう。未来を切り拓く案件に優秀な人材を投入できないのだ。
不運に備えるには大量の現金が必要だし、
幸運に備えるにも大量の現金が必要だ。
不確実性の時代には、不運と幸運の両方の量が多くなる。
だからより多くの現金を保有した企業が有利になる。
どんどん世界の不確実性は増し、未来はますます予測が難しくなっている。
リーマン・ショックを、誰が予測できただろうか?
スマホの急速な普及を、誰が予測できたろうか?
中国バブルがいつ崩壊するのか、誰が予測できるだろうか?そもそもあればバブルなのかどうか、誰に区別がつくというのか?
いまだかつて無いほど不確実な時代には、いまだかつて無いほどたくさんの現金を、企業は貯めこまなければならない。
企業が現金を溜め込むから景気が悪くなる?
そうかもしれない。
しかし、ゲームのルールが変わったのだ。
「現金を貯めこむ企業の方が有利になる」というルールになったのだから、
現金を貯めこまない企業はどんどん不利になるだけだ。
企業は、社会全体の景気を良くするために、自社の未来を捨てなければならないのだろうか?
日銭を稼ぐのに精一杯のクソ会社に転落しなければならないのだろうか?
儲かった金を労働者に分配せずに溜め込んでしまう企業は、
社員の士気が上がらないし、優秀な人材も集まらないからうまくいかない?
もちろん、儲かっているのに、市場価格よりもはるかに低い賃金しか払わない企業はうまくいかないだろう。
しかし実際には、一部の優秀な人材にだけは多めに払った方がいいだろうが、
それ以外の人材の賃金は、市場価格にやや色をつける程度に抑えておいた方がいい。
それ以外の利益分は、会社に貯めこんでおいた方が、結局は明日に繋がる。
たまたま今儲かっているからといって、宵越しの銭は持たない江戸っ子のように、気前よく社員に分配してしまうような会社に未来はない。明日はどんな嵐になるとも分からない時代だというのに。
現金で貯めこむより、どんどん投資した企業の方がうまくいく?
かつて未来が予測しやすい時代はそうだったかも知れない。
現金を貯めこむより、現金を効率よく投資して利益を生み出す企業の方が、優良企業とされた時代があった。
しかしながら、時代は変わり、ゲームのルールが変わったのだ。
状況が変われば投資は無駄になりやすい。
現金のほうが、はるかに状況変化に強い。
もちろん投資も引き続き重要だが、かつてよりも現金の重要性がはるかに上がっている。
現金預金と投資の最適比率が変わったのだ。
投資を減らし、現金を増やさないと、今の時代、そして、次の時代に適応できない。
ほんとうに、企業が現金を貯めこむこと自体が、非難されるべきことなのだろうか?
それによって景気に悪影響があるとしても、それは国の金融・財政政策で対処すべきものであって、「企業に現金を貯めこむな」というのはスジ違いなのではないだろうか。
それによって労働者の平均賃金が下がるとしても、それは国が福祉の充実など別の手段で対処すべきものであって、「企業に現金を貯めこむな」というのはスジ違いなのではないだろうか。
それによって投資が減るとしても、その分、企業は幸運と不運に対する対応力が上がるのだ。
結局南極、誰がどんな主張をしようが、
幸運と不運の総量が増大する不確実性の時代は、
企業だろうが、個人だろうが、十分な現金を貯めこんだプレーヤーが圧倒的に有利になる。
そういうルールのゲームになってしまっている。
この現実は変えようがないのではないだろうか。