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 1980年代後半、寄生虫学者のコスタス・ムンキュオグルと人類学者のジョゼフ・ジアスが、ヨルダン川西岸地区から発掘された紀元1世紀の櫛を調べていたところ、その細かい歯についていたものを見て驚いた。それは10匹のアタマシラミと、27個の卵だったのだ。

 ふたりは、シラミの発生に興味をもち、最近発掘された古代の櫛を詳しく調べ始めた。すると、ユダヤ砂漠から出てきた11の櫛のうち、8つからシラミと卵が見つかった。

 「こうした寄生虫の存在は大きなショックだった。櫛はあくまでも髪を整える化粧用としてだけ使われていたと考えられていたのに、シラミを取り除く衛生道具としても使用されていたようだ。特に、わたしたちが調べた櫛は、シラミ取り用に特別に作られたものだった」と報告されている。
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エジプトのコプト時代(紀元500〜1000年頃)の木製の櫛
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 現在もシラミ取り用の櫛は存在するが、それは安価なプラスチック製のもので、校庭の除草のための化学処理と関連して使われているが、古代エジプトなどの大昔は、日常的に頭に使うシラミとりの道具として作られた。

 古代の櫛のほとんどは、現代のものと違って片側だけでなく両側に密度の違う歯がついていた。使用者は歯がまばらなほうで髪を梳いて整え、もう片方の歯が密になっているほうでシラミや卵をこそげとったという。

19世紀にインドで作られた木製の櫛
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 櫛はたいてい、木や骨や象牙で作られ、入り組んだ彫刻がほどこされていることが多かった。中世には、宮廷恋愛や聖書の教えなどのシーンが盛り込まれた。だが、細かい歯とまばらな歯が両側についたダブル仕様の櫛の形は、古代からそのまま変わらなかった。

 考古学的発掘で見つかったこうした櫛は、芸術的にも優れているが、今日わたしたちが使っているものと同じように十分に機能的でもある。シラミとり用とは思えないほど、昔の櫛のデザインはすばらしく、美しいものが多い。

15世紀のフランスの木製の櫛
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 この15世紀のフランスの櫛のすかし彫りは、ゴシック様式の窓にヒントを得たものだ。"mon avis(わたしの意見)"という言葉が刻み込まれていて、裏には"pour bien(あなたの慰め)"とある。これらの言葉から、この櫛は親しい知人の間で贈られたものであろうことがわかる。シラミとり用の櫛ほど愛を語るものはないからだ。

16世紀のフランスの木の櫛
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 16世紀のより精巧なデザインの櫛。

12世紀のヴェネチアの象牙の櫛
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 この12世紀の象牙の櫛には、チーターの両脇に二羽のクジャクが描かれている。

15世紀ヴェネチアの宮廷生活を描いた櫛
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 ボルチモアのウォルターズ美術館によると、この象牙の櫛には、庭でダンスし、携帯オルガンを演奏し、シカを狩るといった、典型的な裕福な貴族の娯楽が描かれているとのこと。もともとついていた色ははげてしまっているが、人物の髪のゴールドはそのまま残っている。

14世紀のパリで作られた象牙の櫛
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 聖書のシーンを表わした中世の櫛は、礼拝道具としての機能をそなえていた。司教、司祭、王らが儀式の前にこれで髪を梳いたのだ。

15世紀のイタリアの象牙の櫛
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1400年頃に作られたイタリアの櫛。三博士の礼拝を表わしてる。
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12世紀のイングランドで作られた、礼拝用の象牙の櫛
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 このイングランドの象牙の櫛は、聖書からの7つのシーンを詰め込んで描いている。この櫛を所蔵しているロンドンのヴィクトリア&アルバート博物館によると、両隅にはキリストの降誕祭、エジプトへの逃避、磔、埋葬のシーンが、中央には聖木曜日の洗足式、最後の晩餐(使徒は8人のみ)、そして裏切りのシーンがびっしり描かれているという。さらに4つのシーンが裏に描かれているという。

via:Some of History's Most Beautiful Combs Were Made for Lice Removal/ translated konohazuku / edited by parumo

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コメント

1

1. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 20:40
  • ID:8YlzJS1q0 #

アタマジラミ、ケジラミ、コロモジラミ。
ヒトが絶滅すれば彼らも運命を共にすることを考えると、ちょっと愛しく思える。

2

2. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 20:49
  • ID:SveVCmjH0 #

私も過去に1回ヤラれたことがあって
医師からスミスリンを処方してもらいました。
箱に1個除去用のクシが付属してて、
これで根本からググっと梳かすと
出てきやがるんですよ、親御さんが… orz
(ロングは取りつかれやすい)
でも、昔の人も同じように取り除いていたと思うと
なんだか感慨深いな、と。

