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高坂正堯氏、没後20年のいま光 憂慮した通り

在りし日の高坂正堯さん
在りし日の高坂正堯さん

 戦後日本の政治や外交について鋭い批評を続けた国際政治学者の故高坂正堯氏(1934~96年)の没後20年の今年、過去の著作や人物像を紹介する論集が相次いで刊行されている。冷戦体制下で、現実主義に立って日本の進路を探究した論客の足跡を共同研究で検証する動きもあり、研究者らは「戦前戦後を連続させながら国際環境の変化を鋭く捉えた高坂さんの危機意識は、今の内政や外交の問題を映し出している」と評価する。

■足跡検証、論集も刊行相次ぐ

 高坂氏は、京都学派の哲学者高坂正顕を父に持ち、京都大法学部を経て米国に留学。71年に京大教授となった。戦後論壇で主流だった進歩主義的平和論を批判し、国際環境に合わせた平和外交を提案。政策論や文明論など幅広い分野で執筆や発言を続けた。

 その多彩な著作を改めて分析しようと2011年、熊本県立大理事長五百旗頭真さんや京都大教授中西寛さんらを中心に「高坂正堯研究会」が発足した。京都大教授待鳥聡史さん、慶応大教授細谷雄一さんら若い世代も議論に参加。成果をまとめたのが「高坂正堯と戦後日本」(中央公論新社)だ。

 28歳で執筆した論文「現実主義者の平和論」を当時中央公論編集者の故粕谷一希氏が同誌に掲載し論壇デビューして以来、高坂氏は「海洋国家日本の構想」「宰相吉田茂」など多くの著作を残した。その足跡をたどり、ヨーロッパ外交史やウィーン体制を研究し、勢力均衡や多様性を重視した学問的系譜を浮かび上がらせた。高坂氏と交流があった前国際日本文化研究センター所長の猪木武徳さんやジャーナリスト田原総一朗さんらの基調報告も盛り込んだ。

 京大で国際政治学者の故猪木正道氏に高坂氏と共に師事した五百旗頭さんは、大阪市内でこのほど開かれた「サントリー文化財団フォーラム」で兄弟子の功績をしのんだ。小学生の時に丹後半島の疎開先で敗戦を聞き、父正顕に国の再生を誓う手紙を送ったエピソードを交え、「11歳の時点で国を背負っていく意識を持っていた」と説明。「戦後の日本は自分で道を開いて自立したわけでなく、平和と豊かさの中で、命を懸けて求める内面の充実を忘れていないかと自問していた」と振り返った。

 「非軍事的発展を評価する一方で、世界秩序のために何もしないことに憤りを感じていた。人間と文明に合理性だけでなく高い道義性を求め、リアリストでありながら理想主義者だった」と評価した。

 高坂氏の68年の著作「世界地図の中で考える」(新潮選書)も復刊した。文明の光と闇を多角的な視点で捉え、その均衡の意味を探った。社会の複雑化や価値の動揺など、グローバリゼーションや大衆民主主義の課題を見通す視座に、京大で門下生だった中西さんは「ハンチントンより前に文明の概念を重視し世界を広く捉えた」と話す。

 改憲や安全保障、東京五輪の問題などで混迷や対立が深まる現状は、晩年の高坂氏が憂慮した事態だという。「軍事力を持つことと平和主義を唱えることはコインの両面。日本は戦後の成功体験から脱却できず、自国の論理だけで従来の仕組みを変えようとしないのはごまかしだと強く感じていた。その問題意識を振り返る必要がある」と訴える。

 テレビ番組のコメンテーターや阪神ファンとしても知られた高坂氏。「議論より会話を大切にした。正反対の見方を排除せず、会話を通じて互いを知れば、問題への認識が共有できるとの信念があった。包括的な高坂研究はまだまだこれからだが、日本の政治学の知的遺産の重要なピースなのは間違いない」と中西さんは強調する。

【 2016年07月13日 17時00分 】

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