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第1+2+3話 異世界転生と最強な母親
この話は、書籍化に伴い該当部分をまとめ版に差し替えたものになります。
突然だが、『転生モノ』って知ってるだろうか?
ネットの投降小説とかでは、定番も定番、って言っていいくらいのポピュラーなジャンルだ。
普通の現代日本(に限った話じゃないが)に生きていた一般人が、何らかの理由で死んだ後、何がどうなってか別な世界……すなわち『異世界』に生まれ変わって一から人生やりなおす、っていう内容なんだけども。
今正に僕は、それを体験していた。
『転生モノ』の主人公の例に漏れず、ごくごく普通の一般家庭に育った僕は、このたびめでたく大学受験に合格。
春から晴れて大学生という、なんとも喜ばしい未来を約束されていた。
……そんな矢先に、乗った飛行機が墜落してそのまま死ぬという悲劇に見舞われた。
人の死体や散乱する瓦礫を、もうすぐ何も映すことはなくなるであろう目でぼんやりと見ながら、実家のパソコンの中の思春期男子特有の黒歴史の証拠隠滅を最大の心残りに感じながら――あー、アレのせいで僕の社会的評価が死後どうなるか――僕は、短い一生を終えた…………
…………と、ここまでがいわゆる『前世』の記憶。
次に気がついたときには、僕はもう……『転生』していた。
前の、18歳の男子高校生の体ではなく……生後間もない赤ん坊の体になっていたわけだ。
☆☆☆
今僕がいるのは、どこにあるかもわからない――いや一応、すっごい山の中っぽい、ってとこくらいはわかるけど――怪しげな洋館。
イメージとしては、ドラキュラとか住んでそうな感じの、3階建てで西洋風の、そこそこ豪華な感じのお屋敷……それが、今回の人生における我が家だった。
ここに僕と、僕の育ての親の2人で住んでいる。
生まれてこの方、ここにずっと住んでで、ここから出たことない。
まあ、庭とか、その辺の森くらいなら出たことあるけど、ちょっと諸事情により、それ以上の外出っていうのが難しい環境下なもので。
ところで、何でわざわざ『育ての親』なんていう表現を使ったのかっていうと……僕、両親いないみたいなんだ。
何でいないのか、どういう経緯で今の親に出会って育てられることになったのか、とかは、全然全くわかんないんだけど、ともかく……今育ててくれてる親が、ホントの親じゃないのは確かだと思う。
何でわかるのかって? そりゃ……
「ミナトー? ご飯できたよー?」
「あ、うん、母さん、今行く!」
と、バルコニーの下から、僕の『育ての親』である女の人、僕が母さんと呼ぶその人が声をかけてくる。
髪はブロンドで、長さは背中くらいで、さらっさら。アレ絶対リンスとかいらない。
色白の肌に、出るとこ出て締まるとこ締まった、女性として理想的過ぎるスタイル。胸は巨乳と言っていい大きさで……や、あの、アレに目を奪われてしまうのは健康な男子として仕方のないことだと思うんです。
顔も超美人。ちょっと幼さも残る感じで、目は緑色。眉毛も細い。
……そして、耳が長くてとがっている。
いわゆる『エルフ耳』。でも、エルフではない。
彼女の名は『リリン・キャドリーユ』。
種族・夢魔族。
そして僕の名は……『ミナト・キャドリーユ』。
なぜかはわからないけど、前世の名前がご丁寧にも組み込まれている。
髪色は黒、瞳も黒。耳は別にとがってない。見た感じは、普通の人間だ。
とまあ、こんな感じで差があるから、多分ホントの親子じゃないんじゃないかな、と予測してるわけ。まあ、実際に聞いてみたことはないけど。
そんな感じなので、僕がいったいいつからこの人に育てられてるのかはわからない。生まれた瞬間や、その後すぐの期間の記憶はないから。
それでも、相当早くから……たぶん生後半年ぐらいの時期にはもう自我は(前世の記憶含めて)あったと思うから、生まれてかなり早い時期に捨てられるか何かして、今のこの母親のもとに移ったんだろうと予想は出来る。
だからこそ、気付いたらこの人に育てられてた、っていう状況があったんだろう、多分。
ちなみに、赤ん坊の頃から世話されてたってことは……その過程における、ちょっと耐え難い羞恥プレイも必然的に経験することになったわけで……
具体的には、母乳とか、オムツとか……ごめん、やっぱ勘弁して。僕の精神が壊れる。せっかく転生して早々に自殺したくなる。
だって、いくら赤ん坊だからって、意識しっかりあるんだよ?
