宮内庁次長は全面否定、天皇陛下「生前退位」ニュースの読み解き方
ラグビーのテストマッチを観覧される天皇陛下(写真:ロイター/アフロ)(写真:ロイター/アフロ)
NHKが天皇陛下「生前退位」のニュースを速報し、各メディアも一気に報じています。しかし、宮内庁次長は全面否定との報道もあり、どう判断したらよいのか分からないという方も多いのではないでしょうか。報道が錯綜するときは、各社の記事を比較して俯瞰的にみることが重要です。ニュースの読み解き方のポイントについて考えてみます。
今回のニュースで報道内容が分かれてるのは宮内庁の反応・対応です。最初に報じたNHKの記事によると、ご意向は、皇后さま、皇太子さま、秋篠宮さまも受け入れており、宮内庁関係者に示されているとのこと。配信時間は夜のニュースが始まる19時ぴったりです。
天皇陛下が、天皇の位を生前に皇太子さまに譲る「生前退位」の意向を宮内庁の関係者に示されていることが分かりました。数年内の譲位を望まれているということで、天皇陛下自身が広く内外にお気持ちを表わす方向で調整が進められています。
「生前退位」意向示されたのは5年ほど前というタイトルの詳しい解説もアップされています。こちらは20時33分です。ニュースの時間に合わせたウェブ記事の公開、詳しい続報の展開は、狙いすましたスクープであったことを伺わせます。
天皇陛下がこうした考えを示されたのは、5年ほど前のことで、以来、この考えを一貫して示されてきたということです。
一方で朝日新聞は、宮内庁の山本信一郎次長が取材に応じ「報道されたような事実は一切ない」とのコメントとともに、NHKの報道内容を全面的に否定したことを報じています。
宮内庁として生前退位について検討しているかに関しては、「その大前提となる(天皇陛下の)お気持ちがないわけだから、検討していません」と語った。
時事通信は、宮内庁の長官や侍従長を含めてなかったと報じています。公開は23時2分です。
「陛下が生前退位の意向を宮内庁関係者に示されたという報道があったが、そうした事実は一切ない」と繰り返し強調。「長官や侍従長を含め、宮内庁全体でそのようなお話はこれまでなかった」と話した。
朝日新聞や時事通信が次長のコメントを正確に引用しているかどうかも考えなければいけませんが、NHKが5年前から検討していたと解説しているにもかかわらず、「お気持ちがない」と発現するのは強すぎると感じます。
これは企業の合併や新規事業の広報担当でも良くある対応ですが、「報道された事実は(いまのところ)ない」とか「(私は)聞いていない」など、報道が正しくても言えない場合に逃げを打つことも出来るのです。
朝日新聞は宮内庁次長のコメントをウェブで公開したのは21時50分ですが、21時13分に「本記(出来事の概要を書いたメイン記事のこと)」を公開しています。その記事によると、宮内庁は具体的な手順について一切検討してないことのことです。
数年前から繰り返し周囲に話していたという。数年内の譲位を望んでいるという関係者もいるが、実現には皇室典範の改正などハードルは高く、複数の宮内庁幹部は具体的な手順について「宮内庁として一切検討していない。天皇陛下のご意向と、実現できるかは別の話だ」と話している。
毎日新聞はどうでしょうか。記事公開は19時24分、最終更新は21時53分となっています。宮内庁がお気持ちを表明する方向で調整していると書かれています。
数年以内での譲位を望まれ、宮内庁は、近く陛下自ら国民に向けてお気持ちを表明する方向で調整を進めている。
読売新聞は22時35分の更新。天皇陛下のご意向に絞ったもので、宮内庁の対応については記述がありません。
天皇陛下が生前に天皇の地位を皇太子さまに譲る「退位」の意向を持たれていることが宮内庁関係者の話でわかった。
このようにニュアンスが異なる報道の場合は「何かある」と考えるのが記者の常です。
宮内庁が反対しているから天皇陛下が何らかのルートを通じてニュースを促したか、反対派と賛成派がいて宮内庁が揺れているのか、まだ根回し中だったのか、NHKもしくは官邸や与党といった周辺にこのタイミングで出す何らかの意図があったのか、など…他にもいろいろな「意図」があるかもしれません。報道を受けてさまざまな動きも始まるかもしれません。
与野党幹部は13日、天皇陛下が生前退位の意向を示されていることに関し、皇室典範改正に前向きな考えを示した。
皇室報道を読み解くのがさらに難しいのは、通常の取材と異なり天皇陛下に直接取材し「裏」を取るのが非常に難しいことです。そのため、時に陛下の意向を自己の利益のために語る人たちが存在してしまうのです。報道が入り乱れている状況のときは、関係者の「意図」に注意しつつ、少しひいて冷静に状況を判断することが重要です。
関心のある方は14日付けの新聞各社の朝刊を書い、読み比べるのもオススメです。ネット、特にソーシャルメディアでは一つの記事がシェアされて別の見立ての記事を読めないことがあります。大きなニュースの場合は、記事の扱い(どのくらいの大きさか、何面で展開されているか)、見出し、内容などを比較して異なる点を洗い出し、自分なりの見立てを整理してみることが大切です。
これまで多くの慣例を打ち破り、国民と直接対話してきた天皇陛下ですから、どこかでお話になる機会があるのでしょう。報道の様子を見ながら、天皇陛下のお言葉があるまでは、個人的には「判断保留」しておきたいと思います。