フィクションの世界だと、伊賀忍者と甲賀忍者は仲が悪い。この設定は、どこからやってきたのだろうか?
大昔の忍者のヒーローとしては、甲賀忍者の猿飛佐助、伊賀忍者の霧隠才蔵が有名である。この二人の物語をテンプレートとして、フィクションの世界で伊賀忍者と甲賀忍者の対立が描かれるようになったんじゃないかと考えてしまいそうだけど実は違う。
猿飛佐助は霧隠才蔵の兄貴分で、わりと仲が良い。この二人が真剣勝負をする理由がない。もっとも真田の郎党に入る際、ちょっとした忍術勝負をしているが、これは入団テストといったものだろう。
しかし創作者としては、忍術の勝負を描きたい。それならということで、石川五右衛門をゲスト出演させる。石川五右衛門は山賊で、豊臣秀吉の生命を狙う悪い奴である。豊臣家が大好きな真田幸村の郎党猿飛佐助には戦う理由がある。また石川五右衛門というのは一種のブランドだ。物語の世界では新参者の猿飛佐助が五右衛門を倒すことで、その能力を簡単に表現することができる。
石川五右衛門は伊賀流忍術の百地三太夫の弟子である。それならということで、佐助は甲賀忍者ということになる。
もちろん勝負には佐助が勝つ。五衛門は邪道に陥いっている。正しい道を行く猿飛佐助に勝つことはできない。佐助は説得を試みるも、五衛門はその後も山賊としての活動を続け、ついにはその身を滅ぼすことになる。
私の知る限りでは、この物語以前に伊賀流と甲賀流の争いというスタイルは存在しなかった。というわけで恐らく石川五右衛門と猿飛佐助の忍術比べが、伊賀忍者と甲賀忍者の対立の始まりだろう。