3

3. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 21:06
  • ID:xQQ..zub0 #

犬とか猫に使うノミ取り櫛と同じなんだ
シラミが取れる密度で歯を切り込むって古代の人はどんな道具を使ったんだろう

4

4. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 21:08
  • ID:cD09D2vD0 #

えっ?この内容って、日本人ならみんな知ってるはずじゃ・・・

5

5. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 21:10
  • ID:oaXY8fK70 #

う〜む?
フケその他ゴミをとるため、でなくシラミ取り用と断定される理由がよく解らなかった。
目的はどうあれより隙間の無い櫛の方が「結果として」シラミがつきやすそうだ。

洗髪をあまりしない→髪のフケ等ごみ取り用に櫛を使用→洗髪が少ないのでシラミが湧きやすい→シラミが櫛につく…

と想像してしまった

6

6. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 21:14
  • ID:uic4Bqu10 #

むしろ「研究者が寄生虫対策としての櫛の機能にショックを受けた」という事実にショックを受けた。

7

7. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 21:15
  • ID:D.LNDP7wO #

まぁ犬猫飼いにはノミ取り櫛にしか見えんくらいな櫛歯の間隔ですし

8

8. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 21:26
  • ID:77.bi7wa0 #

ここまでしてでも髪を伸ばすってことには価値があったんだね。古代からずっと。髪を見て、本能的に健康状態とか色々判断するらしいね。肌もそうらしいけど。

9

9. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 21:28
  • ID:vIjj.KOB0 #

「昔の人はシャンプーなんて使ってなかった!薬品を頭につけるなんて良く無い」
とか言ってお湯だけでシャンプーする「湯シャン」が少し流行ったけど
結果的に昔の人はシラミに悩まされてたわけだからな・・・

10

10. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 21:34
  • ID:ecHYRg.i0 #

櫛の歯の間はトクサで磨いた

11

11. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 21:40
  • ID:lZGy95jE0 #

シラミは衝撃的ですよ……。
小学校の時にもらってしまったが、かゆい云々以上に、自分がひどく不潔になったような気持ちになるのが辛いのなんの。しばらく小さい虫全てに過剰な恐怖感を持つ様になってしまっていたくらい、恐ろしい体験だった。

12

12. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 21:41
  • ID:pzCIHH5B0 #

おいおい、こんなこと誰もが知ってる常識じゃねーのかよ…

13

13. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 21:47
  • ID:W9pRIr4Z0 #

※9
シャンプーはとても便利ですが肌に合わなかったり環境負荷になったりデメリットもありますよ
その例の場合はシャンプーを使っているか否かよりも頻繁に清潔なお湯で洗浄できるどうかが重要と思われます

14

14. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 21:48
  • ID:fXFeluZD0 #

※9
そもそも湯シャンは
毎日シャンプーすると髪が痛むから2日に1回程度にしたほうがいい、それ以外の日は水だけでも十分汚れとかゴミは落ちる
って言う研究結果が何故かシャンプーダメ、お湯だけでやれっていう感じにされた結果だしなあ

15

15. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 21:58
  • ID:TX1kiV.x0 #

古代以降近世までずっと現役だったろ

16

16. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 22:07
  • ID:EebkdepY0 #

また髪の話してる…

17

17. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 22:08
  • ID:BEIM7.m10 #

知ってた
日本でも昔はそうだった

18

18. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 22:13
  • ID:lXjg2XrT0 #

「化学物質などない昔に戻りたい」と、
過去を美化ばかりする人達に見せたいね。
人類は歴史上、ずっと不衛生な環境に悩まされてきた。
この櫛は、現代を生きる私達の清潔でなめらかな髪とつながっている。
眺めていると、同情と、何より感謝の念が湧いてくるよ。

19

19. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 22:14
  • ID:VQfPzy4N0 #

ゲシッ
「痛っ、ちゃんとおやりなさいっ、もう」
「ひいっ、す、すみません奥様」
ゲシッ
「痛っ、ちょw、本当に怒るわよ?売られたいの?」
「へうぅぅ...」
みたいな光景が目に浮かんだ。

20

20. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 22:15
  • ID:EJnjtiEx0 #

今は滅多にシラミはやってこないと思うが、万一とりつかれた場合は、しょっぱめの塩水で髪を洗うと解放されるよ。
さらに枕や寝具は新しいものに変えたほうがいい。

21

21. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 22:24
  • ID:y6UZGsbO0 #

ポイントはシラミ取りにクシ使ってたって言う常識じゃなくてそんなクシにさえ装飾を施した昔の人の余裕と財力について想いを馳せることじゃないかね

22

22. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 22:27
  • ID:NPRSHrOg0 #

蛍の墓の節子もシラミついてて細かい櫛でといてたような

23

23. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 22:28
  • ID:5SFIX6Y50 #

