都知事選立候補者への「踏み絵」となってしまった韓国人学校問題

シノドスで記事を書いた韓国人学校の件、最近では都知事立候補者への「踏み絵」と化していて、とてもイヤな流れだと思っている。

舛添知事時代の3~5月頃には、産経新聞などの産経系メディアが記者会見などでせっせと質問して記事にしていた。舛添氏は辞任し、次の都知事選の立候補者である小池百合子氏、増田寛也氏、鳥越俊太郎氏の記者会見ではすべてニコニコ動画のナナオ記者がこの問題について質問した。そして小池氏と増田氏は「白紙にする」と応えた。

私は4月ごろから、1日1回以上twitterを「韓国人学校」で検索するのを続けている。報道が出たときは反差別系の人も話題にするけど、そうでない時期にもずーーーっとネトウヨだけはこれを問題にし続けていた。そしてメディアがこの件を報道すればそういう層にたいへん受けることを覚えてしまった。


最近では山本一郎氏もYahoo! 個人で、民族教育の必要性は認めるが、待機児童も多いのだから韓国人学校には貸すべきではない、と言っていて、あちゃーと思った。

彼は保守派を名乗っているが、ヘイトスピーチには批判的だったはずだ。彼のファンには「保守だけど差別には反対」という人々も多いと思うので、これによって、レイシスト・一部都議・産経系メディアが最初に作った「韓国人学校を作ると、待機児童問題と衝突する」という意見が広まってしまったことに危惧を感じる。

韓国人学校に最も反対していた柳ケ瀬都議さえも、問題の旧高校の敷地近くに保育園ができるらしい、と5月半ばにブログに書いている(そこまでして韓国人学校を増設したいのか、と謎の怒り方をしているが)。

確かに、この保育園ができても、まだ待機児童はゼロにはならないかもしれない。しかし保育園には園バスはないし、小規模なものを都市部では徒歩で通える範囲で分散して建てられている。この敷地は、特別支援学校にはやや狭かったのだろうし(記事にも書いたように、だからもっと広い敷地が見つかってそちらに変更したのだろう)、保育園には広すぎる。韓国人学校に使うなら、高校の建物は壊さずにそのまま転用できるというのも理由の一つになっているので、十分に妥当な選択と言えるだろう。

東京都は2010年に、フランス人学校のために旧都立高校の都有地を売ることを決定しているが、このときすでに待機児童問題はあった。今年との違いは「日本死ね」ブログをきっかけにこの話題が盛り上がり、未就学児を持つ親以外にも知られたことにすぎない。

私は全体的な方針としては、保育園を増やして待機児童を減らすのには賛成だが、待機児童が一人でもいるうちは都有地を保育園以外に利用してはならないという考えには反対だ。都民にはさまざまなニーズを持った人がいる。それを言うなら同じ新宿区内にもっと広い敷地で用意された特別支援学校の予定地はどうなるのか。それにも反対して保育園を作れというのか。そうでないなら、障害児教育には反対できなくても韓国人学校には「それよりも保育園を」と反対できるのはなぜか。


この問題について、都知事選立候補者で「(保育園や老人ホームなどの検討の余地はあるにしても)韓国人学校には土地を貸すべきでない、という意見は差別でありよくない」ときっぱり言ったのは宇都宮健児氏ただ一人だったが、彼は降りてしまった。

それにしても、山本氏さえ「ネトウヨ」呼ばわりし、在特会関連の団体で講演するなど元々そっち系の小池氏はともかく、増田氏まで韓国人学校の問題を白紙にすると言い出したのはなぜか。先に出ていた山本氏の記事を気にしすぎたのか。

「韓国人学校」のtwitter検索結果を見るとよくわかるのだが、ネトウヨたちは「それでも増田は親韓派で安心できない!」と吠えていて、レイシストだけど在特会みたいなのはちょっと、というタイプは小池氏に投票するだろうし、差別に批判的な人間の支持は失うしで、なにもメリットがないと思うのだが。


こういう流れに批判的な、つまり、韓国人学校に貸してもよいだけの理由はある、というスタンスで書かれた、商業媒体に掲載された記事が、産経のソウル支局記者が、今年3月に自社の論調をいさめた記事を除いては、いまだに私がシノドスに書いた記事しかないのはどういうことだろうか(私が調べた限りでは。見落としがあれば教えてください)。反差別的なスタンスのジャーナリストなどはなぜ取材しないのか。

韓国人学校増設反対派は、一部都議やチャンネル桜、産経新聞をはじめ夕刊フジや正論などの産経系メディアがせっせと記事にしてきて、今では山本氏や増田氏のような人までそれに乗った論調になってしまった。私はこれは政策デマだと考えている。もっと色々な人やメディアにこの問題を取り上げてほしい。