2016年7月15日(金)
前回に引き続き、好評放送中のTVアニメ『ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン』についてお話を伺うインタビュー後編。ワーナー・ブラザーズ・ホームエンターテイメントプロデューサーの中山信宏氏、監督の市村徹夫氏、そして原作者である宇野朴人氏に、キャラクターやキャストについてお話を聞いた。
原作は電撃文庫のエンターテイメントノベルで、英雄嫌いの怠け者だが、後に智将と呼ばれるイクタ・ソロークと、その幼馴染であり名家出身のヤトリシノ・イグセムを中心に、渦巻く戦乱の嵐へと立ち向かっていく物語だ。
profile:
宇野朴人 小説家。大学在学中に『神と奴隷の誕生構文』にてデビュー。現在は『ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン』を執筆中。同作は自身のアニメ化初タイトルとなる。その他の代表作に『スメラギガタリ』がある。
市村徹夫 監督、演出家。GONZOにて様々な作品に携わり、その後フリーに。携わった作品に『神様のいない日曜日』『姉ログ 靄子姉さんの止まらないモノローグ』『NORN9 ノルン+ノネット』など。『天鏡のアルデラミン』はTVシリーズ初監督となる。
中山信宏 プロデューサー。ワーナー・ブラザース ホームエンターテイメント所属。これまでの代表作に『とある魔術の禁書目録』『ロウきゅーぶ!』『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』『GATE 自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』などがある。
――前編ではキャラクターのお話が出ましたが、そのあたりの魅力もお伺いできますか?
市村監督 似通ったキャラクターがいないんです。それぞれが非常に立っているので、そこがこの作品の強みだと思いますね。メインキャラが6人いますが、ゲストキャラが絡んできても関係性がブレないので、そこが面白くする要素になっているかと。
――宇野さんは、前編にて本作がキャラクター小説でもあるとお話されてましたが、キャラクター同士の関係性というのはかなり意識されているのですか?
宇野先生 「6人揃った騎士団」という、ある種の最小単位の魅力もあると思っているんです。要するに戦記物は周りの環境が厳しい状況ですから、ではその分仲間の空間感を居心地が良いものにしないといけないというのは、最初にありました。
――ある種、理想的な仲間感があると。
宇野先生 6人仲間がいたら、仲間割れという展開は割とよくあると思うのですが、『アルデラミン』では基本そういうところには話を振っていないんです。中盤以降はもちろん亀裂もあるのですが、普段の人間関係は安定しているんですよ。
市村監督 それは宇野さんの人柄みたいなのが出てるのかな、と思います。トルウェイにしろマシューにしろ、ウィークポイントだと自分で思っているところを、主人公のイクタは長所だと考えている。でも、彼はあまり人前で褒めたりはしないんですよ。そのあたりのちょっとシャイな部分は宇野さんに似ている気がします(笑)。
――キャラクターもののオーソリティーでもある、中山さんとしてはいかがでしょうか?
中山P それぞれの性格がピーキーではなく、リアルなので、キャラクターものとしては難しい部分もあるんです。でも一方で、自分の役割を持ちつつ、他人の補完をしていくというバランスで成り立っている魅力がある。であれば、会話シーンは尺的に厳しくてもちゃんと残して、活かしていこうという話はしました。そこでしっかりとキャラをしっかり見せていこうと。
市村監督 キャラクターに血が通っている感じがするんですよ。そういう意味ではこれまで辿ってきたキャラクターの歴史において、ある種先祖返りをしているところがあるかと思うんです。
――どういう意味でしょうか。
市村監督 昔と今とでは、キャラが全く別物じゃないですか。昔は、ライバルや自分より精神的にも強い敵と戦ったり、自身の未熟な部分を乗り越えていったり、そういう作品性が多かったように思うんです。でも、今はキャラクターそれぞれが持つ要素や役割に終始した作品が多いような気がします。むしろ成長しないキャラが良いとすら言われる時代だと思うんです。
――いわゆる「日常系」と呼ばれるような作品は、変わらない毎日が視聴者にとって心地いいと言われることもあるようですね。
市村監督 そういう意味では『アルデラミン』は王道と言いますか、昔からの流れなんですね。ですから、今のキャラクターが好きな層にどうアピールするのかというところは悩ましい部分です。
――そもそも主人公のイクタからして、少し変わった主人公なんですよね?
宇野先生 確かに、彼の良さが視聴者に伝わるかがポイントになるような気はします。
市村監督 女好きで、怠惰ですしね(笑)。でもぼんやりしている時と、戦術について語り始めた時のイクタとで、違って見えるようにはしているつもりです。そのあたりは、どうしてそうなるのかというところも理由がありますので、段々魅力が分かるような深いキャラとして掘り下げていければと。
宇野先生 「イクタはヤトリが大事」なんです。そこだけ心に留めておいていただければ、イクタの行動も分かりやすいのかなと思います。
――戦記物ということで戦争の描写も多々あると思うのですが、そのあたりの工夫はいかがでしょうか。
市村監督 キャラの魅力を引き出そうとすると、戦争描写に割く尺がなくなるということが一番難しいですね。でもそこは「キャラの後ろで展開していく戦争」にしようと決めました。
――キャラの後ろ、というのは?
