【パリ=竹内康雄】フランス南部ニースで起きたトラックによるテロ事件で過激派組織「イスラム国」(IS)は16日、犯行声明を出した。カズヌーブ仏内相は同日、射殺された実行犯について「過激化が急速に進んだようだ」と表明。仏捜査当局は今回のテロが「ローンウルフ(一匹おおかみ)」型の犯行だった可能性を視野にISとの関係を調べている。
IS系通信社とされる「アマク通信」は「実行者はISの戦士だ。ISを攻撃する国の人々を標的にするよう求めた(ISの)呼びかけに応じた」と報道。モハメド・ラフエジブフレル容疑者(31)とISの具体的つながりは分かっていない。
仏政府は16日、国防関連の閣僚会議を開催。仏政府は「恐らくイスラム過激派とつながりのあるテロリストだ」(バルス首相)との見方を強めている。捜査当局は容疑者がISとのつながりがあったのかを確かめる材料としてテロが単独犯だったのか、共犯者がいたのかを重視。容疑者の離別した妻を含む5人を拘束し、事情を聞いている。
仏情報機関も容疑者の出身国のチュニジア当局も、容疑者を危険人物として監視対象にしていなかった。ニース市の容疑者宅の近隣住民は、容疑者がイスラム教らしくない格好をするなど「信心深く見えなかった」と仏紙に説明。ロイター通信によると、容疑者は2005年にチュニジアから渡仏する前、精神面の治療を数年間受けていた。
カズヌーブ内相は16日、「ISの訓練を受けていなくてもISの思想に感化され、極度に暴力的な行為に走る人もいる」と、容疑者もこの例に当てはまると主張。ルドリアン仏国防相は「ISがテロを組織しなくても、ISは誰かにテロリストの精神を抱かせられる」と指摘した。今回は武器に比べて簡単に手に入るトラックをレンタルして凶器にした。一匹おおかみ型テロはちょっとしたきっかけでテロリストになれる怖さがある。
リゾート地として知られる仏南部には地中海を越えてくる移民が多く、住民との間で衝突が起きている。中心都市マルセイユは人口の3割近くをイスラム教徒の移民が占めるが、住民を巻き込む暴力事件も増えている。
ニースやマルセイユを含む地域の失業率(16年1~3月)は11.4%。パリを含むイルドフランス地域の8.8%より高い。住民には「移民が職を奪っている」との反感が生まれやすい。この主張で勢力を伸ばしているのが極右政党・国民戦線(FN)だ。同党が下院で持つ2議席はいずれも仏南部の選挙区だ。
その一人で、FN党首ルペン氏のめい、マリオン・マレシャル・ルペン氏は16日、ツイッターで「国外で罪を犯した外国人がどうしてフランスに住める権利があるのだろうか」と疑問を呈した。ある専門家は仏テレビに「移民や移民系のフランス人が疎外感を覚え、過激思想に流れる環境はある」との見方を示した。