何にとは言わないけど、直接吸い付かされて母乳飲まされたり、抵抗もできずに下半身露出してオムツ替えられたり……恥ずかしいってレベルじゃないよホントに。
しかも、この超がつくほどの美人の母さんに。
ていうか何でこの人、夫とかも別にいないのに母乳出るんだ、とかも一瞬思ったんだけど、すぐにそんな余裕もどこへやらって感じの羞恥的な数年間を僕は過ごした。
☆☆☆
はい一気に飛びます。4年後、僕、9歳。
『異世界』なんだから当然だけど、今現在僕は、現代日本とはあまりに違う環境の中で生活を送っている。
テクノロジー的には、たぶん、中世ヨーロッパみたいな、ちょっと前時代的な雰囲気。
そしてもっと言えば、この世界はいわゆる『剣と魔法の世界』ってやつのようだ。
何でそんなことが言えるのかっていうと、実際うちの母さんが、何度も魔法使ってるとこ見てるし……ちょっと家の外に出ると、思いっきり魔物が闊歩したりしてんだよ。ファンタジー系のゲームとかアニメでしか見たことないような怪物たちが。
そんな『異世界』に生まれた僕が、現代日本と同じ感じで成長していけるか、って聞かれると、当然そんなわけにはいかない。
5歳になった誕生日から、だったかな? 母さん指導のもと、『修行』なるものが日々の生活の中に取り入れられた。
剣と魔法の世界で『修行』なんて単語が出れば、やることは1つ。戦いの訓練だ。
実際に魔物がいるんだから、そりゃ、自衛のための『強さ』は重要ってことだろう。そのことを母さんに、簡単に説明された上で、それは始まった。
もちろん最初は戸惑ったけど、正直僕も、いつかこういうことになるんじゃないかな、とは思ってはいた。
母さんに禁止されてるから、家の外に出て直接見たことは無いんだけど……窓とかからならよく見てたからね。小さな子供くらいなら丸のみに出来そうな大きさの狼とか、トラックくらいの大きさの熊とか、明らかにやばそうな魔物たちを。
そういう魔物共が外をうろついてる以上、あれらに対抗できるだけの実力がなければ、こ必然的にの家から出ることすら出来ない。
となればいつか当然、そのための何かしらの訓練が必要になるんだろうな、と思っていたわけだ。まさか一生この家から出ないで過ごすなんてわけでもないだろうし。
だから僕は内心、母さんから通達された『修行』の話も、いよいよ来たかって感じで聞いていた。
そして、僕に『修行』をつけてくれてる、その母さんなんだけど、おそらく、僕が目標とすべきはこんな感じなんだろうな、っていうお手本的存在だ。
具体的にいうと、森の魔物共を歯牙にもかけず、瞬殺できちゃう感じ。超強い。
生前、ゲームとかアニメとかに没頭してた僕だから、表現が厨二的なのは勘弁してもらいたいんだけど、いかにも、剣と魔法の世界に生きる人物、って感じ。
デモンストレーション代わりに、わざと遭遇した森の魔物を、魔法と体術を交えた戦闘で軽く叩きのめす姿を見て、僕は、『ああ、あの家に魔物が近づかない理由ってこれなのか』と当事齢5歳の僕は思ったもんだ。
おそらくあの母親は、この森の生態系の頂点に君臨してるんだろう。
その実力に見合った、とでも言えばいいのか、同居する形で何匹か一緒に住んでるペット達と共に。
修行の合間に癒しを提供してくれることもあるそいつら――鳥とか猫とか色々いる――については、また今度。
そんな母さんから教えを受けて、もともとこの体のスペックがいいのか、日々その腕を磨いている僕だったんだけど、修行を始めてから1年が経とうとした頃、衝撃の事実が明らかになった。
