オーロラの光はどこからやってくるのか? 江戸時代には日本全国でオーロラが見られた? ――驚きと興奮に満ちた研究を現場の熱気そのままに、最新の知見とともに分かりやすく伝える、ユニークなオーロラ入門書『オーロラ!』(岩波科学ライブラリー)が昨年10月に上梓された。ロマンチックなだけじゃない、宇宙スケールのオーロラの魅力について、著者の片岡龍峰氏にお話を伺った。(聞き手・構成/大谷佳名)
オーロラの本当の姿を見る
――本書では最前線のオーロラ研究の数々が紹介されていますが、ここ数十年の技術の進歩でオーロラ観測も大きく変わってきたんですね。片岡さん自身も研究のためにアラスカに何度も行かれていますが、現場での苦労が伝わってきました。観測はどのようになされているのですか?
僕はいつも現場突撃型で、頭と体を全力で使って、大自然の中を冒険する気持ちでやっています。部屋の中でやる研究も面白いのですが、やはり現場に出かけていくのはすごく楽しいです。誰も見たことのないものが見えてくるので。現地に行っている間しか試行錯誤はできないので、そのときに今まで勉強してきたこと、準備してきたものをすべて使って、全力で挑むんです。
気温もマイナス30度とか、めちゃくちゃ寒かったりします。そんな中で1〜2時間待ちぼうけになることも当たり前です。
それに、アラスカは昼が短くてあっという間に暗くなるので、コードに引っ掛かって転んだりとか、作業が大変になりますし、機材をセッティングしている間にオーロラが出てきちゃうこともあります。そういうときに、どう判断するかでデータのクオリティも変わってくるので、かなり集中力が必要です。暖かい室内でゆっくりお茶を飲んでいる暇はありません。
また、地面に穴を掘ってロボットを埋めたりもするので体力仕事でもあります。気温が極端に低いと高感度のカメラは壊れてしまうため、カメラを内蔵する頑丈な実験用ロボットを作って観測する必要があるのです。
――高速カメラでオーロラを観測されているとのことですが、なぜ高速カメラが必要なのですか?
オーロラは悠然と動いているように見えて、実は目にも見えないスピードで生き物のように激しく動いているんです。移動したり、点滅したり、分身の術をしたり。なぜそれほど速く動くのか、その動きは予測できるのか、その仕組みはまだ謎です。僕はオーロラの本当の姿を知りたくて、こうした研究をしています。
――撮影のコツはありますか?
明るいオーロラであれば撮影はしやすいのですが、暗いオーロラは光の量が少ないのでカメラで撮影するのはなかなか大変です。普通のカメラでオーロラを撮るときは1~10秒くらいシャッター開けっ放しにして、光をたくさん集めて綺麗な写真にするのですが、僕の場合は1秒に1000枚くらいの写真を撮るからです。
人間の目の性能の10〜100倍というカメラで、流れるような光の動きをより正確に捉え、ダイナミックなオーロラそれ自体を極限まで追求するのは、なかなか奥が深くて面白いです。

北極での調査
オーロラの光の源は宇宙からやってくる
――一般的にオーロラは寒いところで見られるイメージがあります。
実は、オーロラの発生に気温は関係ありません。なぜ北極や南極など緯度の高い地域で見られるのかというと、地球の自転する軸と磁石の軸(地球の磁場の軸)がたまたま同じ方向になっているからです。オーロラが作られるのは、磁場の軸の近くの宇宙空間で起こる発電が原因です。
――オーロラは宇宙で作られているんですね。
はい。宇宙と大気の境目で光っています。そもそもオーロラは何が光っているものなのかというと、これは虹のような太陽光の反射や屈折ではなく、地球の大気そのものが発光しているのです。空は100~400㎞くらいの高さまでいくと真っ暗でほとんど真空ですが、ギリギリ大気の残りはあって、そのわずかな大気が電気を受けて発光しています。
――よく理科の実験で虫眼鏡で虹を作ったりしますよね。もしかして、オーロラも作ることができるのですか?
小さなオーロラなら作ることはできます。真空に近い大気を閉じ込めてレンジでチンすれば、ピンク色のオーロラの光が出来ます(と、テレビで見ました)。窒素分子がエネルギーを受け、またすぐに元に戻りたいという衝動に駆られて発光するんです。
さきほども言ったように、実際のオーロラの発生には宇宙の発電事情が関わっています。仕組みは非常に複雑ですが、一つ一つの要素はそれほど複雑ではありません。
簡単に図式化すると、前提として地球は磁気(地磁気)を帯びています。そこに、「太陽風」という太陽から来るプラズマの風が吹いてきます。これが重要なのです。地球の磁気バリアは太陽風を防ぐ働きがありますが、このときの相互作用により地球近くの宇宙空間で電流が発生します。この電流を担う電子が地球の磁石の軸(磁場の軸)の近くに集まったときにオーロラが現れるのです。
とくに太陽の爆発(太陽フレア)が起こって太陽風が激しさを増すと「磁気嵐」という地磁気の乱れが生じ、オーロラも活発になります。
宇宙の影響から、過去・未来を考える
――本書で紹介されていた、プラネタリウムで3Dのオーロラを上映するという取り組みがとても印象に残っています。
以前取り組んでいた「オーロラ3Dプロジェクト」では、科学技術館のシンラドームというデジタルプラネタリウムや、上野の国立科学博物館の特別展「ヒカリ展」で3Dメガネを使って立体のオーロラが見られるような展示を行いました。これは、アラスカで離れた2地点から撮影した映像を立体視するという試みです。

