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惹かれあう男女。それを引き裂く力のせめぎ合い。
第38回アカデミー賞の5部門受賞作品「ドクトル・ジバゴ」をTOHOシネマズ 市川コルトンプラザで見てきました。
原作は、ソ連の作家ボリス・パステルナークが書いた大河小説。作品を書いた翌年にはノーベル文学賞が授与されることになったが、ソ連共産党が辞退を強制し、パステルナークは受賞を辞退しています。(Wikipedia「ドクトル・ジバゴ」より)
映画はロシア革命を背景にユーリー・ジバゴとラーラの愛が描かれます。
主な登場人物はこんな感じ。
- ユーリ・ジバゴ
幼い頃両親と死に別れ、母親の友人夫妻に引き取られた。
医者であり詩人。トーニャと結婚。生まれた子どもも愛している - トーニャ
ジバコ育ての親の一人娘。ジバコと結婚。心やさしくジバゴを見守る。 - ラーラ
母の職業は仕立て屋。母子家庭なのだが、コマロフスキー(弁護士)がパトロン。
革命運動家のパーシャと結婚する。
看護師になったラーラは行方の分からなくなったパーシャを探す。ユーリ・ジバゴと出会い、恋に落ちる。 - パーシャ
革命運動家。ラーラの夫になる。革命軍の重要人物になる。 - ヴィクトル・コマロフスキー
ジバゴの父が遺言を委託した弁護士。ラーラの母のパトロン。体調を崩した母の代りにラーラを食事に誘い、帰りの馬車の中で強引に唇を奪う。ラーラの身体を強引に奪い「強姦ではない」とうそぶき、ラーラにピストルで撃たれて手に怪我をする。その手当をするのはユーリ・ジバゴ。
何事も強引であり、憎まれ役であることを自覚しながら生きる男。 - エフグラフ・ジバゴ
ユーリ・ジバゴの異母兄、革命軍の幹部。ピンチになったとき現れてユーリ・ジバゴを助ける。
ロシア革命の戦場で医師として治療にあたるジバゴ。そして、夫のパーシャを探している看護師のラーラが出会います。その二人を引き裂くのがロシアの過酷な自然であり、ロシア革命という歴史です。それをデヴィッド・リーンが壮大なスケールの映像と音楽で描いたのが「ドクトル・ジバゴ 」です。
原作はボリュームのある大河小説
小説版「ドクトル・ジバゴ 」の英語版Wikipedia:「Doctor Zhivago (novel)」を眺めると Part 1 から Part 15 まであり、592ページもあるのがわかります。それより凄いのが「Diagram of selected relationships in Doctor Zhivago」と書かれている登場人物の相関図。こんなに登場人物の多い大河小説がバッサリと削られて、愛の物語になったのが分かります。
大きなスクリーンでないと魅力が半減する
スケールの大きな映像は見事です。音楽にも圧倒されました。
モーリス・ジャール: 映画「ドクトル・ジバゴ」より - ララのテーマ
- アーティスト: リチャード・ヘイマン交響楽団
- 出版社/メーカー: Naxos
- 発売日: 2013/10/16
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アマゾンのDVDレビューを見ると、「巨大スクリーンでもう一度観たい。そんな風に思わずにはいられない」という感想の人がたくさんいます。
テレビ放送を録画したデヴィッド・リーン監督の「アラビアのロレンス」を見始めたことがあるのですが、映画に熱中できなくて見るのをやめてしまったことがあります。「ライアンの娘」でも同様な経験をしたことあります。
ところが今回、同じ監督の「ドクトル・ジバゴ 」を大きなスクリーンで見ると、「アラビアのロレンス」や「ライアンの娘」をTVで見たときとは全く違った印象です。
その映像のスケール、ダイナミックな音楽に圧倒されてしまいました。デヴィッド・リーン監督の作品は小さいスクリーンでは良さが伝わらないのです。
俳優・柄本明さんの 息子さん(あれ、二人いるどっちだっけ?)が、TVのトーク番組で「映画は映画館で見るように言われている」と話しているのを聞いたことがあります。さすがは名優・柄本明さん、プロは画面の大きさによる違いを良く知っているのだと感心したことがあります。
