【石坂浩二 終わりなき夢】(22)「金田一耕助」は「菊田一耕助」だった!?

2016年5月12日10時30分  スポーツ報知

 「犬神家の一族」のリメイク版は前作から30年たっている。話を聞かされた時、正直いうと新作をやりたかったが、市川崑監督は「新しく本を書く」と言っていた。76年版でやり残したところがあるのかと思っていたが、1か月後に「カットする部分はあるが台本は昔のまま」と説明を受ける。撮っていて気づいたのは前回とカメラ位置が微妙に変わっていることだ。女優さんへの芝居の付け方も違うし、人格の違う人間を作ろうとしていた感じだった。

 松子が高峰三枝子さんから富司純子さんに代わったが、やはりラストシーンは力が入った。前作は今の日本人が想像つかないお金持ちの遺産を巡って3人の娘が虎視たんたん、お金絡みが根底に流れている。新作は親子の関係が中心で、お金の部分は触れていないのが特徴だろう。私自身、前回は大きなものにぶつかっていく感じだったが、今回は抑えるような演技を意識した。富司さんにそっと寄り添うように「あなたが犯人ですね」と言うような感じ。父親的というか娘に「お前がやったことは分かるよ。君のお父さんがやったことだよ」という諭す間合いだった。

 監督が一番変わったのはテレビモニターができて、あまり現場に姿を見せなくなったことだ。それまではカメラのそばにずっといて「この照明じゃ質感が出ない」「ツヤがない」と口を酸っぱくするほど言っていたのが懐かしい。リメイク版は次をやるためというか、自分の中で金田一の復習のために撮った気がする。撮り方もカメラ位置でも冒険的なことをして、大丈夫かなと思うことあったが、仕上がりを見ると納得した。ただカメラ1台で何度も角度を変え、長いことしゃべらせるのは昔のままだった。

 三谷幸喜さんは前回、横溝正史先生が演じた旅館主人で出演しているが、演技がすごく硬かった。廊下からスーっと出て「金田一さんですか」と声をかけるシーン―。監督が「真横に横滑りするように出てきて」と言ったら、カニの横歩きのように出てきた。「ダメ、スーっとだよ」と何テイクやったことか。監督が楽しんでいるからしょうがない。でも三谷さんの脚本家の才能は買っていた。監督に「いよいよ『本陣殺人事件』ですね」と聞いたら「いや、本陣はまだだ。三谷君にちょっと頼んでいるものがあるんだ」と。三谷さんは短編で金田一モノを書いたらしいが、監督が亡くなって原稿も焼却したと聞いた。

 金田一耕助のモデルは誰か。監督が「病院坂の首縊りの家」の撮影中に横溝先生に聞いたことがある。その時「あれは菊田一夫だよ。“菊田一”じゃバレバレだから、菊を金にした」と打ち明けたそうだ。(構成 特別編集委員・国分 敦)

 女優・富司純子(06年版「犬神家の一族」で共演)「多才でお料理の腕もすごい方。石坂さんのカレーがあまりにもおいしくて。お願いして特製のスパイスの粉を1缶頂き、我が家で少しずつ大事に使っていました。いまもあの味が忘れられず、粉のレシピをぜひ教えていただきたいと思っています」

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