【石坂浩二 終わりなき夢】(12)チータと結ばれ“結婚式”

2016年4月27日10時30分  スポーツ報知

 「天と地と」が当たると、時代劇のオファーが殺到する。テレビは一度当たると、それを続けたがる。私は型にはめられるのは嫌で、いろんな役がこなせる役者になりたかった。塞ぎ込んでいる時に石井ふく子さんから連絡があり、悩みを打ち明けると「その通りだと思う」。うなずきながら「今度ホームドラマをやるんだけど、出ない」と。さらに「外国の人はサンキューと言うでしょ、でも日本人はうん、あー、どうもで終わっちゃう。ちゃんと“ありがとう”と言わなくちゃ」。ドラマを通じて日本人が忘れている家族や隣近所付き合いを取り戻したいという意欲が伝わる。石井さんの中でタイトルは「ありがとう」(70年、TBS)脚本は平岩弓枝さんと固まっていた。

 これはチャンバラやっている場合じゃない。ところが大河からホームドラマは180度の畑違いで、最初は「もったいない」と随分言われた。まだ大河は7作品ほどで、主役の価値は今以上に重かったのかもしれない。でも大河ほどの重厚な時代劇はそうそうできない。どうせ“何とか侍”になるのがオチだと思い、石井さんに体を預けた。

 (相手役の)チータ(水前寺清子)とは音楽番組で一緒に短いコメディーもやっている。気心も知っているし、個人的にも好きなタイプだ。ドラマには何かロマンスめいたものも必要だし、彼女ならば中性的で面白いものに仕上がると踏んでいた。いざ撮影が始まると「水前寺さんは稽古は出ません」と通達が。彼女は本格的な芝居は初めて。心配しながら撮影に入るとセリフを完璧に覚えているし、役にもスーッと入れているのには驚いた。後々本人に聞いたら、セットもなく扮(ふん)装もしない所で芝居するのに抵抗があったらしい。やっぱり歌手の方は勘がいい。

 「ありがとう」はお母さん役が山岡(久乃)さんじゃなかったら、失敗作で終わったと思う。チータがスタジオ入りすると「こっち、こっち」「はい、あいさつして」。どこからが芝居だか分からない。彼女も言われるままだったけど、そのうち「でもさあ」とか口ごたえをしたり本当の親子のようになっていた。

 第2シリーズ(看護婦編)でチータと結ばれ結婚式までやった。(民放ドラマ最高56・3%を記録した)視聴率はあまり気にもならなかったが、当時の朝日新聞は覚えている。「日本はもうダメだ。あのドラマで2人が結婚するかどうかで、日本人の半分が見ている。もう終わりだ」と書かれた。高視聴率は石井さんの狙いがよかったからだろう。

 「ありがとう」はシーズン4まであり、最後はチータの代わりに佐良直美さんが相手役を演じた。これはあまり知られていないみたいだ。(構成 特別編集委員・国分 敦)

 歌手・水前寺清子(TBS系ドラマ「ありがとう」で共演)「第一印象は、知性的でハンサムな『白馬に乗った王子様』のような人。恋人役ができるなんて夢みたいだった。ある時、浩ちゃんが買ったポルシェで2人でドライブデートに行ったの。『もしかして石坂浩二の嫁になるんじゃ…』って緊張してたら踏切でエンストして、後ろから車を押したのよ(笑い)。これからも体を大事にして、最後まで石坂浩二を演じてください」

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