都市対抗開幕 全力疾走を見に行こう
社会人野球の真夏の祭典、都市対抗大会が開幕する。職場や地域の期待を背負った32チームが黒獅子旗を目指して東京ドームで戦う。
87回目の今大会、特別な思いを抱いて出場するチームがある。
ホンダ熊本(大津町)は熊本地震の本震があった4月16日、茨城県で開催されていたJABA日立市長杯に出場中だった。大会を棄権してバスとフェリーを乗り継いで帰郷したが、震源地に近い工場は大きな被害を受け、車中での寝泊まりを余儀なくされた選手もいた。
野球どころではない中、選手たちはボランティアセンターに登録し、避難所での物資運搬やがれきの後片付けなどにあたった。職場の同僚や地域の人たちに対し、「自分たちは先頭に立って頑張らないといけない存在なんだ」という意識に支えられての行動だった。そうして臨んだ九州地区予選では打線の活躍で勝ち上がり、第1代表の座をつかんだ。
ホンダ熊本は、今回出場を逃した鮮ど市場ゴールデンラークス(熊本市)とともに、地域活性化などに貢献したチームを表彰する「地域の元気 総務大臣賞」を受賞した。
両チームは日ごろから少年野球教室の開催や住民へのグラウンド開放などを通して地域との交流を続けてきた。こうした経験が非常時のボランティア活動につながった。社会人野球が重視する「地域や社会への貢献」は単なるスローガンではない。
西部ガス(福岡市)の選手たちは地震後、熊本県内に入り、ガスの復旧作業に汗を流した。2週間以上練習ができず、九州地区予選の初戦でクラブチームにまさかの大敗。負ければ夢が消える敗者復活戦の2回戦では九回裏、2点差をひっくり返し、最後は代表の座に滑り込んだ。酒見俊夫社長は選手たちの精神面での成長を感じたという。
社会人野球に代表される企業スポーツは数字に置き換えられない価値や効果がある。
今大会に出場する企業のトップが異口同音に言うのが「社員の士気向上と一体感の醸成」「地域の活性化」だ。チームワークのスポーツである野球は、部署の垣根を越えた連携が欠かせない会社の業務と親和性があり、会社がある地域にとって野球部の活躍は明るい話題となる。
日本独特のスポーツ文化はバブル経済の崩壊やリーマン・ショックなど幾多の逆境に遭いながら、地震などの自然災害をも乗り越え、歴史をつないできた。
今も昔も変わらない都市対抗の魅力は負けたら終わりのトーナメントならではの緊迫感と、選手たちの全力疾走だ。プロ野球とはひと味違う真剣勝負を見に行こう。