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真顔日記

三十六歳女性の家に住みついた男の日記

新たなネコ、ミケシについて

ネコのはなし

完全に書くタイミングを逃していたんだが、すこし前からネコが1匹増えている。4匹になっている。

腹を出して熟睡するほど我が家に馴染んでいる。

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事の発端は夏の夕方だった。

三十六歳女性が台所で皿を洗っていた時、小窓の向こうからネコの鳴き声がきこえてきた。ネコとなると本能で動く女だ。三十六歳は反射的に窓を開けた。一匹の三毛猫が室内をのぞきこんでいた。野良猫のようで非常に警戒している。だが、三十六歳が皿にえさをいれて小窓のむこうに置くと、おそるおそる食べはじめた。

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これが出会いだった。

一ヶ月ほど、夜になると小窓のむこうで鳴いて、えさを食べにくる日々が続いた。家には入ってこないし、さわらせてもくれない。手をのばすと逃げていく。かなり野良生活も長いんだろう。

「ていうか、飼うつもりなの?」と私はたずねた。3匹目のセツシが家にきたとき、三十六歳女性は「もう増やさない」と宣言していたからである。これは当時の日記にも書いたはずだ。

「飼うよ」

三十六歳女性は真顔で答えた。宣言は無効になったようだった。しかし私も大して驚かなかった。「だろうな」という感じだった。というのは、三十六歳の態度は早い段階で軟化しており、ある時など、

「もう絶対ネコは飼わない! もしも飼うならキジトラの女の子!」

と言っていたからである。

こんなものは、「もう絶対ビールは飲まない!もしも飲むならスーパードライ!」というようなものであり、完全に矛盾している。銘柄指定しちゃったよ、と思いますね。

そもそもミケはキジトラではないが、それはどうでもいいようだった。三十六歳女性は粘り強く交流を続けた。そしてある時、窓の向こうではなく室内に皿を置いてみた。ミケは小窓からピョンと家の中に飛び込むと、おそるおそるえさを食べはじめた。瞬間、我々はガッと小窓を閉めた。捕獲完了である。

三十六歳女性はネットで購入していた大型のケージにいれた。他のネコたちに馴染ませるために、しばらくは隔離して飼うらしい。明るい光の下で見ると、ミケは野良にしては綺麗な顔立ちをしていた。我々は「野良の読者モデルだ」と言い、「野良モデルだ」と言い、最終的に「野良モだ」というところまで短縮された。

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「こんな美人が野良モをしてたなんて!」

三十六歳女性は騒いでいた。

最初の一週間は大変だった。外に出せと鳴き続けるし、他のネコたちはその声に怯える。我々の心も折れそうになった。すでに野良として二歳ほどになっており、このようなネコを今から家で飼うのはむずかしい。病院に連れていくと獣医は神妙なおももちで言った。やはり外に放してやったほうがいいんだろうか?

我々も神妙なおももちで話し合ったが、二週間を過ぎると不満の鳴き声は激減し、態度は急変、平気で腹を出して寝るようになった。人間にも甘えてくる。獣医の神妙な顔は何だったのか。これはもはや野良ではないということで、我々は野良モと呼ぶことをやめた。名前は「ミケシ」に決めた。

ということで、現在、うちには4匹のネコがいる。初音、影千代、セツシ、ミケシである。こう並べてみると、3匹目から露骨にネーミングが適当になってますね。考えることをやめたな、という感じ。さすがにもう増えないと思うが、三十六歳女性のことなので新たなネコが小窓に来たら受け入れてしまいそうである。ですので絶対に小窓に来ないでください。とくにキジトラの女の子。