【石坂浩二 終わりなき夢】(24)コンサートも芝居も最初の5分

2016年5月14日10時30分  スポーツ報知

 「3丁目4番地」(72年、日テレ)に出演する時、演出の石橋冠さんから「主題歌の作詞をお願いできないか」と持ち込まれた。作詞は子供のためのミュージカルや子供番組でも普通に書いていたのでお手のものだ。すでにメロディーはできていたので私が詞を上げるだけ、出来上がったのがビリー・バンバンの歌った「さよならをするために」だ。

 当初はB面扱いだったが、番組終了して1か月ほどたって有線から火が付く。レコード会社から「“さよなら”をA面にしたいんですけど」との連絡が入った。断る理由もなくOKすると、前のレコードは回収になったそうだ。売れ方もすごくてオリコンで5週連続の1位になりトロフィーを頂いた記憶がある。ビリー・バンバンも最初は自分たちの作った曲がA面だから複雑な気持ちだったろう。

 コンサートの演出も手掛けた。バーニングプロダクションの周防郁雄社長から「小泉今日子を知っていますか。ちょっと早いけど、コンサートやらせたいから演出をしてほしい」と依頼を受ける。彼女は82年にデビューしてまだ1年しかたっていない。曲数が全然足りないので「どういう曲を歌いたい」と聞くと、外国曲の日本語カバーを希望したので何曲か訳詞した。彼女に会った時、一目でこれはいい舞台になると直感した。トークを交えた台本を書いて稽古に入ったが、いつも疲れ気味でマネジャーには内緒で寝てもらっていた。いよいよ最終稽古ではトークもきっちり頭に入って完璧。センスは抜群だ。

 ライブではステージ中央に樹を立てて裏に小さい部屋を作った。彼女がそこに入って男とダンスしながら出てきたり、ラブシーンを演じたり―。彼女の背丈に合わせた影武者なんだけど、ファンが「やめろ」とうめく中、本物の彼女がすました顔で登場すると会場があっけに取られる。「ほれ見ろ、引っかかったろう」とうれしそうな顔をする。おちゃめなのだ。

 郷ひろみさんのディナーショーの話もいただいた。場所は高輪プリンスの飛天、一番凝ったのはオープニングだ。閉じた巨大な白い本が開演と同時に開いていくと、郷さんが真っ白なページを突き破って出てくる―という仕掛けだ。彼が自分にインタビューするコーナーも入れた。聖子ちゃんと交際が取り沙汰された頃で「結婚はどうなんだい」とか際どい質問にも尺をピッタリ合わせ、しかもファンを満足させることを言う。やっぱり歌手の方は勘がいい。

 コンサートも芝居も基本的には一緒で、最初の5分が勝負だと思う。そこでお客さんを驚かせるか慌てさせるか。菊田一夫先生も常々おっしゃっていた。「頭の5分でお客を取り込めなかったら、やばいよ」(構成 特別編集委員・国分 敦)

 歌手、女優・小泉今日子「初めてのコンサートは、他のアイドルたちとはちょっと違うことがしたい!と、17歳の私は言いました。それなら石坂浩二さんに演出してもらおう!と、大人たちが言って、石坂さんに初めてお会いしました。イタリア語の歌を歌ったり、吹き替えの女の子と手品みたいに一瞬で入れ替わったり、とてもカッコイイ演出をして下さったことを覚えています。あれから30年以上たちました。私も女優の仕事をしたりしています。いつか、俳優同士として共演できたらうれしいです」

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