【石坂浩二 終わりなき夢】(25)巨泉、たけしと「HOWマッチ」
「世界まるごとHOWマッチ」(83年、TBS)への出演は(大橋)巨泉さんからラブコールを受けてのものだ。制作会社「イースト」を設立した元TBSの東修さんから「値段を当てる番組をやりたいんだが、巨泉さんが石坂さんとビートたけしが出ないとやらないと言っている」と聞かされていた。実は東さんとは「―HOWマッチ」の前にテレビショッピングの番組を3本ぐらいやっている。数億円の船やイタリアの高級毛皮といった高価で珍しい商品を集めた番組だった。「文化とかは難しいけど金額は一番分かりやすい」という考えがあり、それが新番組につながったのだろう。
私の役目は出題される国の解説をすることだ。巨泉さんはハワイには詳しいが、意外と行った国が少なくてアフリカや欧州になると厳しかった。隣の席のたけちゃんが間違ったことを言うと私が「それ違うよ」とささやく。すると「ちょっと待って」と、たけちゃんが巨泉さんに食いつく。この掛け合いが番組の“売り”にもなっていた。3人でよくゴルフをやったし、オーストラリアでは一緒に別荘も購入した。私の隣が巨泉さんでその隣がたけちゃん。豪州に行くと誰かいて一緒に遊ぶという感じだった。
巨泉さんは個人主義の人だ。親しくなると冷たい印象を持つ人もいるかもしれないが、ぐちゅぐちゅ言わないのがいい。彼の好奇心は相当なものだ。絵の話題になった時に馬を描かせたら馬になっていなかった。「一番大事なのはまず絵を見ることです」とアドバイスしたら、そこからすごい勢いで絵画の勉強を始めた。この時巨泉さんは60歳ぐらい。一緒に欧州の美術館巡りに出かけたこともある。私が「今回はこれを見たい」というと、その周辺の教会とかを調べ上げて効率的な行程を組んでくれる。明朝何時に朝食、12時に昼食を食べて昼寝。移動はこの列車で宿泊先は〇〇ホテルといった具合だ。このマメさにはちょっと驚いた。美術本を購入しては重い本を奥さんに持たせるから、かわいそうで途中から私も手伝っていたものだ。短期間に絵画を学んで5冊ぐらい美術本を出版しているのだから敬服する。市川崑監督も好奇心が強かったが、そんな人に巡り合うのが私の運命なのかもしれない。
「開運!なんでも鑑定団」の撮りをしている時、違うスタジオで収録中の「主治医が見つかる診療所」にゲスト出演していた巨泉さんに何度か会った。「ウチの番組ですか」「違うよ」と巨泉節が返ってきた。1回目の手術を受けていた頃だ。私も(直腸)がんを摘出しているが、巨泉さんは胃がんに始まって咽頭がんに肺がん。ちょくちょく再発しているから心配だ。(構成 特別編集委員・国分 敦)
元ラグビー日本代表SO・松尾雄治氏(友人)「30年ぐらい前に知り合ってから、『世界まるごとHOWマッチ』などの番組で共演した。プライベートでは石坂さん、大橋巨泉さん、ビートたけしさんが所有するオーストラリアや伊東(静岡県)のマンションにも招待してもらった。スポーツしか知らない僕とは正反対で、何でも知っている人だけど、『松尾君に会うと元気が出るよ』と敬意を持って付き合ってもらった」