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憲法めぐる発言  「まず変えよう」は違う

 参院選で憲法改正に賛同する勢力が全議席の3分の2を超えたことを受け、与野党幹部からあらためて改憲に関する発言が相次いでいる。この国の在り方に関わるテーマだけに、各党とも国民に開かれた議論と丁寧な手順を踏む必要がある。
 自民、公明両党はきのう、安倍晋三首相と山口那津男代表の会談で「衆参両院の憲法審査会で落ち着いて議論を深めていく」ことで一致した。
 具体的には秋の臨時国会から審査会での議論を加速し、改憲項目を絞り込む構えだ。憲法のどこをどう変えるのか、改憲勢力4党の思惑はそれぞれ異なる。まずは自公で一致点を見いだし、おおさか維新の会、日本のこころを大切にする党の協力を得る流れを描いているのだろう。
 安倍政権下での改憲に反対している民進党に対し、首相は「建設的でない」とあらためて批判し、審査会の議論に加わるよう求めた。民進の岡田克也代表は、立憲主義について首相の考えを明確にするよう注文する一方、議論には応じる姿勢を示している。
 ただ、今回の投票結果が改憲の民意を表すものでないことを押さえておく必要がある。「3分の2」を確保したといっても、そもそも自公は憲法を争点にしなかった。投票率は過去4番目に低い54・70%で、全有権者の半数近くは意思表示をしていない。
 審査会が、現実に国会の改憲発議が可能な環境の下で開かれるのは、前身の憲法調査会の時代も含め初めてのことであり、これまでとは全く次元が異なる。目的や意義が国民に十分に認識されないままでは、個々の条項をあれこれ論じても実は結ぶまい。
 現憲法がこれまでどのような役割を果たし、どこに問題があるのか、今すぐ改正の必要が本当にあるのか、といった国民の疑問に、改憲派は明確に答えねばならない。仲間内で合意しやすい条項を、ともかく「お試し」で俎上(そじょう)にのせるなどというやり方は論外だ。
 改憲を悲願とする安倍首相の党総裁としての任期は2018年9月まで、衆院の任期は12月までだ。もしも巨大与党が本気で走り出したなら、安保法制の時と同様、容易に止まらない可能性がある。
 議論の煮詰まらない中で改憲発議、国民投票となれば、大きな混乱を招くのは英国の欧州連合(EU)離脱の投票でも明らかだ。
 与野党には何より世論の動向をしっかりと見据え、拙速に改憲へ突き進む愚は避けてもらいたい。

[京都新聞 2016年07月12日掲載]

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