僕、魔法使い、向いてないらしい。
どれだけ修行しても、体術や武器の扱いなんかと違って、1年も経つのにほとんど全く成長する気配がなかったことから、母さんが気にして詳しく調べた結果判明した。
僕には、魔法使いには必要な才能が、『一部』欠落しているらしい。
全く魔法が使えない、ってわけじゃない。
例えば、初歩的な『発火』の魔法なら、僕は母さんみたいに、火炎放射器なみの大きな炎は出せないけど、ライターでつけるくらいの、小さな炎を出すことはできる。
魔法を使うために必要な、いわゆる『魔力』も、母さんの見立てだと、十分すぎるくらいの量が、僕の体の中にはあるだろう、とのこと。要素はそろってるんだ。
ただし僕は、その魔力を体の外で使いこなすための、コントロール能力……言ってみれば『感応力』とでも呼ぶべきものに欠陥があった。
先の『発火魔法』で例えるなら、大きい炎を作り出すには、相応の量の『魔力』が必要なわけだけど、僕の場合、その『量』は足りてるんだけど、どうも、それを体外で使うために放出し、その後更にコントロールする能力が、致命的に力不足だという。
もっとわかりやすくいうと、そうだな、貯水タンクを想像して欲しい。
そこには大量の水が溜まってて、火災現場でも活躍できそうな量を確保できてるのに、それを外に放出する『出口』が、家庭用の蛇口とホースしかない。
するとどうなるか?
いくら絶対量が多く確保できていても、それじゃあ、一定の勢いでしか放水できない。
当然、やれることは家庭用の水道と変わらないわけだ。それが、今の僕。
そしてこれはもう、僕が『人間』で母さんが『夢魔族』だとかいう、種族云々の問題じゃなく、単純に生まれ持った素質の問題らしい。
母さんの診断でそれを知ったとき、そりゃもう落ち込んだ。
いや、だって、せっかく転生したんだし、魔法とか使って俺TUEEEEE!! とかやってみたいじゃない。ネット小説とかでもそういうのよく見たし。
それを、『素質なし』でばっさり希望を絶たれたこの絶望、誰に理解されよう?
けど、にもかかわらず母さんは、少しも困った様子を見せず、『まっかせなさい!』と、悩みもふっ飛びそうな笑顔で僕専用の練習メニューを考えてくれた。
そのお陰だろう。少しずつだけど強くなっている感じはするし、最近では、森に出てくる魔物のほとんどとも、けっこういい勝負が出来る感じになってきてる。
なので僕は母さんを信じて、これからも修行を続けることにした。
さて、魔法云々に関しては、まあこの辺にして、その他の僕の生活は、母さんの手伝いをして、静かに暮らしている程度のもの。
料理の手伝いとか、洗濯の手伝いとか、掃除の手伝いとか。
けど、そんな普通の暮らしの中でも、母さんはしっかりと学ぶべきことを見定めていて、僕に色々と教えてくれる。
『今まで母さんがやってきたけど、今度はミナトがやってみようか?』ってな感じで丁寧に教えてくれるから、分野を問わず、そういう知識・技術を僕はどんどん吸収していくことができた。
普通に暮らしていく中で、自然とそれらの技能を教えて育ててくれる母さんは、ほんとにすごいと思う。色々な面で僕を着実に一人前に導いて言ってくれるこの人には、いくら尊敬しても感謝してもしたりない。
また、その『学ぶこと』の中に、読み書き算術なんかも含まれるんだけど、コレに関しては、大学受験合格レベルの学力を記憶として保有してる僕にとっては、ほぼ問題じゃなかった。
言葉は、なぜか日本語が普通に通じるし、文字は異世界言語だったけど、コレも楽に習得できた。生まれたときから触れる環境下にあるわけだし、美人で優秀な先生の指導もあって、成長していく過程で楽に覚えることが出来た。
