【石坂浩二 終わりなき夢】(27)ヒゲなしで4代目水戸黄門
「水戸黄門」(01年、TBS)で4代目の水戸光圀を演じた。制作会社のC.A.Lの中尾幸男さんとはこれまで何度も仕事をしていて「番組がマンネリ化になっているから変えたい。格さんは杉(良太郎)さんの息子さん(山田純大)、助さんも若い役者です」と熱心に語る。こちらは「お忍びの旅なんだから目立たない格好で、髭(ひげ)はつけたくない」と条件を付けた。髭にはちょっとこだわりがあった。調べたところ家康の時から諸大名には髭は生やさないようにとお達しが出されている。兵を起こすような勇ましい連想があったのだろう。将軍綱吉が生やしていない以上、家臣たちが髭を蓄えるなどできるはずもない。中尾さんから「それでいいでしょう」と了解が出て出演となった。
水戸徳川家に関係者とあいさつに行くと温かく迎えてくれた。山全体が墓地で頂上に初代、光圀のお墓はその下ぐらいにあり周辺は柵が巡らされていた。15代当主が「あなたの光圀が我々の知っている先祖の姿に一番近い。石坂さんだけどうぞ」。私だけ墓参が許されて中に入ると、儒教式のためか石棺の上に彫刻された大きな亀が乗っていた。
最初は髭なしで演じていたが、世間から反発の風が…。水戸では困っているという声が届く。なんでも水戸駅前になる光圀像には髭があるからだと。「じゃあ僕は降ります」というと、まあまあとなって少しは生やすことで落ち着いた。すぐに髭姿では違和感があるので、自分の部下を殺して死者の霊を慰めるため籠もって出てきたら無精髭が生えていたという設定にした。自分でも番組の脚本を書いたりしていたが、撮影終盤に直腸がんが見つかって、番組を降りることになった。
初めはちょっとした下血で痔(じ)かなと思っていた。時代劇は“痔”代劇といわれるくらいで、体のいろんな所を結ぶから血行が悪くなって痔になることが多い。がんを患った義弟から症状が似ていたため強く検査を進められ、調べたら「立派ながんです」と診断を受ける。ステージ3で患部は大きくなっていたが運良く体外に出来ていたため、悪性ではなかったらしい。内視鏡ではなく胸から腹にかけて開腹して患部を根こそぎ除去した。そしたら次の日から「歩きなさい」と。まだ縫い合わせからパイプが出ていた状態でだ。週刊誌の記者がうろちょろしていたから部屋の中で足踏み機を借りリハビリをしていた。最初は3か月に1回のがんチェックを2年。それが半年に1回になり、5年すぎて1年に1回となった。私が心掛けているのは暴食はせず、アルコール度数は強い酒は控えているぐらい。何か異常を感じたときは絶対に検査した方がいい。(構成 特別編集委員・国分 敦)
俳優・山田純大(格さん役で水戸黄門共演)「ドラマで共演させていただいた時に私が石坂さんから強烈に感じていたもの、それは正義感だ。弱者を温かい心で理解し堂々とかばっていた姿に私は何度も感動させられた。幼少時代に戦争で受けた心と体の傷を見せてくれたこともある。その時に戦闘機の恐ろしさを体験されたのだろう。石坂さんのプラモデル作りにいつも深みを感じるのはそのせいだろうか」