痒くなってきた

24

24. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 22:29
  • ID:hXlViyyu0 #

木櫛愛好家にはたまらない歯の細かさと細工だなぁ
15世紀の櫛の透かし彫りがこんなにきちんと残ってるなんて、素材はなんだろう

25

25. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 22:30
  • ID:bUsxNhnb0 #

湯シャン信じて病院行くはめになったワイ

26

26. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 22:42
  • ID:a63Laeha0 #

ヴィンランドサガで見た

27

27. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 22:44
  • ID:SBM4WFiS0 #

私が子供の頃は、まだシラミ持ってる子いたなあ
今はどうなんだろ

28

28. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 22:47
  • ID:ELDhHgj.0 #

湯シャンとか風呂に入らない生活とかで病気にならない、
寄生虫に取り付かれない人は、何らかの抗体や寄生虫を倒すというか、体に害を及ぼさない寄生虫をすでに持ってる人だからね
不潔な生活を幼い頃からしてきて平気でないのならば、いきなり湯シャンや風呂に入らない生活をするものではない。育った環境が人間は一番だよ

29

29. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 22:48
  • ID:5yw9l2WM0 #

プールや体育マット、お喋りした時なんかに頭が接触しただけで…って
現在でも学校で子供が貰ってくる事が多い
シラミ取り専用の櫛、数千円して高かったよ(´・ω・`)

30

30. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 23:09
  • ID:1yID7y3W0 #

※9
今と昔とでは住んでいる環境の衛生面と清潔の度合いが違うんだから、湯シャンはダメという結論は違うと思うぞ。

31

31. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 23:17
  • ID:saPDMKlv0 #

実際の話
海外で今でも使われてるよ
映像転がってたww

まぁ、シラミは髪の根元に卵生むから全部は取りきれない
頭にシラミが沸いたら髪を剃るのが常識
と言うか、卵に浸透する薬品だと頭皮痛めるからね

32

32. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 23:17
  • ID:32A4yVc80 #

シラミになったことはないけど、つげ櫛愛用中
大切に使えば100年使える
椿油で手入れした櫛で、梳くと、サラサラ艶々。
日本では古今和歌集にも出てくるくらい昔からある櫛です。
興味ある方はつげ櫛調べてみてください

33

33. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 23:23
  • ID:Esrg091c0 #

こんな感じで数千年後に育毛ブラシとか特殊なブラシが発見されたら未来の人はどう思うのだろうか?

34

34. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 23:24
  • ID:KvMKcAo.0 #

シラミは生物だから「湧い」たりしない。伝染するんだよ。それに、シラミは通常のシャンプーでは捕れないよ。
スミスリンシャンプーで洗って20分流さずにそのまま置いて、目の細かい櫛でこそげおとすんだ。これを10日か20日かな?間を置いてまたやる。するとだいたい駆除できる。

こういうものがない昔は、恐らく地肌までたっぷり油をまぶしてシラミの成虫を窒息させ、髪にへばり着いた卵もろとも櫛で捕ってたんじゃないかな。
あまり知られていないようだけど、日本髪は固形の鬢付け油でがっちり固め、結う度に梳毛を挟んだ梳櫛で引っ張りながら梳きあげるから、シラミは繁殖し辛い。

35

35. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 23:28
  • ID:I94I6ZwT0 #

あんな細かい歯どうやって彫ったんだろう

36

36. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 23:34
  • ID:D.LNDP7wO #

水が貴重な地域だったり、水が硬水で痛んだり、ペストは風呂に入るとなるとデマに騙されたり、シラミ予防に男女問わず剃りあげて鬘被ったり昔の人は大変だ
今もフランス人の不潔さや風呂嫌いは世界中で言われる

37

37. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 23:35
  • ID:KGTjtQE20 #

何とタイムリー!我が娘がつい最近小学校で頭虱貰ってきたよ、幼稚園でも一度あり。今回二度目だから早期発見出来た。既に駆除済み。私は現代の日本では虱を貰うなんて夢にも思わない世代。でも最近は海外旅行、海外からの旅行者などの交流が盛んになり、虱は都会っ子には珍しくない。大き目のドラッグストアならスミスリンはいつでも入手可能。で、親の私も生まれて初めて虱貰った時はショックでしたし、今回もうつってたよ…。

あ、オススメはヘアアイロンで卵を焼き殺すやり方。スミスリンと櫛と併用して、かなり早い段階でほぼ完璧に駆除できますよ。勿論スミスリンは3回やってね。

38

38. 匿名処理班

  • 2016年07月14日 23:39
  • ID:ja2imJOY0 #

湯シャンや湯洗顔は皮脂分泌とかが適正になるまで何ヶ月もかかるからな
ちゃんとしたやり方でしかも食生活も改善しなきゃ悲惨なことになる

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