ブリッツスケール:
劇的な成長を遂げる唯一の方法

ネットワーク時代は「組織の拡大」が肝になる

私たちはいま、世界中がつながる「ネットワーク時代」を生きている。物流や情報の格差が解消されつつあることで、いつ、どこで競合が誕生するかもわからない。では、この環境下でどうすれば生き残れるのか。ペイパルの創業メンバーであり、リンクトイン創業者のリード・ホフマンは、圧倒的スピードで規模拡大を実現すること、なかでも組織の拡大こそが必要であり、そのためには「ブリッツスケール」が不可欠だと説く。シリコンバレーが生んだ世界的経営者が、スタートアップ企業に欠かせない成長戦略を語る。
『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2016年8月号より、1ヵ月の期間限定で抜粋して公開。

ブリッツスケールで
失うもの、得られるもの

 リード・ホフマンは、シリコンバレーにいる“成熟した大人”の1人だ。ペイパルの創業に関与した後も歩みを止めず、2002年にはリンクトインを創業。これが結果的に、彼を億万長者にした。初期のフェイスブックへ資金拠出した人物でもあり、現在はベンチャーキャピタル「グレイロック・パートナーズ」のパートナーも務める。ホフマンには2冊の著書があり、1つはベン・カスノーカとの共著『スタートアップ!』(日経BP社、2012年)。もう1冊はカスノーカおよびクリス・イェとの共著『ALLIANCE アライアンス』(ダイヤモンド社、2015年)である。


2015年の秋、ホフマンは母校のスタンフォード大学でコンピュータサイエンスの講座を始めた。ともに講師を務めるのはジョン・リリー(グレイロックのパートナーであり、元モジラCEO)、アレン・ブルー(リンクトインの共同創業者)、クリス・イェ(アライドタレントの共同創業者)。講座のタイトルは「技術が可能にした『ブリッツスケール』(電撃的拡大)」である。このインタビューでホフマンは、ハーバード・ビジネス・レビュー・プレスの編集長ティム・サリバンを相手に、「ブリッツスケール」の難しさとリスク、そしてその見返りについて語った。

リード・ホフマン(Reid Hoffman)
リンクトイン 創業者
リンクトインの創業者であり、ベンチャーキャピタルであるグレイロック・パートナーズのパートナー。ペイパルの創業にも関与し、シリコンバレーで最も高名な投資家、起業家の1人。

HBR(以下色文字):基本から始めましょう。「ブリッツスケール」とは何ですか。

ホフマン(以下略):真に劇的な急成長が必要な時に取る手段です。大規模な、そして通常は世界規模の市場に製品・サービスを提供することを目的に、短時間で企業を築き上げるための理論と実践がブリッツスケールです。その最終目的は、一定規模を持つ、その世界の先駆者となることです。

 この種の起業は世の中に大きな影響を与えます。こうして生まれた企業は、例外なく未来の雇用と産業を生み出すのです。たとえばアマゾンドットコムは、一言で言えば「eコマース」という産業を生みました。現在、同社は15万人以上を雇用しており、アマゾン上の売り手やパートナーとして無数の仕事を生み出してきました。またグーグルは、我々が情報を見つける方法に革命を起こしました。そして6万人を超える従業員を雇用し、それよりはるかに多くの仕事をアドワーズとアドセンスで生み出したのです。

 なぜ、急速な成長を重視する必要があるのでしょうか。

 我々はネットワーク時代に生きています。これはインターネットのことだけを言っているのではありません。グローバル化もネットワークの一形態です。グローバル化は物流、商取引、支払い、情報流通にも世界的ネットワークをもたらしました。このような環境では素早く動く必要があります。というのも、規模であなたの会社を打ち負かす競合が世界のどこから出てきてもおかしくないからです。

