会社名を明かせないが、業界大手のベンチャーキャピタルに所属している。
主な出資先は所謂ミドル、レイターと呼ばれる「成長、拡大期」のベンチャーである。
さて、そんな私も最近は起業前、もしくは新規事業を立ち上げようとしている方にアドバイスをすることが多い。
そしてその中でもここ1ヶ月は会う人の3割がチャットボット系のサービスのアイデアを語るのである。
「やめたほうが良い」と毎回アドバイスするのだが、毎回伝える3つの点についてここに記したい。
願わくばこの記事が広まり、浅はかな「対話型サービスの未来」を考えているベンチャーが断念し、より可能性の高いビジネスに切り替えて欲しい。
そしてこの記事を受けても尚、私の予測を上回り成功するチャットボットサービスが出てきてほしいとも思う。
前置きが長くなったが、以下3点がチャットボットが失敗する理由である。
一番の理由がこれだ。
ここで注意したいのが、 クライアント ではなく ユーザーである点だ。
よくある「チャットボットを簡単にECサイトに導入できます」サービスを事例に出してみよう。
「今まで大変だった顧客対応がチャットボットで代替できます。」
「チャットボットが商品のアピールをすることで売上が上がります。」
確かに正論に聞こえるし、無料キャンペーンや優先登録などに興味を示すクライアントは多いだろう。
プレスリリースを出せばクライアントの問い合わせは殺到するだろう。
ユーザーは商品についてわからないことがあった際に、いきなり得体の知れない自動応答システムに話しかけるだろうか?
そもそも埋込み型の顧客問い合わせサービス(zopimやolarkなど)について、ユーザーの利用率が5%未満に過ぎない事例が多いことを知っているだろうか?
私もこれらの問い合わせサービスに関わったことがあるが、日本人の性質としてチャットボットにいきなり話しかける(しかも想定された問答を想定通りの言い回しで)例は少ない。
また、少ない額であれば導入する事例も増えるだろう。
しかし、ユーザーがチャットボットを使うシーンは少ないだろうし、結果として売上にもコストダウンにも繋がらないケースがほとんどだろう。
厳しい言い方をすると、話を聞くチャットボット関連サービスは現状、 「ユーザーのことを考えず提供者側の視点しかない マスターベーショナリサービス」
なのである。
自然言語処理を簡単に説明すると、「コンピュータが会話を理解し適切な回答を返す処理」である。
この技術は現状、正直言ってそこまで高いレベルに達していない。
言い換えるならば「ユーザーの期待値」と「提供できる技術レベル」の均衡が取れていない。それどころかユーザーの求める「自然な対話」レベルにはほど遠く失望させるものなのである。
よく非技術者の創業者や流行りものが大好きなコンサルが「Deep Learningの登場で自然言語処理の精度が高まり自然な対話を実現できる」とドヤ顔で語るのだが、これは大きな勘違いだ。
画像認識については、「文脈」などその対象以外の外部要因が発生することは少ない。
その為、その特徴量を見出しやすくDeep Learningを使用することで精度をかなり高めることが可能である。
しかし、「対象そのもの」以外にも文脈や発する人間のパーソナリティなど様々な外部要因が発生する対話において、特徴量は見出しづらい。
特に日本語は主語が省略される、漢字の読み方で大きく意味が異なる、「空気」を重視する等のハイコンテクスト文化であり、自然言語処理は難しい。
その為にDeep Learningが自然言語処理を圧倒的に成長させ、「機械であることを感じさせない自然な応答」を可能にさせることはほぼ不可能なのである。
そんな精度をユーザーが求めていないのでは?と思うのは提供者側のエゴだ。
不自然な対話、自分の想定していない回答が続くようであればユーザーはサービスから離れてしまうだろう。
「飲食店などの予約がチャットボットでできる」系サービスも良く聞く。
彼らには必ず「それってチャットボットである必要性ってあるんでしたっけ?」と質問するのだが、納得のいく回答を得られたことは無い。
対話のほうがかっこ良い、対話でできたら未来っぽい、アメリカで流行っているから、実際にそんな浅はかな考えで通用するほどビジネスは甘くない。
「対話によりニーズを深掘りできる」等もよく聞くが、2で挙げた通りそんなに自然言語処理の精度は高くなく、深掘りする以前に離脱してしまうだろう。
「なぜ対話なのか」
これらの質問に自信を持って答えられるだろうか。
それができない限りはビジネスは成立しない。
今すぐチャットボット事業を畳み、↑の質問に答えられる別の何かの可能性を考えたほうが良い。
以上である。
チャットボットブームは、クライアントが導入した後に「ユーザーに全く使われない」と気づきその悪評が広まる、あと半年の寿命といったところだろう。
そんなチャットボットだが、現状で可能性があるとしたら「チャネルの1つ」として使う程度だろう。
LineやFacebookメッセンジャーに組み込み、「既に展開しているサービスの広報的役割として活用する」、「メディアの記事を配信させる」役割であれば優秀なツールとなるだろう。
繰り返しとなるが最後にもう一度。