ここから本文です

「ヘリコプターマネー」の効果はアベノミクスとほぼ同じ

ダイヤモンド・オンライン 7月14日(木)8時0分配信

● バーナンキ氏と安倍首相が会談 政府が「ヘリマネ」政策を検討!? 

 前FRB議長のベン・バーナンキ氏が11日に日銀の黒田東彦総裁と、12日に安倍晋三首相と会談した。

 これに対して、政府で「ヘリコプターマネー」を検討しているという報道があり、菅義偉官房長官は13日午前の会見で、「ヘリコプターマネー」政策を政府が検討している事実はないと述べた。

 ただ、菅官房長官は、12日の会見で、「ヘリコプターマネー」について特段の言及はなかったが、財政政策で名目GDPを上げるとともに、それと協調して金融政策はやるべきと説明している。

 まず、「ヘリコプターマネー」を整理しておきたい。

 ネット界隈では、「ヘリマネ」といわれる。もっとも、ヘリコプターの語源は、helicopterはギリシャ語 héikos 「らせんの」+pteró「翼」。ドラえもんでは「タケコプター」というが、本来なら「タケ+プター」だろう。ちょっと「ヘリマネ」とはいいにくい。

● ノーベル賞経済学者フリードマン氏が論じ バーナンキ氏が再び取り上げて注目された

 ヘリコプターマネーのもともとの意味は、中央銀行がカネを刷ってヘリコプターから人々にばら撒くというものだ。ただし、実際にこれを行うのは難しい。「いつどこにヘリコプターが行くのか教えてほしい」というジョークすらある。現在のように中央銀行と政府が役割分担している世界では、中央銀行が新発国債を直接引き受けることで財政赤字を直接賄うことをいうことが多い。

 このアイデアは、かつてノーベル賞経済学者のミルトン・フリードマン氏によって論じられ、2003年にバーナンキ氏(当時FRB理事、その後FRB議長)によって、再び取り上げられたものである。そのバーナンキ氏が黒田総裁や安倍首相と会談したので、先述した通り、「政府がヘリマネを検討」との報道があったのだろう。

 バーナンキ氏は名目金利ゼロに直面していた日本経済への再生アドバイスとして、具体的な手法として国民への給付金の支給あるいは企業に対する減税を国債発行で賄い、同時に中央銀行がその国債の買い入れることを提案している。

 中央銀行が国債を買い入れると通貨が発行されるわけなので、中央銀行と政府のそれぞれの行動を合わせてみれば、中央銀行の発行した通貨が給付金や減税を通じて国民や企業にばら撒かれていることになる。その意味で、バーナンキ氏の日本経済に対する提案は、ヘリコプターマネーと本質的に同じというわけだ。

 経済学者からみれば、政府が国債発行で財政支出を行って中央銀行が新発国債を直接引き受けることと、政府が国債発行で財政支出を行って中央銀行が既発国債を買って量的緩和を行うことは、経済的には同じである。

 ただし、法律的な立場から見れば、前者は中央銀行の国債引受であるが、後者は中央銀行による既発国債の買いオペなので、異なる。

 もっとも、しばしば日銀引受は禁じ手とされているが、これは勉強不足といえよう。今の制度では日銀保有国債額の範囲であれば認められている。筆者が現役の大蔵官僚で理財局国債課にいたとき、毎年日銀引受は行われていた。ちなみに、2016年度でも日銀引受は8兆円行われる予定だ。

● 政府はヘリマネを検討しない すでにアベノミクスと同じ効果

 いずれにしても、「財政支出+日銀引受」をヘリコプターマネーといえば、それを検討することはない。というのは、すでにアベノミクスで行われている「財政支出+量的緩和」と同じ効果だし、それを行えばいいからだ。

 こう考えると、冒頭の菅官房長官の発言はすっきりと理解できるだろう。

 なお、この方法は、ノーベル賞経済学者のスティグリッツ氏が主張した政府紙幣発行によって給付金・減税を行うものと本質的には同じである。

1/2ページ

最終更新:7月14日(木)8時0分

ダイヤモンド・オンライン

記事提供社からのご案内(外部サイト)

週刊ダイヤモンド

ダイヤモンド社

16年7月16日号
発売日7月11日

定価710円(税込み)

特集 混沌を読み解く 大経済史
英国離脱は前兆 歴史を知って備えよう!
特集2 フィリップ・モリスの野望
iQOSはたばこを変えるのか