そして算術は言うまでもない。元の世界で高校生が教えられる内容は、どうやらこの世界の標準レベルよりもかなり上らしいので、心配全くいらないっぽかった。
そんな感じで、とても充実した日々を過ごしてるわけなんだけども……
1つだけ、ちょっとまだ気になるというか、問題として提起せざるを得ない部分があって……
僕ももう9歳。小学3,4年生の年。そして中身はもっと上。
なので当然、着替えとかトイレとか、大概のことを一人でできるようになっており、そういった様々な分野で、少しずつ、しかし順調に母さんのお世話から『自立』していってるんだけども……ごく一部、自立できないことがあるのだ。
ただしそれは、僕がいつまでたっても自立『できない』わけじゃない。
母さんが……自立『させてくれない』のである。
「ふー♪ 汗かいた後のお風呂は気持ちいいわね、ミナト」
「う、うん……」
そう、こんな風に。
『ご飯は一緒に食べる』
『お風呂は一緒に入る』
『一緒のベッドで寝る』
僕がどんなに成長して、どんなに『1人でできる!』と主張しようとも……この3点だけは、母さんは絶対に譲ってくれないのだ。
時に厳しく、時に優しく、をしっかり実行できるいい母親ではあるんだけど、こういう場面では、とことん僕に甘えてくるというか、子離れできない性格らしい。
いや、その気持ちは嬉しいんだけど……そろそろ男としての体ができ始めている僕に、母さんと一緒の入浴や就寝は、ちょっとつらいものがあるというか。
ご飯を一緒に食べるのは別にいいんだけど、残りの2つが……。
お風呂となれば当然、僕も母さんも生まれたままの姿なわけで……しかも、身内だからだろう、母さんはタオルで前を隠すことなんて全くしない上に、洗いっことかさせられちゃうわけで。
しかも風呂から上がったら上がったで、就寝時には一緒のベッドでくっついて寝ることを強要される上、母さんのパジャマはなんと超薄手のネグリジェであり、『おやすみ~♪』の一言と共に僕を『むぎゅ~っ』と抱き枕にして眠る始末。
子供の情操教育に対しての観念どうなってんだろう、うちの母は?
今までも何度か、1人で風呂に入ろうとしたりとか、寝室別にしようとか提案してみたんだけど、いつも『やだ』もしくは『だめ』の一言で却下されている上、そしてそれらを黙って1人で実行しようとしても、なぜか察知して阻止されてしまうのだ。
いや、別に嬉しくないわけじゃない。子供としては、母の愛を感じるわけでもあるし。
けどほら、いつ、幼い体に不釣合いなこの欲求と、頼りない自制心が決壊するかもって思うと、怖いんだよ。仮にもこの人の、息子として。
僕は『この人は母親、この人は母親、この人は母親』って何度も自分に言い聞かせて自制を効かせてきたけど、最近、その防壁にもだんだん亀裂が入ってきてるような気がして、ホントに気が気じゃないわけで……。
けどまあ、愛されてるなあ、ってとこは感じるし、そこについては悪い気はしない。
あくまでも『息子』として愛情を注いでくれている母さんの期待を裏切らないよう、僕は今日も、自分の鉄のハートを信じて、孤独な戦いをがんばるのでした。
けど、
そんな、親子の絆を壊さないための、僕の孤独な戦いは……あまりにも急に、終わりを迎えることになった。
ある意味最悪の、しかし、ある意味では最高の形で。
およそ予想も出来ないような、結末をもって……。
☆☆☆
どうして、こうなってしまったんだろう……?
