天皇陛下のご意向 国民全体で考えたい
天皇陛下が「生前退位」のご意向を周囲に示されていることが明らかになった。
82歳の陛下は、象徴天皇として憲法に定められた国事行為など公務を行っているが、ご高齢などで差し支えが生じる前に、天皇の位を皇太子さまに譲るお考えとみられる。
陛下は現行憲法下で初めて象徴天皇として即位し、そのあるべき姿を常に希求されてきた。
今回明らかになったご意向も、「国民とともに歩む」象徴天皇としての観点から熟慮した、強い責任感の表れであろう。
ただし皇室典範には、天皇の生前退位の規定はなく、これを行うには国会で法改正が必要となる。国民全体でその思いを受け、考えたい。
陛下は今年で在位28年目を迎えられた。皇后さまとともに、それまでにない「平成の皇室」を模索し、築かれてきた。
常に国民とともにありたいとする姿は、大災害時など、被災者の悲痛に寄り添うように慰問し、手を握り、ひざを接して励まされる光景に象徴される。
また、戦争がもたらした深い傷に思いを向け、国内外の戦跡慰霊の旅を続けられてきた。昨年はパラオ、さらに今年はフィリピンを訪れ、祈りをささげられている。
ご高齢の陛下にとって負担は軽くはない。周囲にはご体調とのかねあいについて懸念もあった。
ご病気もある。陛下は2002年に前立腺がんが見つかって手術、さらに12年には心臓の冠動脈バイパス手術を受けられた。
こうした中で、例えば、昨年は両陛下で約270件あった要人らとの面会を今年から減らし、見直すなど公務の軽減が行われているが、まだ十分ではない。陛下は行事でのお言葉でも推敲(すいこう)を重ねられ、事前の知識吸収も熱心であるという。
また、従来の慣行にとらわれない柔軟な発想もされてきた。
ご自身と皇后さまについて、将来の葬儀において従来の土葬ではなく火葬にし、お二人の陵を寄り添うようなかたちにすることを望まれたのもその一例だろう。
これは一般の国民の目から見ても自然な家族観と受け止められた。
昨年12月、82歳の誕生日を迎えるに当たって、陛下は「年齢というものを感じることも多くなり、行事の時に間違えることもありました」「一つ一つの行事に注意深く臨むことによって、少しでもそのようなことのないようにしていくつもりです」などと述べられている。
象徴天皇としての役割を決してゆるがせにしない。今回のご意向にもこうしたお考えがうかがえる。