欧州連合(EU)からの離脱という歴史的な難局のかじ取りは、英国史上2人目となる女性宰相が担うことになった。

 キャメロン首相の後任首相に決まったメイ氏は就任前、「最善の条件を引き出し、離脱を成功させる」と約束した。

 そのためには、国民投票が保守党内や英国社会にもたらした分断の修復に、真っ先に取り組んでほしい。

 国会議員歴が20年近いベテラン政治家だ。国民投票ではEU残留を支持したが、一方で、内相として違法移民やテロ対策を強力に推進した実績をもち、党内の離脱派からも一定の信任は得られそうだ。

 だが、社会の分断ははるかに根深く、複雑だ。

 EUからの離脱に票を投じたのは、増える移民に雇用を奪われ、治安が損なわれると恐れる国民だけではない。

 大都市や金融産業を潤すグローバル化の恩恵にあずかれない不満や、エリート主導の政治に不信を抱く地方住民、低所得者層の多くが離脱を選んだ。

 これに対し、EUの中にあってこそ英国の未来がひらけると信じる若者層は、離脱の結果に落胆し、不安を募らせている。

 多様な人材を世界から受け入れることで英国が発展を遂げてきたのは紛れもない事実だ。メイ氏は、国を開くことがもたらす果実について、国民に丁寧な説明を尽くす必要がある。

 それと並行して、グローバル化の負の面にも目を向け、格差の是正など弱者に配慮した政策にも急いで手をつけてほしい。

 英国とEUとの信頼関係は深く傷ついた。離脱に向けた交渉に長い時間がかかるのは間違いない。とりわけ、移民の大量流入につながる「人の移動の自由」を制限しつつ、EU単一市場への参加は求めるという英国の主張は、EUとして容易に受け入れられるものではない。交渉の難航は必至だ。

 かといって、テロ対策や気候変動問題をめぐる連携に空白は一瞬たりとも許されまい。

 英国がEUの外に出たとしても、同じ欧州の一員として経済的な依存関係が消滅することはありえない。民主主義や、人権や自由を重んじてきた欧州の分断が続けば、各国で台頭するポピュリズム政党や、ロシアのように強権姿勢を強める大国に振り回される可能性は高まる。

 対立点ばかりに焦点を当てるのではなく、どうすれば共通の利益を守り、伸ばせるか。メイ氏は未来志向と柔軟な姿勢で、英国とEUとの新しいモデルを築き上げてほしい。