市村監督 主要キャラクターに戦いを任せて、その後ろで大きな戦いを見せていこうと思っているんです。銃であればトルウェイに、剣であればヤトリに見せ場を作っていこうと。
――宇野先生としては、その方向性はありなのですか。
宇野先生 むしろ僕自身がそういう作り方をしています。戦記物における戦争の魅力というのは、あらゆるところにあるんですよ。後方で補給がどうなってるか。衛生兵がどう治療しているか。そういうところは、全部面白いんです。そこをあえて、キャラクター性を強めて、取捨選択するんですね。難しいところでもあります。
――中山さんはいかがですか? 戦記物というジャンルは、おそらくアニメ業界の中でもそれほど手がけられてる方は多くないと思うのですが。
中山P 個人的には撤退戦をやりたいんですよ。
――イクタたちが活躍する活劇ではなくてですか?
中山P ええ。僕は撤退戦って魅力的だと思うんです。たまさか今回のアニメの範囲では、そのテイストもあるので、個人的には楽しみなんですよ。あまり詳しくはお話できないんですが、この物語は全編を通して滅びていくものの儚さや美しさがある作品なんです。でもその歴史の大きなうねりの中で、なさなきゃいけないことをする。カッコいいと思うんです。
宇野先生 確かに、壮大な負け戦の話って側面も結構あるので。
中山P そう! ワクワクしませんか? 僕は古いのですが『ヴイナス戦記』が好きなんです。あれも実は負ける話なんですよ。
宇野先生 自分も同じなのですが、なかなか共感はしてもらえない(笑)。
市村監督 滅亡していくロマンみたいなのがあるんじゃないですかね。
宇野先生 私は滅びそのものではなく、滅んでいく世界の中でそれでも戦い続けた人々に尊さを感じるところが大きいです。それは多分、この作品の根底にあるもののひとつですね。
――では撤退戦がお好きな方は必見である、と(笑)。
――少し別のタームのお話ですが、キャストについてもお伺いできればと思います。アフレコが進んでいますが、実際に声を聞いてみて推しキャラができたりしましたか?
市村監督 推しキャラですか?(笑)。みんな好きですが……うーん……サリハ。
――サリハというと、トルウェイのお兄さんですね。キャストはどなたになるのでしょう。
市村監督 子安武人さんですね。もの凄く人間臭い小物なんです。そういう面でいちいち身につまされます。メインキャラがもちろん立ってるからこそ、ゲストキャラが面白いのですが……。特にイクタ役の岡本(信彦)さんは良い意味で力が抜けてきているので、だんだんイメージにあるイクタと近づいてきました。後半戦が楽しみですね。
中山P 主人公だからカッコよくなりがちなのを、どれだけ崩していけるかという戦いだったかと思います。
――宇野さんはアフレコの印象としてはいかがですか?
宇野先生 やっぱり一番インパクトに残ってるのはサリハ兄様なんですけど(笑)。
市村監督 レミオン三兄弟は凄いですよね。あの弟(スシュラ)の声の渋さといい……(スシュラの担当は武内駿輔氏)。
一同 (笑)。
宇野先生 メインキャラに戻すとマシューですね。ハマり過ぎてて何も言うことがないです(笑)。
市村監督 マシューは後半もっと弾けていいかなと思ってるんです。間島淳司さんの芝居のレンジは広いので、要求すればどんどんやっていただけるだろうと。だからそこを発揮できる尺をあえて作っておこうと思っています。面白くなってくれればくれるほど、後半、見せ場がありますから。
――ちなみにアフレコで面白かったエピソードなどありますでしょうか。
中山P 「ロイヤル感」ですね。シャミーユに対して、「王族としてのオーラが欲しいよね」という話をしていたら、音響監督の岩浪(美和)さんが、「ロイヤル感が欲しいな」と水瀬(いのり)さんにおっしゃったんです(笑)。
――それは不思議な言い回しですね(笑)。
中山P しかし水瀬さんはそれを上手く解釈してくださって。セリフ回しだけではなくて、ブレスの入れ方、どこにイントネーションを置くかといった微妙なことで全然変わって来るのですが、そこを水瀬さんは非常に良い形で解釈していただけたなと。だから「ロイヤル感」は乗ったなと思います(笑)。
市村監督 水瀬さんは上手いですよ。
中山P それと、またサリハですが、子安さんに「もう少し小物感をください」と言った時「あ、じゃあ、いやらしい爬虫類みたいにですね」と話されていたのも面白いなと(笑)。
市村監督 あとはやっぱりヤトリですかね。イクタに次いで難しいと思います。
宇野先生 ヤトリは珍しいヒロインだと思うんですよ。
――少なくともあまりキャピキャピしたようなキャラクターではないですよね。