気をつけていたのに、
母さんを裏切らないように、息子として、接しようと……
それが、
今までの努力が……今正に、台無しになってしまっていた。
ベッドの上には、一組の男女。
片方が片方を押し倒し、組み伏せ、馬乗りになっている。
息が荒い。明らかに、興奮を抑え切れていないのがわかる。
まあ、仲のいい男女であれば、ある程度の付き合いを経てこうなるのも、別に不思議じゃないだろう……今の僕らのように2人の間に『親子』という関係がなければ。
血はつながってないとか、そういう問題じゃなく、母さんを裏切りたくないから。僕に愛情を注いで、育ててくれた、母さんを。
……なのに、
どうやら、とうとう決壊し、溢れ出し、
それを、『無理矢理押し倒す』という、明確すぎる行動に移して、その欲望が、獰猛に牙をむいてしまったのだ……。
…………母さんの欲望が。
「――って何でええぇぇええ!?」
「大丈夫よ、ミナト。怖くないから……ね?(じゅるり)」
いや怖いよ普通に!? 見た目よりだいぶ人生経験積んでる、精神的には思いっきり大人な僕でも今のあなたは怖いよ!?
いや、ホント予想もしなかったよ。裏切られたよ。
まさか、襲う前に襲われるとは。
☆☆☆
1.ベッドに入る
2.布団をかける
3.母さんから(無理矢理)おやすみのキスをされる
4.寝る
いつもは、こんな感じで進められる就寝プロセス。
しかし今日は、
1.ベッドに押し倒される
2.パジャマを引っぺがされる
3.おやすみどころじゃないキスをされる
4.襲われる
うん、アウト。
風呂から上がって、あとはもう寝るだけだ、と思っていた僕の目の前で、何か、いつもと違うな、という感じの空気を纏っていた母。
具体的には、何かこう……背後に黒っぽいオーラが漂っていた。
同時に、息遣いが荒かった。『はー、はー……』なんて聞こえた気がする。
何だか目も据わってるし、どうしたんだろうと、どう考えた時には、すでに押し倒された後だったわけだ。
そのまま、プロセス2と3を実行されたあたりで、冒頭に戻る、というわけ。
「僕、もう、お婿にいけない……」
何があったかは、察して欲しい。
「あはははは、ごめんごめん。母さん久しぶりだから張り切っちゃった」
今、朝。
僕、傷心。せんちめんたる。
母、肌つやつや。満面の笑み。
腹が立つほどのやり遂げた感をかもし出している我が母の声に、反省の色は全く無い。
言う必要があるかどうかはわからないが、現在、僕らは2人とも、同じベッドの上で朝を迎えている状態です。
ただ、双方生まれたままの姿、というわけではなく、2人ともパジャマ着てた。
これ実は、僕は、着た覚えが無い。
というのも僕、体力とか色々と限界で気絶したらしく、その後の記憶無いんだ。
聴いた話だと、その後母さんが僕を抱えて風呂場に行って、体を洗って、パジャマを着せて寝かせたんだそうです……よく起きなかったな、僕。
「ほらほら、そんなにいつまでもうじうじしてないの! 襲われた生娘じゃあるまいし。誰でも一度は通る道なんだから、ね?」
「……相手が母親じゃなきゃそうだろうね」
っていうか、例えの部分はむしろそれに近いんですが。
体をくねらせながら、今もこうして『やだもー♪』とか何とか言ってる我が母。
その態度に、僕はため息をつくことしかできなかった。
「さて、それじゃ、どこから話したもんかしらね」
唐突に母さんが口を開いた。
「何、いきなり?」
「ん? ああだからホラ、昨晩あなたを、その~、あんな風にすることになっちゃった理由を、そろそろ、ちゃんと話さなきゃいけない時期かな、と思ってね」
「理由、って、単に母さんの欲望と劣情と背徳感が、理性とか常識観念とかをねじ伏せた結果じゃないの?」
「……どこで覚えたの、そんな難しい言葉?」
「母さんの部屋の本」
嘘です。前世です。
まあ、言えないけど。
っていうか、違うの?
いやてっきり、ホントにそうだと思ってたんだけど。今後、母さんに対しての接し方と見識を改める必要があるかな、とも。
「や、やっぱり10歳って早すぎたのかしら? この年の子供なら、理由もなくHなことばっかり考えてる年頃だし、自然な感じでいけると思ったんだけど……」
いけてたまるか。
すると我が母は、少しばつが悪そうに、
「あ、あはは、まあ、ミナトが言う理由も、当たってる部分もあるんだけど、それだけじゃなくて、一応、他の理由もあるから、ちょっと聞いてね? 言い訳になっちゃう気もするけど、一応。それに……」
そこで一拍、
「いずれ、話さなきゃいけないことでも、あったから……」
……? ただの言い訳ってわけでも、なさそうだな……?