3DオーロラのVR展示(国立極地研究所 南極・北極科学館)
オーロラ研究のはじまりは今から100年くらい前です。それは、オーロラの高さを調べるというものでしたが、考え方としては、離れた場所からオーロラを見ると像が異なるので、それを利用して高さを逆算するというものです。
オーロラを立体視することも、左右の目でオーロラとの距離感を掴むということですから、基本的には同じ仕組みです。研究の成果として、広い範囲のオーロラの高さや奥行きをいっぺんに調べることのできる立体視測定法をつくることができました。

出典:「Aurora3D全天周立体オーロラ」 http://aurora3d.jp/aurora3d/
――立体視測定法を使ってどのようなことが分かるのですか?
オーロラの高さ分布を求めることができるので、オーロラを光らせている宇宙からの電子が、大気のどれほど深くまで影響を与えているのかが分かります。この測定法を応用して、ハイスピードカメラでも立体視をする実験を行いました。速く動くオーロラがどのくらいの高さで光っているのかを知りたかったからです。実験の結果、オーロラの動きのタイプによって位置が異なることがわかりました。たとえば、点滅するオーロラは100 kmより低い高さで光っていて、オゾン層を破壊する影響があることが分っています。
――オゾン層はフロンガスだけじゃなくて、オーロラでも破壊されるんですか?
オゾン層は高さ30km程度のかなり低い位置にあるので、直接重なることはないのですが、オーロラの電子がフロンガスと同じ触媒効果のある窒素酸化物を発生させているのです。これは一回できるとなかなか消えなくて、どんどん蓄積されて低いところまで降りてくる。すると、触媒作用でオゾン層が破壊されてしまうわけです。
地球の気候は火山活動や海の大循環など、閉じた世界で決まっているのだと思いきや、宇宙の影響を受けているというと、ちょっと世界観が変わってきますよね。
――宇宙と地球とのつながりが身近に感じられますね。
今は宇宙の影響はわずかのようですが、たとえば恐竜がいた一億年前の地球ではどうだったでしょうか。太陽の爆発(フレア)も今より激しく、地球に降り注ぐ放射線も強かったはずです。
すると、さきほど言ったのと同じ原理で、太陽の影響によるオゾン層破壊が大きく進んでいたかもしれません。現在のわずかな宇宙からの影響をしっかり理解すると、過去・未来の地球や宇宙との関わりを考える上での基礎になるんです。
――昔は太陽の爆発が激しかったというのは、どうして分るのですか?
たとえば、太陽からの放射線で被ばくした大気の痕跡が氷の中に残っていたり、数千年スケールだったら年輪の中に影響が記憶されていたり。爆発の影響はまだはっきりと分からないのですが、太陽活動が活発か不活発かということは確実に残っています。屋久杉など長生きの木を調べてみると、年輪は1年に1枚なので、約11年で活発と不活発を繰り返すリズムがはっきりと表れています。
ただ、数億年前となるとなかなか証拠を探すのは難しくて、どうやって調べるのかということ自体が研究になってきます。宇宙の過去の姿を知ろうと思ったら、地球の石を調べたり、地層を調べたり、宇宙とは関係のない分野の専門家たちと共同研究することになります。
そうした学際的な研究を通じて、世界はこうあるんだ、という考え方がより豊かになっていく。科学で一番大事なことだと思います。【次ページにつづく】
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— Synodos / シノドス (@synodos) 2016年6月3日
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