宇野先生 ええ。可愛らしいシーンがヤトリは少ないので……。でも、魅力のあるキャラだと思っているんです。他の人に対して敬意を示す時の、その姿勢が良いなと思っています。キャラクターとして好きになってもらえると嬉しいです。
市村監督 ヤトリは一本調子というわけでもないんです。ある側面ではこういう表情で、みたいな微妙な部分をリアルに描いているつもりなので、種田(梨沙)さんは岡本さんと協力しながらキャラを作っていってもらえるといいなと思いますね。
中山P ちなみに、ハロに対しては僕が毎回余計なことばっかり言ってます。頑張って演じてもらってますよ。
市村監督 この間、ハロ役の千菅(春香)さんと話したのですが、ハロっぽかったです。
中山P 若干、天然ですからねえ…(笑)。千菅さんは、役に向き合った時に相当入り込むタイプみたいなんですよ。それを「この現場で少し変えたい」というようなことをおっしゃっていました。ハロのような役はあまりやったことがないようです。
――千菅さんの中でもチャレンジをされているのですね。
市村監督 リラックスしてやっていただければ、良い感じになるのではと思いますね。
中山P あとトルウェイの金本(涼輔)さんはまだあまりアニメのご経験はないのですが、凄くいいですね。
市村監督 聞いた瞬間に「金本さんはトルウェイだ!」と思ったんです。キャラ性と合致してる方なんで、アニメでは新人に近いかもしれませんが、違和感なくやれてると思うんですよね。
中山P ずっとナレーション畑だったそうなんです。今回たまたま担当の方にトルウェイの方向性を提示したら、オーディションに入ったんですよ。ですからレギュラーの現場はまだあまりない方なんです。
市村監督 「メインキャスト初めてです」と、ドラマCDのフリートークの時もおっしゃっていました。原作を凄く読み込んでくださってましたよね。
宇野先生 読み込んでくれてるんですよぉ(笑)。
中山P あの嫌味のないフラットなトルウェイを、視聴者の方にも見てもらいたいです。
――キャストの皆さんのお芝居も楽しみです。では、最後に作品に対する意気込みをお伺いできますでしょうか。
中山P これまでインタビューでお話してきたことや、音楽や音響も含めて高いレベルでできあがっている自信があるので、ぜひ見ていただきたいです。あとは戦記物としてシリーズを通して追いかけていただけると、イクタたちの物語として一貫した面白さが見えてくるのではと思います。
宇野先生 ここまで来てしまえば私がでしゃばれるところは特にないのですが……。あとは完成に至るレールが敷かれていると思うので、迂闊なことをしてそれを脱線させないようしたいですね。声優さんの演技も含めて、素直に伸びていってもらえるように、一歩引いたところで祈っていたいです(笑)。
市村監督 1話をもちろん楽しんで欲しいのですが、そこで面白いなと思っていただけるのなら、ぜひ4話まで見ていただけると嬉しいです。そして4話まで見ていただけたら5話もぜひ……(笑)。
――そのあたりで一つの区切りになっているのですか?
市村監督 前半戦が5話までなんです。そこにひとつのピークを持って来るようにお話を作っています。そこまでなんとか見ていただけるよう、1話を頑張って作っています。少しでも興味を持ってもらえたら、見ていただけると嬉しいです。よろしくお願いします!
■TVアニメ『ねじ巻き精霊戦記 天鏡のアルデラミン』
【放送情報】
TOKYO MX……毎週金曜25:05~
サンテレビ……毎週日曜24:30~
KBS京都……毎週日曜23:00~
テレビ愛知……毎週日曜26:05~
BSフジ……毎週日曜25:30~
AT-X……毎週月曜24:00~
(※AT-Xリピート放送は毎週水曜16:00、毎週土曜8:00、毎週日曜21:00)
【スタッフ】(※敬称略)
原作:宇野朴人(電撃文庫刊)
原作キャラクター原案:さんば挿
原作イラスト:竜徹
監督:市村徹夫
シリーズ構成:ヤスカワショウゴ
アニメーションキャラクターデザイン・総作画監督:香月邦夫
音響監督:岩浪美和
音楽:井内啓二
アニメーション制作:マッドハウス
【出演声優】(※敬称略)
イクタ・ソローク:岡本信彦
ヤトリシノ・イグセム:種田梨沙
シャミーユ・キトラ・カトヴァンマニニク:水瀬いのり
トルウェイ・レミオン:金本涼輔
マシュー・テトジリチ:間島淳司
ハローマ・ベッケル:千菅春香
(C)2015 宇野朴人/KADOKAWA アスキー・メディアワークス刊/天鏡のアルデラミン製作委員会
[集計期間2016年 07月08日~07月14日]
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