☆☆☆
僕は母さんの、血のつながった子供ではない。
母さんの話は、そんなフレーズから始まった。
どこかの森の中で――この森じゃないらしいけど――拾われた、捨て子だったらしい。
いやまあ、予想はついてたけどね。実の親子じゃないってとこは。
だからってどうこうないけどね。母さんは母さんで、僕をここまで育ててくれたんだから、血がつながってなかろうがなんでもいい。
少なくとも、僕は母さんの、捨て子だろうと気にせず、その慈愛の精神で拾い上げて、息子として育ててくれたことに感謝して……
「いや~、忘れもしないわ。あの時、森に捨てられてたあなたを見て、『あ、コレ暇つぶしにちょうどいいかも?』って思ってね?」
感謝の気持ちの80%が一瞬で消し飛んだ。
いや、ちょ!? え、それマジで!? 僕そんなテキトーな動機で拾われたの!?
「あ、いや誤解しないでよ? 別に何か、その当時から変なこと考えてたんじゃなくて、単に子育てがいい暇つぶしになりそうだなって思っただけよ?」
「いや、十分に不謹慎すぎると思うんですけど!?」
何、僕は母さんに『暇つぶしに育ててみよう』って、そんな捨て犬拾ってペットにするような感覚で拾われたのか!?
いや、まあ、結果だけ見れば文句はないから、何も言わないけどさ。母さんに育ててもらえたことに関して、文句はこれっぽっちもないからね……動機以外は。
しかし、その次に聞かされたのは、さすがに信じ難いほどの衝撃の事実だった。
拾われた当時、実は、僕はもうすでに瀕死状態だったらしい。
いわく、生命力そのものがほとんど底をついている状態で、母さんの強力な回復魔法なんかでも治せない状態だったんだとか。
もともと乳幼児や老人は、そもそもの回復力が弱いということもあるので……回復魔法なんかを使っても、体がある程度できている人に比べて効果が期待できないんだそうだ。
そこで、母さんは僕を助けるために何をしたかというと、とんでもない裏技だった。
そこで母さんは、なん……魔法で僕を、乳幼児から、胎児の状態にまで退化させた。
体の大きさに対して足りていない生命力を増やす……ということが前述の理由で出来ないので、逆に体のほうを生命力に合わせたのである。
僅かな生命力でも、生命維持『には』とりあえず足りるように。
そして、その胎児の状態の僕を……なんと、自分のお腹の中に収めたのだ。
子宮の中に、普通に子供ができたのと同じ状態にして。
そしてお腹の中で十分に回復、もとい、再度『成長』し、『胎児』が『乳児』になるのを待って……普通どおりに産んだ。
つまり僕は、一度この世に生み落とされた後、実の親によって捨てられて、再び母さんのお腹の中に戻り、もう1度産み落とされた。
つまり、2度の『誕生』を経験していたというのだ。
「だ、大丈夫なのそんなことして!? すごく、何かこう、禁忌っぽい術に聞こえるんだけどその魔法!? 副作用とかないの!?」
「ん? いや、『っぽい』じゃなくて実際に禁忌よ? まあ、人間だったら副作用とかヤバいかもだけど……私ほら、すごいから。平気平気」
「……さいですか」
まあ、この母が、『夢魔』であるこの母が、規格外の強力な魔法使いだっていうのは、今更話すことですらないので、別に気にしなくてもいいか、と断定。
何だかんだで、よくも悪くも、嘘は言わない人だし……。
「それに、私別に、子供産むのだって初めてじゃないしね」
「…………はぁ!?」
ちょ! それ初耳! 衝撃の事実パート2!
何、僕、兄or姉いたの!? 知らないし会ったことないし聞いたことないんだけど!?