 ソフトウェアは本質的に、ブリッツスケールに親和性があります。製品やサービスを提供する市場の規模がどれほど大きくなっても、限界費用は実質的にゼロだからです。あらゆる産業でソフトウェアが不可欠の構成要素となってくれば、物事はますます速く動くようになるでしょう。そこにAI(人工知能)による機械学習が加われば、その循環はさらに加速します。ですから今後、我々は多くのブリッツスケールを目にすることになります。そこそこ増えるのではなく、激増するのです。

 最終的にブリッツスケールという言葉を選んだのはなぜですか。この言葉は印象深い別の言葉を連想させます。

 第二次世界大戦につながる言葉「ブリッツクリーク」(電撃戦)を連想させるので、使用をためらったのは確かです。しかしながら、意味的にとても近いため、言葉の指す内容を理解するのに大いに有益です。

 ブリッツクリークという軍事戦術が登場するまで、軍隊は補給線を越えて進撃することはなく、これがスピード面の制限となっていました。しかし、ぎりぎり必要最低限のものだけを持ち運べば非常に素早く動けるため、敵の不意を突いて勝てる──というのがブリッツクリークの考え方です。目指す地点の半分まで来たら、引き返すのか、それとも補給を諦めてさらに進むのかを決めなければなりません。進むと決めたら全身全霊を賭けます。大勝するか大敗するかのどちらかです。

 ブリッツスケールもこれと同様の考え方をします。スタートアップ企業が非常に素早く動く必要があると決断したら、通常の規模拡大で経験する順当で合理的なプロセスよりも、はるかに大きなリスクを負います。

 この種のスピードが必要なのは、攻撃面と守備面でそれぞれの理由があります。攻撃面では、有益な事業にするために一定以上の規模が必要な場合です。リンクトインは数百万人がネットワークに参加して初めて有益になりました。イーベイのようなマーケット事業なら、買い手と売り手の両方が一定規模必要です。ペイパルのような決済事業とアマゾンのようなeコマース事業は利幅が薄いため、巨大な規模の取引量が必要となります。一方、守備面では、最初に製品やサービスを提供できれば顧客を囲い込める可能性があるし、規模のメリットによって「ウィナー・テイクス・モスト」(勝者が大半を手にする)の立場を得られる可能性があるため、競合より素早く規模を拡大したいからです。しかもグローバルな競争環境では、真の競争相手が誰なのかさえはっきり見えているとは限りません。

 規模拡大というのは多面的な概念ではないでしょうか。

 規模拡大には3種類あります。当然ですが、通常はそのうちの2つを重視します。それは「収益の拡大」と「顧客基盤の拡大」です。もちろんこの2つがうまくいかなければ、その他のことは問題外です。ただ、この2つができていても、さらに「組織の拡大」をせずに現場で勝てる企業はほとんど存在しません。企業のサイズと業務遂行能力こそが、顧客と収益を獲得できるかどうかを決めるのです。

 我々は「規模」というものを、桁数の違いに応じた一連のステージだと考えています。家族レベルの企業なら従業員数は一桁。一族レベルなら数十人、村落レベルなら数百人、都市レベルなら数千人の従業員数です。一国レベルの企業なら1万人を超えます。これは概算であり、厳密な指標ではありません。15人程度の従業員がいても家族レベルに留まる企業もあるし、従業員が150人程度になるまで一族レベルの企業もあります。

 資金調達や従業員の採用・維持、製品のマーケティングなどのさまざまな業務のやり方は、ステージごとに激変します。しかしブリッツスケールの場合、そうした変化にどう対応すべきか、という一般的な法則は存在しません。試行錯誤してみずから経験則を得るしかない。決断を下し、飛びながら飛び方を学ぶ際には、経験則こそが頼れる指針になるのです。

 さて、「組織の規模」を決めるのは、厳密な従業員数よりもむしろその企業の性質です。従業員が150人になった瞬間に何かが劇的に変わるわけではありません。また、企業の各部門を同じタイミングやペースで規模拡大させる必要もありません。最初はおそらく、顧客サービスと販売を他部門よりも優先させるでしょう。しかし、そうだとしても、やはりその後は組織の他部門をブリッツスケールさせなければならないはずです。