アカデミー賞外国語映画賞、日本アカデミー賞最優秀作品賞を受賞している「おくりびと」のDVDを見た人が「普通の映画だった」とツイートしていました。
「おくりびと」にストーリーはあるけれど、それはどうでもいいんだ。死者を着飾るときの茶道のような所作の美しさ、衣擦れの音が響く緊張感。それが美しいのだけれど小さい画面では伝わらないのだと残念に思ったことがあります。
映画は大きい画面でみてください。映画の良さがよく分かります。
現実の世界では嫌われるけど、みんな大好きドラマの不倫
1月7日発売の「週刊文春」に清純なイメージで人気のあるタレントのベッキーさんが不倫をしていたと報じられ、ネットが騒然となりました。
また、最近では荻上チキさんの女性関係が報道され、「お願いだから既婚者は離婚してから好きな人と付き合って!」とブログを書く人も現れました。
そのときに書いたブコメがこれ。
男は上半身と下半身は別な生き物として理解するしかありません。知性にあふれた上半身とスケベなおっさんの下半身、このふたつが合わさったのが男という生き物です。分けることは出来ないのです。 / “お願いだから既婚者は離婚してから好きな…” https://t.co/ekmfVbIsQx
— sirocco (@sirocco_jp) 2016年7月7日
現実の社会での不倫はみんなから叩かれ、当人は弁明・謝罪をするのですが、物語の世界になると、かなり違って観客は主人公の感情にどっぷりとひたります。
「逢びき」、「終着駅」、「マディソン郡の橋」、「恋に落ちて」、「金曜日の妻たちへ」、「失楽園」・・。その中でも「ドクトル・ジバゴ 」は評価が高い作品です。
なぜ、現実の不倫は許さないのにドラマの不倫はみんな大好きなのでしょう?
映画は主人公の視点で描かれます。主人公からすれば、不倫であっても避けられない美しい体験に違いありません。非モテの人生を一直線に歩いてきた私でも、現実の人生では味わえないことを映像の中で疑似体験して、感動を味わっているのです。
ジバゴとラーラが再開したときのセリフが印象に残っています。
ラーラ「わたしたち、どうなるの?」
ジバゴ「わからない・・・」
背後に危険なものがあれば、さらに劇的に美しい出来事に見えてしまいます。
ドクトル・ジバゴ撮影秘話
Youtubeにドクトル・ジバゴ撮影秘話がアップされています。
- ドクトル・ジバゴ撮影秘話1
- ドクトル・ジバゴ撮影秘話2
- ドクトル・ジバゴ撮影秘話3
- ドクトル・ジバゴ撮影秘話4
- ドクトル・ジバゴ撮影秘話5
ライセンスが怪しいのでリンクしませんが、 ユーリ・ジバゴ、トーニャ、ヴィクトル・コマロフスキー、エフグラフ・ジバゴを演じた人たちが撮影の裏話を解説していて興味深い映像です。
「ドクトル・ジバゴ撮影秘話2」 の中でユーリ・ジバゴを演じたオマル・シャリーフが
「俳優にとってはただのお話しですが、原作を書いた著者にとってこれは現実でした」と話しています。
著者のボリス・パステルナークは現実にロシア革命を生き抜いた詩人です。ボリス・パステルナークには奥さんも子供がいて、そして、ラーラのモデルとなった女性もいるのです。オルガ・イビンスカヤ。現実の映像もあります。
オルガは「彼は辛かったでしょう」と言っています。
パステルナークは、オルガと出会ったときから10年をかけて「ドクトル・ジバゴ」をかきました。しかし、それは出版されることはなく仲間内で読まれていました。
その原稿が持ち出されて出版。パステルナークはノーベル文学賞を受賞しますが、授賞のため出国すると入国を拒否すると言われ辞退。
また、オルガは彼との関係をとがめられ、2度も労働収容所での懲役刑を受けています。
「仕方がないわ。あれは純粋な愛で高くつく愛だった。出会いからそうだった」とオルガ。
パステルナークを罰しないでオルガを罰する共産党。オルガの夫が共産党の実力者だったから? さぞ、パステルナークは傷ついたことでしょう。独裁政権とはホント怖いものだと実感しました。
現実のオルガの人生はどんなものだったのでしょうか。
しがらみのある雑多な現実の生活に追われたこともあったかも知れません。しかし、独裁政権の酷い仕打ちは益々オルガの気持ちを美しく昇華させていったのではないかとも思います。
「ドクトル・ジバゴ 」。是非、映画館で見てください。