『あれ、言ってなかったっけ?』と、素で話すの忘れてたらしい母さんの問いに、僕は全力で首を縦に振っておいた。
母さんによると、兄も姉もいるにはいるものの、みんな自立して親元を巣立ったので、別に一緒に暮らしていなかったらしい。
『みんな』っていう表現から、複数……というかけっこうな人数いることが推測されるのは、気のせいじゃないんだろう。それも、自立できるくらいの年齢のが。
ああ、今思い出したんだけど、夢魔ってすごく長命なんだっけ。
本で読んだ知識だと、個体差はあるけど、下手すると1000年とか生きるらしい。この母も、ホントはいくつなのやら。
そして『夢魔』って、もともとそういう好色な種族だったんだよなあ………
気に入った異性と交わって、子供も作る。そして、それは母さんも例外じゃなかったわけか……ちょっとショックだけど、僕がどうこう言うような話でもないか。
しかし、それはわかったけど……
いくら楽勝だからって、そうまでして、捨て子助けようとするかな?
なんていうか、費用対効果が釣り合わなすぎるというか。気まぐれにしても、人助けが大掛かり過ぎる気がするんだけど。
幼い子供の命がかかってるとはいえ、そこまでして助けてやる義理、ないよね?
すると母さん、その疑問すら察したのか、
「その頃ね、私、しばらく、ここですごく暇な時間を送ることが決まってたのよ」
「暇?」
「うん。実はね……」
☆☆☆
およそ10年前、
当時母さんは、仲がよかったある国の王様から、1つの依頼を受けた。
「ちょっと待って!? 王様!? 王様って何!? 仲がよかったって何!? 王様から直々の依頼って何!? え、母さんって実はすごい人!?」
「黙って聞きなさい」
このくらいで騒がれちゃ話が進まないから、と、母さんに諭された。むぅ……
まあ、気になるけど、後で聞くことにして、今は話を聴くか。
で、その依頼っていうのが、その王国の調査隊がある遺跡ダンジョンから発掘した、『魔祖の棺』とかいう『マジックアイテム』の破壊だったんだそうだ。
遺跡の文献から、その箱には古代の宝物が眠っていると知った王国の重鎮たちは、当然のごとく喜んだ。宝物ってとこだけでなく、歴史的にも価値があると思われたから。
しかし、問題が2つあった。
1つは、その箱が、解除するのに数十年はかかるほどの強力な防御の術師気に守られており、どうやっても開かなかったこと。
そしてもう1つは、その箱に……周囲にいる魔物を活性化させて繁殖力まで高めるという、宝泥棒を撃退するためとしか思えない、恐ろしい呪いがかけられていたことだ。
要するに、その箱を持っているだけで、その周辺では魔物が、しかも強力なやつが爆発的に増え続けるわけだ。
諦めてその箱を廃棄しようとしたが、前出した強力な防御の術式ゆえにそれも出来ず……かといってどこか捨てることも出来ない。
そんなことをすれば、その周辺の地域で魔物が活性化し、その地域に被害が及ぶ。
国際問題になるから、隣接する国に捨てることも出来ない。裏で交渉しようとしたらしいのだが、持ち込みすら許してもらえなかったとか。
困り果てたその国の王は、最後の手段、唯一の望みとして、母さんを頼った。
昔なじみで仲がいいらしい、色々と世話になったこともある王様が困っているのを見捨てておけないと思った母さんは、この森にこもって、自分ひとりで、魔物を撃退しつつ、箱の封印を解除する、という方法を考えた。
もともと魔物が多かったこの森なら、相当遠くに行かない限り、周囲に集落もないし。
そう提案すると、王様は号泣して感謝し、国家予算に匹敵する金額の報酬を前払いで支払ったという。さらに、箱の中の『宝物』はさしあげる、とも言った。
しかし今度は、母さんの側に問題があった。
その箱の封印は、母さんでも10年くらいかけないとどうにかできないものだったらしいんだけど……実力はともかく、そういう生活を送るわけには行かないある理由があった。
母さんの種族『夢魔族』は、定期的に男と交わって、その『精』を外部から取り込まないと、その命を保てない、という種族特性がある。