 結局は、最初から会社全体で考えていくことがどうしても必要です。どこに優れた人材を配置し、どう育てるか。一貫した企業文化をいかに維持するか。社内の意思疎通はどうか。競争環境の勢力図はどう変わっているのか。こうしたことを考えなければなりません。

 スタートアップ企業は、いつブリッツスケールを始めるのでしょうか。

 家族レベルでは通常、事業資金を集めると同時に、どんな製品やサービスを提供するかの詳細を見極めます。この段階ではおそらく、まだ製品を売り出していないでしょう。

 一族レベルになって初めて本当の会社が立ち上がり始めます。ペイパルやインスタグラムのように最初から大ヒット商品があれば別ですが、この段階でブリッツスケールが始まるケースは、皆無とはいえないまでも極めて稀です。一般的には、製品・サービスの複数のバージョンを市場投入し、狙うべきマーケットを確定する段階だといえます。

 それでもまだ、このスタートアップ事業が本当に大がかりな規模拡大を実現できるのかどうか確信は持てません。一定レベルのリスクは常に抱えています。製品が市場ニーズに適合しているか(プロダクト・マーケット・フィット)自信がないため、このステージではまだ規模拡大に踏み出さないと決める場合もあるでしょう。あるいは、前述したように攻撃面と守備面の理由から絶対に規模拡大が必要であり、とにかく前に進むと決めることも考えられます。

 したがって、ブリッツスケールは一族レベルと村落レベルの間で始まるのが通常です。すでにプロダクト・マーケット・フィット問題は解決済みで、ある程度のデータも得ており、競争環境の全体像も見えています。

 この段階になって初めて、ブリッツスケールの必要性が極めて明確になります。「魅力的なカテゴリーが存在し、そこには大きなチャンスを秘めた市場がある」。自分にだけでなく他社に対してもそれを実証し始めるやいなや、あらゆるタイプの競合が引き寄せられてくるからです。足元では、おそらく他のスタートアップ企業があなたの製品・サービスを真似た商品を市場投入し、先行して市場で規模拡大を成し遂げてしまおうとするでしょう。頭上では、すでにブランド力を持つ既存企業が、本来ならあなたが手に入れるはずの市場を全部、または一部でも奪うため、彼ら独自の長所を活かす方法を見つけ出そうとします。

 スタートアップ企業として市場で最初のブリッツスケールを成し遂げる時、あなたは2つの強みを持っています。それは集中とスピードです。既存ブランドは概してそこまで素早く動けない、もしくはそこまで一点集中できません。一方で、競合のスタートアップ企業はおそらくあなたほどの「加速度」を得ていません。ただし、集中とスピードでは負けていないでしょうが。

 典型例がグルーポンです。同社はこのミドルステージまでたどり着いたところで、足元と頭上の両方から猛烈な競争に巻き込まれました。しかし素早い規模拡大もできず、息の長い製品も開発できなかったため、業界を一変させる可能性を秘めたチャンスを十分に活かせませんでした。

 ブリッツスケールの最中には、どのような組織上の問題が発生するでしょうか。

 経営面から見ればブリッツスケールは例外なく非効率であり、多額の資金をあっという間に燃焼させてしまいます。とはいえ、規模拡大のためにはこうした非効率を喜んで受け入れるべきです。まさに大組織が最適化されているものの対極にあるものですから。

 採用を例にしましょう。おそらくあなたは、できるだけ短期間に、可能な限り多くの“役立たず”と面接する必要があります。そうしながら、有能な人材を雇って企業文化を守っていかねばなりません。あなたならどうしますか。企業ごとにそれぞれ独自のコツを持っています。

 ウーバーではブリッツスケールの最中、新規採用したエンジニアに幹部がこう聞いたものでした。「前職で一緒に仕事をした中で最高のエンジニアを3人教えてくれないか」。そして、名前が挙がったエンジニアに採用通知を送るのです。面接もなし。リファレンスチェック(注1)もありません。いきなり採用通知です。当時のウーバーはエンジニア部門の規模拡大が急務であり、これが彼らの用いた重要テクニックでした。

