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謎多きSerphの知られざる過去 美しい音楽と、本当の闇の狭間の話

謎多きSerphの知られざる過去 美しい音楽と、本当の闇の狭間の話

Serph『PLUS ULTRA』
インタビュー・テキスト
金子厚武
編集:柏井万作
2016/07/13
  • 18

「すごい新人がいる」と話題を呼んでいたSerphに初のインタビューを試みたのは、今から6年前の2010年。出世作『vent』のリリースタイミングだった。当時「精神的な飢餓感を満たすために毎日曲を作っている」と語っていたSerphは、その後リスナーという存在を発見し、社会の抑圧から魂を解放するための音楽家へと変貌を遂げていった。これまで発表した楽曲の中から厳選され、2016年仕様に磨き直した11曲と、新曲2曲の計13曲を収録した初のベストアルバム『PLUS ULTRA』は、現時点での集大成であると同時に、ラテン語で「さらなる前進」を意味するタイトル通り、この先を見据えた作品でもある。

CINRAでは別名義のReliqやN-qiaも含め、これまで幾度となくSerphに対する取材を行ってきたが、今回テーマに掲げたのはずばり「Serphの過去」。取材時には毎回のように語ってくれる、音楽に対する絶対的な信頼が果たしてどうやって培われてきたのか、このタイミングでどうしても聞いておきたかったのだ。そして、「やはり」というべきか、Serphが歩んできた人生は、かなりヘヴィでディープなものであった。しかし、本当の暗闇を見つめてきた者だけが、本当の光を描くことができる。ぜひ、じっくりと読んでみてほしい。

幼稚園の頃から、周りが子供らしく遊んでる中で、自分だけそれが気に入らなくて、ひたすら百面相してるみたいな子でした(笑)。

―今日は改めてSerphのこれまでを振り返っていただこうと思うんですけど、まずデビュー時と今を比べて一番大きく変化したのはどんな部分だと思いますか?

Serph:デビュー前は引きこもりみたいな状態だったし、それまでの人生も、人に認められるとか、評価されることがあんまりなくて、すごく淀んでたと思うんです。でも、そういうネガティブな感じは相当なくなってきたなって。人に迷惑をかけることもあったけど、吐き出してきたことによって、どんどんプレーンな、素朴な状態になったと思います。

―一番最初の『vent』取材(ドリームポップ界の新たな旗手 Serphインタビュー)で、音楽は「自分っていうリスナーのために作ってる」という話をされていました。根本的な部分は変わってないかもしれないですけど、他者としてのリスナー、つまり「Serphのファン」という存在が現れたのは、すごく大きな出来事だったでしょうね。

Serph:そうですね。リスナーとの触れ合い……ライブもそうですし、お店を回ってみたり、ネットの反応を見たりして、自分もちゃんと人のためになってるというか、人を喜ばせたり、怒らせたり、「影響を与えてる」ってことは、つまり社会に参加できてるってことですよね。もともと人に認められることが少なかっただけに、そう思えたのはすごく大きかったです。

アルバム『vent』(2010年)収録曲

―そもそもはDJをやっていたお兄さんの影響で音楽に興味を持ったという話だったと思うのですが、ご両親はどんな方だったんですか?

Serph:父親は普通のサラリーマンだったんですけど、父方の家系には、映画監督だったり、ジャズピアニストだったり、落語家だったりがいて、結構厄介な遺伝子を持った家系だったみたいです(笑)。その人たちと濃い交流があったわけではないんですけど、話を聞いてると、どうやら性格的に共通点があるみたいで。

―どんな共通点ですか?

Serph:ちょっと怒りっぽいというか、エモーショナルになりやすいみたいです。でも、その一方では理性的というか、頭でっかちなんですよね。何かで表現しないと生きていけないくらいの、厄介な体質というか、業じゃないですけど……退屈に弱いというか、退屈に耐えられない一族なのかもしれないです。常に刺激を求めているっていう。

―Serphさん自身も小さい頃から退屈に耐えられなかった?

Serph:そうですね。幼稚園の頃から、周りが子供らしく遊んでる中で、自分だけそれが気に入らなくて、ひたすら百面相してるみたいな子でした(笑)。

その頃からの夢が映画監督で、ハリウッド映画をよく見てたので、日本の社会とはかけ離れた世界をスクリーンから吸収しちゃってたんですよね。なので、「この大人しい子供たちは一体何なんだろう?」と(笑)。

―「人と違うことをしなきゃ」みたいな感じだったわけですか?

Serph:というよりも、「元気づけなきゃ」とか「刺激を与えなきゃ」って感じですね。他の子が穏やかな世界にいるのがホントに理解できなかったんです。父は普段帰ってくるのが夜遅くて、週末しか家にいなかったので、今思うと映画の主人公が父親代わりで、そこから学んだことが大きかったんじゃないかと思いますね。

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リリース情報

Serph『PLUS ULTRA』
Serph
『PLUS ULTRA』(CD)

2016年7月15日(金)発売
価格:2,376円(税込)
NBL-218

1. airplane
2. circus (barnstorm version)
3. feather (overdrive version)
4. shift (aquatic version)
5. monsoon (unknown season version)
6. a whim (solid jam version)
7. missing (finally found version)
8. pen on stapler (cinematic version)
9. soul for toys (pilgrim version)
10. vitt (toytronic version)
11. luck (darjeeling version)
12. memories
13. lumina (holiday version)

プレイリスト

『Serphを形成した90年代の10曲』

・Chari Chari“Flow Dub Outta Borneo”
・大貫妙子“春の手紙(ALBUM MIX)”
・Child's View“Saburé”
・Omid 16B“Falling”
・Pat Metheny“Last Train Home (Live Version)”
・Ian O'Brien“Gigantic Days”
・The Clifford Gilberto Rhythm Combination“Brasilia Freestyle”
・Howie B“Angels Go Bald: Too”
・カール・クレイグ“Televised Green Smoke”
・デヴィッド・ホームズ“Don't Die Just Yet”

プロフィール

Serph
Serph(さーふ)

東京在住の男性によるソロ・プロジェクト。2009年7月にピアノと作曲を始めてわずか3年で完成させたアルバム『accidental tourist』を発表。以降、4枚のフルアルバムと数枚のミニアルバムをリリースしている。2014年1月には、自身初となるライブ・パフォーマンスを単独公演にて開催し、満員御礼のリキッドルームで見事に成功させた。2016年7月に自身の代表曲をアップデートさせたベスト盤『PLUS ULTRA』をリリース予定。より先鋭的でダンスミュージックに特化した別プロジェクトReliqや、ボーカリストNozomiとのユニットN-qiaのトラックメーカーとしても活動している。

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