3万年前の渡航を検証 “草の舟”で実験航海

3万年前の渡航を検証  “草の舟”で実験航海
十分な道具もなかったとされるおよそ3万年前に、人類はどのようにして今の台湾から沖縄に渡ったのか検証しようと、日本人のルーツを研究している国立科学博物館などのグループが、当時を想像して作った“草の舟”で沖縄県の与那国島から西表島まで実験航海に挑んでいます。
沖縄県の与那国島から西表島までおよそ75キロの実験航海に挑んでいるのは、国立科学博物館で人類史研究グループ長を務める海部陽介さんらのグループです。
グループでは、十分な道具もなかったとされるおよそ3万年前の状況を想像しながら長さ6メートル余りの“草の舟”を作り、2そうの舟にそれぞれ7人ずつが乗り組んで、17日午前7時ごろ、与那国島の海岸を出発しました。
グループによりますと、近年、沖縄の島々ではおよそ3万年前の遺跡が相次いで見つかり、人骨のDNAの分析から中国南部など南方の地域から渡ってきた可能性があることが分かっていますが、木を加工できるような石器なども出土していない時代に人類がどのようにして海を渡ったのかが大きな謎になっています。
このため、グループでは、島に自生しているガマという名前の草を乾燥させ、植物のつるで束ねる方法で舟を造り、十分な道具がなくても外海を渡ることができるか実験によって確かめることになりました。
当初は今月12日の出発を予定していましたが、台風1号が通過したあと風が強く波も高い状態が続いていたため、出発が5日間、延期されていました。
グループによりますと、舟のスピードは時速2~3キロと見込まれ、西表島までは少なくとも30時間はかかる見通しで、順調に進んだ場合、到着は18日の午後になるということです。

こぎ手に地元の人20人も参加

今回の実験航海には、人類学者や考古学者、探検家など20人余りの専門家からなる研究グループと、舟のこぎ手として、地元の与那国島と西表島に住む人たちなど20代から40代のおよそ20人が参加しています。
グループのメンバーやこぎ手の人たちは、17日午前5時に与那国島の海岸に集合し、風や波の様子を見ながら、出発が可能な状況であることを確認していました。そして、全員で円陣を組み、代表の海部さんが「3万年前の人たちの航海がどのようなものだったのか検証する準備が整いました。非常にたくさんの人たちに応援や支援をいただいています。それを胸になんとしても西表島にたどり着きましょう」と呼びかけて、実験の成功に向け、気持ちをひとつにしていました。
午前6時ごろ、完成した2そうの“草の舟”を海に進め、舟がしっかりと海面に浮かぶと、グループのメンバーやこぎ手の人たちからは大きな歓声が上がっていました。

こぎ手「3万年前に思いはせ頑張る」

舟のこぎ手として参加する、地元与那国島に住む入慶田本竜清さん(33)は出発を前に、「草刈りから舟づくりに携わり、やっと出発できる準備が整い非常に楽しみです。3万年前の人たちがどんな航海をしたのか思いをはせながら、西表島にたどり着けるよう頑張って舟をこぎたい」と話していました。

研究者「検証の材料に」

研究グループの代表を務める国立科学博物館人類史研究グループ長の海部陽介さんは出発を前に、「ようやく風もおさまり波も穏やかになって、待ちに待った出航がかなった。こぎ手の人たちに頑張ってもらい、“草の舟”でなんとしても西表島に到達して、3万年前の人々の航海がどのようなものだったのか、検証する材料にしたい」と話していました。