 私たちもペイパルで同じ問題にぶつかりました。2000年代初頭、ペイパルを使った決済の取引量は1日ごとに2〜5%、しかも複利計算で増えていました。これほどの急成長によって、顧客サービスの面でペイパルは完全なる窮地に陥りました。唯一パロアルトの電話帳にだけしか会社の連絡先を載せていなかったにもかかわらず、怒りに駆られた顧客が代表番号を調べ上げ、適当な内線番号に電話をかけてくるのです。1日24時間、文字通りすべての電話が鳴っていました。どれを取っても相手は腹を立てた顧客です。そこで我々は、すべての電話機を消音に設定し、連絡には携帯電話を使うようにしました。しかし、これでは問題解決になりません。顧客サービスの処理能力を高める必要があるとわかっていました。それも急速に。

 とはいえ、シリコンバレーでそれを実現するのは非常に難しい。そこで規模拡大は、ネブラスカ州の大都市オマハですると決めました。ちょうど最初のドットコムブームの時期だったので、ネブラスカ州知事をうまく説得しましたよ。そちらも“インターネット革命”のお裾分けがほしくはないですか、と。

 知事とオハマ市長は記者会見を開き、「ペイパルが顧客サービスセンターを開設することになった」と発表しました。その結果、洪水のように応募者が押しかけたのです。彼らと面接するため、社員のざっと20%が週末になると飛行機でオハマに飛んだものです。それが4週間続きました。履歴書を手に集まった人々を1つの部屋に押し込んではグループインタビューをしました。そして6週間もせずに、100名の顧客サービス係が苦情のメールをテキパキと処理するようになっていました。

 いまでこそ、インターネット企業が顧客サービスをメールとウェブサイトだけで提供するのは古典的テクニックになっています。しかし当時の我々は、顧客サービスの大混乱をごく短期間で見事に解決する方法を、自分たちで見つけ出さねばなりませんでした。どう振る舞うべきかを指示してくれる定石集などなかったのです。いまでもありません。

 ルールがない場合、自分流のやり方はどのように考え出すのですか。

 通常のルールに縛られていないからこそ、競争優位が得られることもあるのです。たとえば、悪意のあるクレジットカード詐欺やチャージバック(注2)の実態を最初から知っていれば、ペイパルのようなサービスで自分たちが成功できると思えたかどうかわかりません。悪質な利用者による損害額がどれほど巨額になりうるか、まったく知らなかったのです。

 まずは詐欺から会社を守らねばならない──このルールは銀行業界の人なら誰でも知っていました。それゆえ、わずかでもペイパルに似たようなサービスは誰も試そうともしなかったのです。我々は無知だったからこそ迅速に動けました。もちろん、気づいたら地雷原のまっただ中ですから、その後は走りながら問題を解決しなければならなかったのですが。

 2000年にペイパルが顧客紹介ボーナス制度を導入した時、批判者の多くは我々が大損失を被ると考えました。しかし、実際にはそうはなりませんでした。広告による顧客獲得コストはこの業界の平均で1人40ドル程度でした。したがって、友だちに勧めてくれた既存顧客に10ドル、新規顧客となったその友だちに10ドルを払っても、我々はコストを半分に抑えていたのです。

 なぜ既存のルールではなく、試行錯誤による経験則を当てにするのか。それは、昔ながらの常識に従う競合とはっきり差別化するため、鋭い切れ味を追い求めているからです。ルールがない、と言っているのではありません。誰もあなたのおカネを横領してはならない。これはルールです。しかし、このルールから競争力のある切れ味は生まれません。

【注】
1)転職者の前の職場に、本人の仕事ぶりや人間性について問い合わせる採用側の作業。
2)カード代金の引き落としをカード利用者が拒否すること。

◆ブリッツスケールにはいかなる経験則が必要か、急成長から生じる問題といかに向き合うのか、などが語られるインタビュー全文は、『DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー』2016年8月号に掲載されています。

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