オランダ・ハーグの仲裁裁判所は12日、南シナ海における中国の権益を否定する前例となる判決を下した。中国政府は舞台裏で、フィリピンが判決を「棚上げする」ことを条件に経済的な誘因を与え、判決の効果を鈍らせようと尽力してきた。
この戦略は中国にとって、長年実践され、有効性が実証されている。自国の経済力を使い、国際的に認められた領有権の主張について近隣国を丸め込み、脅し、協力をあからさまにカネで買う戦略だ。これは、中国に対して共同戦線を張るよう地域の国々を説得するうえで米国政府が直面する困難を浮き彫りにする。
アナリストらは、フィリピンが中国と裏取引しようとすれば、米国の努力を損なう恐れがあると話す。中国政府に圧力をかけ、南シナ海の85%に対する強硬な領有権主張――いわゆる「九段線」――を取り下げさせようとするものだ。国際世論を動かすために仲裁裁判所の判決を利用するわけだ。
マニラにあるデラサール大学の政治アナリスト、リチャード・ヘイダリアン氏によれば、フィリピンのロドリゴ・ドゥテルテ新大統領は「間違いなく、中国から譲歩を引き出すために仲裁を利用する方法を検討する」。
「だが、米国やその他の主要同盟国は間違いなく、強い声明を出し、判決の順守を求めるようドゥテルテ政権に最大限の圧力をかけるだろう」と付け加える。一方で、ドゥテルテ政権に対し、中国は自らに恥をかかせるために裁判を利用しないようフィリピンを説得することに最善を尽くしているという。
■「論争を棚上げし共同開発を優先」
シドニーのローウィ国際政策研究所のディレクター、ユーアン・グレアム氏は、「もしフィリピンが自国の主張を押し通さないと決め、むしろ中国との2国間交渉を再開する際の裏カードとして(判決を)使うなら、米国その他の国々が国際舞台で行動したことは台無しになるだろう」と指摘。さらに「海洋法に関する米国の立場は、この判決が中国に圧力をかけることにかかっている」と語った。
南京大学の中国南海研究協同創新センターの執行主任を務める朱鋒氏は、海洋権益について近隣諸国と取引する中国政府の取り組みは、名前さえ付いている往年の政策だと言う。大まかに訳すと、共同開発を優先して論争を棚上げすること(「擱置争議、共同開発」)を意味する。
朱氏は外交上の成功をいくつか引き合いに出す。北部湾(トンキン湾)の海洋権益に関する2000年のベトナムとの妥協や、05年にベトナムおよびフィリピンと調印した海洋地震の共同研究に関する合意などだ。
「もし(フィリピンと中国が)実利的なアプローチを取るのであれば、仲裁の結果が棚上げにされる限り、もちろん中国は実現を望んでいる」と朱氏は言う。「米国の利益には沿わないかもしれないが、間違いなく合理的な妥協だ」