【石坂浩二 終わりなき夢】(10)NY&ロンドン観劇旅行

2016年4月23日10時30分  スポーツ報知

 菊田一夫先生から世界一周のチケットをいただき、まず向かったのはニューヨーク。東宝の支社がNYとロンドンにあり舞台のチケットを取ってもらうことができた。1ドル360円の時代で持ち出せる上限が800ドル。闇ドルを購入して1000ドルぐらいになっていたが、仲間から「税関で捕まったら金は没収される」と聞かされ、荷物の方々にちらばせて持ち出した。

 NYは最低限のホテルでも高かった。日本で予約できるのは、それなりのホテルで料金も高い。1泊は日本で取ったホテルに泊まり、後は安宿を探すという具合だ。オフブロードウェーまで足を延ばし「ラマンチャ」や「ヘアー」などを観劇。ロンドンに渡ってはローレンス・オリビエの舞台を始めストレートプレーを多く見た。

 海外では舞台ビジネスの厳しさを目にする。劇場公演前に決まってプレビューをやっていたが、仮の配役で観劇料は5ドルぐらい。館内にはプロデューサーや演出家、音楽家や評論家たちがうろうろしている。別の日に見に行ったら全然違う配役で、役者を代えるとこうも変わるのかと感じた。あちらはオーディションに合格すると最低保障のギャラを受け取れる。稽古をこなしてプレビューがスタートするが、その後は関係者の意見が取り入れられ目まぐるしく配役も代わる。そして最終日に残った役者と本契約を結ぶのだ。

 日本の役者は一見、恵まれているように見える。でも、米国のようにだんだんと研ぎ澄まされていく厳しさを教えることが次につながるし、結果的には親切なような気がする。海外は教師は数も豊富で、生徒が合格することが自分のキャリアにもなるから必死に教える。裾野の広さを感じた。

 約2か月の一人旅から帰国。先生へのお土産は私が感動した舞台のプログラム。報告を兼ねてお渡ししたら「面白かったか」と目を細めていた。

 私は再び先生の舞台に立った。「風と雲と砦」という時代物で、共演は中村吉右衛門さんに上月晃さんら。先生の作品でなければご一緒できない方々ばかりだ。ある時、先生は吉右衛門さんと私に向かって「君たち、そのまま宝塚に出ても通じるね」と。「はい、そうですか」と答えてみたものの、どう解釈していいか分からない。楽屋で吉右衛門さんに意味を尋ねたところ「俺たちがちょっと無国籍で、緩いということかな。宝塚って日本も外国の芝居も分け隔てなくやるからね」と。結局、2人とも「まぁ、カッコいいと受け取るようにしよう」ということにした。この舞台は宝塚を退団した上月さんの女優一発目の作品、やはり宝塚には縁があるのかもしれない。(構成=特別編集委員・国分 敦)

 ◆中村吉右衛門に教わった幻の技 「吉右衛門さんが『ちょっと、キザなやり方があるよ』って教えてくれた所作がある。これから彼女に会いにいこうとする時に、脇差しをちょこっとだけ抜いて、刃を鏡代わりにして、唾を付けて髪を直す―。時間にしたら、あっという間で短い早いしぐさなんだけど、それがあるだけで艶っぽくなって見てる人の印象が変わるという。ああ、なるほどなと思ったけど、吉右衛門さんほどカッコよくはできない。結局は今まで一度も使っていない。舞台ではいろいろ勉強になることが多かった」

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