吸血鬼にとっての吸血行為のようなものだ。
怠れば衰弱していき、寿命も縮む。
無敵な母さんの、唯一の弱点だった。それがある限り、森にこもることは出来ない。
ただし、そんな『夢魔族』が、『吸精』をせずに済む例外が1つだけある。
それは、子育ての時期だ。子育ての最中、『夢魔族』はあらゆる欲求が抑えられ、母性本能に従って、子育てに集中するようになる。
そのため、母さんは王様から、適当な孤児か何かを引き取らせてもらって、育てながら仕事に当たろうかな、なんて思ってたときに、僕を拾ったわけだ。
『暇つぶし』って、そういう意味だったのか。
そして最初に戻る。代理出産エピソードに。
そうして母さんは、森にこもって魔物を撃退しつつ、僕という『子供』を育てながら、その封印を相手に格闘する日々を送っていたわけだけど、
どうも、僕が血のつながった子供ではなかったために、通常時よりも『抑制』の効果が弱かったらしく、日に日に、母さんの欲求は戻っていった。
で、昨日、限界に来てしまって、ああなったわけか。
そして、
それに加えてもう1つ、母さんは、僕の体の異常性について説明してくれた。人間であるはずの僕の、明らかに人間らしくない部分について。
どういうこと? と目で問いかける僕に、母さんの説明は続く。
いわく、僕は一時的にとはいえ、母さんのお腹の中にいて、母さんから血肉を、すなわち、栄養を与えられて育った。『夢魔』の、母さんから。
そして、生まれてからも、僕は母さんの、夢魔族の母乳で育った。しかも、離乳がかなり遅くて、2歳近くまで。
何でか知らないけど、僕小さい頃体弱かった。特にお腹とかが、弱い、というかデリケート(?)で、離乳食すらしばらく食べられなかったんだよね。その誕生の仕方の影響だろうか?
ちなみに夢魔族って、種族特性として、妊娠してなくても普通に母乳出るんだってさ。なんかもう、何でもありだね、その方面で。
そんな風に、胎児から乳幼児の。人体の形成の基礎の基礎が形作られる時期に、夢魔の力が混じった栄養を大量にとりこんで形成された僕の体は、普通の人間のままでいられなかった。
成長段階でとりこんだ夢魔の力が人間の体に時間をかけてなじんで、僕の体と魔力を変質・突然変異させた、っていうのが、母さんの見解らしい。
そして母さんは、僕の――見た目は人間だけど、中身は全く別物な――僕の顔に、やさしく手をそえて、愛おしそうに頭を撫でてくれる。
その目には、どこか、憂いのようなものが見えたりして。
「……愛情も、私なりに一杯注いだつもりだし、一生懸命『お母さん』してたつもりだけどね、これだけは、どうにもなんなかったんだ、私でも」
「母、さん……?」
「ごめんね、ミナト。お母さんのわがままと自己満足で、ミナトの体、人間じゃなくなっちゃって」
そう、ちょっと申し訳無さそうに言っていた。
軽口はそのままなのに、母さんのそのセリフは、ひどく神妙で、シリアスなものに思えて。
そして、それと同時に僕にとっては……不要もいいところな謝罪だった。
別に僕、その辺どうでもいい。
僕がこの世界に生まれて――厳密には『生まれ変わって』――おそらくは捨てられて、母さんに助けられなかったら死んでたんだ。
禁じられた術まで使って僕の命を救って、ここまで育ててくれた。
そんな母さんに、何を文句があろうものか。
だから、
「母さん……」
「……なあに?」
「……お腹すいた」
「……ふふっ、そうね、もう朝だもんね。それじゃ、朝ごはんにしよっか?」
「……うん!」
これから、僕と母さんの関係が別に変わることもない。
僕は僕、母さんは母さんだ。
とりあえず、母さんはどうか知らないけど、僕は、気絶という形で睡眠を取っているので、普通に起きて、母さんに作ってもらって朝食にした。いつも通りに。
これから先も、変わらずこれが続くだろう。
文句あるか。誰が何と言おうと、僕らは親子だ。
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