木村草太の憲法の新手(36)「安倍首相ラジオ事件」 出演拒否 情報多様性失う

2016年7月17日 10:01 政治 参院選2016 注目 木村草太
木村草太氏

木村草太氏

 7月10日実施の参議院議員選挙で自民・公明・おおさか維新など「改憲勢力」が衆参両院の3分の2を占めたと騒がれている。しかし、各党の改憲提案の内容は全く性質が異なる。焦点の憲法9条改正、緊急事態条項新設についても、公明・おおさか維新両党は消極的ないし反対の立場を明示している。具体的な改憲内容で合意を得るのは、かなり困難だろう。

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 また、沖縄で現職大臣が落選した意味は大きい。政府は、基地負担軽減の具体的計画を立てるべきだろう。

 ところで、今回の選挙をめぐる報道で、一つ残念な事件があった。安倍晋三自民党総裁が、ラジオの選挙特番への出演を拒否したのだ。

 テレビやラジオの選挙特番では、各党の幹部がインタビューを受ける。これまでは、安倍総裁も、ラジオ各局の選挙特番でインタビューに応えてきた。各ラジオ局は、ラジオは目の不自由な人にとって貴重な情報源であることを強調し、再度、取材を申し入れた。しかし、安倍総裁はニッポン放送の代表取材のみ受けると回答した。このため、他局は、その様子を放送することしかできなかった。

 まず、そもそもラジオの軽視は不当な態度だ。各局が主張した通り、ラジオは目の不自由な人の重要な情報源だ。また、ラジオは映像がない分、言葉で分析する時間が長く、テレビとは異質の報道ができる。ラジオが政権与党党首・首相に取材できなくなれば、国民が得られる情報の多様性が失われる。政権与党は、多様なメディアの前で、説明責任を果たすべきだ。

 また、特定の放送局の代表取材のみを受ける態度も、問題である。代表取材を担当したのは、ニッポン放送アナウンサーの飯田浩司氏とジャーナリストの長谷川幸洋氏の二人だった。

 長谷川氏は、自身のコラムでも安倍政権支持を表明しており、その質問内容は、「中国艦の領海侵入にどう対応するか」、「憲法改正の段取りはどのように考えているか」などであった。安倍政権の経済政策・自民党憲法草案・安保法制についての批判を踏まえた質問や、沖縄での現職大臣が落選について切り込む質問はなかった。

 もちろん、政権を支持する立場からの取材も重要であり、ニッポン放送や長谷川氏の取材そのものに問題があったわけではない。しかし、そうした方向からの取材しか受けない安倍総裁の態度は、自身への批判から逃避する卑劣な態度と見られてもやむをえまい。

 代表質問の際に、唯一、安倍総裁に対する厳しい質問があった。なぜ、ラジオが代表質問のみになったのかについて問うたのだ。安倍総裁は、総裁と副総裁との役割分担でそうなった、という趣旨の簡単な回答をするだけで、次の質問に流れていった。なぜそのような役割分担がなされたのかが問われているのに、全く答えになっていない。

 今回の選挙では、投票前の党首討論などの機会が少なく、選挙の争点が国民には見えにくかった。メディアは、国民に情報を届けるために存在する。国民もメディアも、そのことを自覚し、権力とメディアの適切な関係を実現する必要がある。(首都大学東京教授、憲法学者)

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沖縄選挙区 ※届け出順

金城竜郎氏(52)
新人・幸福実現党沖縄県本部副代表=幸福実現党公認
【政治家を志した理由】 2009年の衆院選に初めて立候補。中国の軍事的な台頭や、北朝鮮の核ミサイルの脅威など、日本を取り巻く国際情勢は緊迫度を増すなか、政府は具体的な国防政策が打てず、このままでは日本の、そして国民の平和と安全が守れないと思い、政治家として立つことを志した。 » 政策はこちら

島尻安伊子氏(51)
現職・沖縄担当相=自民公認、公明推薦
【政治家を志した理由】 自ら4人の子育てをしながら行政サービスへの疑問や提案があり議員として政策を立案、実現させたいと思った。 » 政策はこちら

伊波洋一氏(64)
新人・元宜野湾市長=無所属
【政治家を志した理由】 20年前の沖縄県議選が初挑戦だが、島袋宗康参議院議員(当時)から背中を押され、当時の大田県政与党多数を実現するため3議席となった宜野湾市区から挑戦した。当時、中部地区労事務局長を経て市役所に戻った直後で、行政経験を活かして住民福祉と街づくり、基地問題を中心に政治を志そうと決意した。 » 政策はこちら

比例代表(沖縄県出身)

今井絵理子氏(32)
女性グループ「SPEED」のメンバーで歌手=自民
【政治家を志した理由】
無回答

真栄里保氏(59)
共産党県委員会常任委員=共産党
【政治家を志した理由】 県外の大学に進学し、沖縄の置かれている不条理な現実を知ったことが政治家を志したきっかけです。今回の選挙は、沖縄県民の民意をふみにじって基地を押しつける安倍政権に対して、沖縄の尊厳を示す選挙だと思っています。辺野古新基地にきっぱりノーの意思を示し、オール沖縄で普天間基地の閉鎖・撤去を実現します。 » 政策はこちら

儀武剛氏(54)
前金武町長=おおさか維新
【政治家を志した理由】 二十歳と四十歳の2回にわたり、日本縦断ヒッチハイクを経験。日本各地の良さ・違いを体感したことから、日本の元気をつくるためには地方から元気にならなければならないと実感した。そのために金武町長選挙にチャレンジし、今日に至る。 » 政策はこちら

ボギーてどこん氏(52)
コミュニティーFMパーソナリティー=日本のこころを大切にする党
【政治家を志した理由】 交通安全活動、13年のPTA活動を通じ培った公共心、教育への知識を「国家百年の計は教育にあり」という思いから、この国の未来を担う子供たちをどう育てて行くかを真剣に考え、そしてこの国を子供たちに残すことを考えたこと。 » 政策はこちら

参院選2016特設ページ ― 候補者一覧

木村草太の一覧

木村草太氏(きむら・そうた)。憲法学者、首都大学東京准教授。1980年横浜市生まれ。2003年東京大学法学部を卒業し、同年から同大学法学政治学研究科助手。2006年から首都大学東京准教授。法科大学院の講義をまとめた「憲法の急所」(羽鳥書店)は「東京大学生協で最も売れている本」「全法科大学院生必読書」と話題となった。主な著書に「憲法の創造力」(NHK出版新書)「テレビが伝えない憲法の話」(PHP新書)「未完の憲法」(奥平康弘氏と共著、潮出版社)など。2015年4月からテレビ朝日「報道ステーション」に出演。

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