南シナ海仲裁裁判 中国「判断は紙くず」

南シナ海仲裁裁判 中国「判断は紙くず」
南シナ海を巡る国際的な仲裁裁判で、フィリピンの主張を全面的に認める判断が示されたことに対し、中国外務省の幹部は「判断は、紙くずであり無効だ」と反発するとともに、フィリピンとは今回の判断を踏まえた対話であれば行うつもりがないと強調しました。
南シナ海を巡り、フィリピンが申し立てた国際的な仲裁裁判で裁判所は、12日、中国が南シナ海のほぼ全域に管轄権を主張しているのは、「法的根拠が無く、国際法に違反する」という判断を示し、フィリピンの主張を全面的に認めました。

これを受けて中国外務省の劉振民次官が13日記者会見し、仲裁裁判は、フィリピン政府が一方的に申し立てたものだと批判し「判断は、紙くずであり拘束力は無く、無効だ」と述べ、強く反発しました。

そのうえで「今回の判断に基づいて行動を起こせば、それは新たな不法行為であり、中国政府は必要な手段を用いて阻止する」と述べて、フィリピン政府の今後の対応しだいでは、強硬な措置をとることもありうるという考えを示して、けん制しました。

さらに劉次官は「フィリピンのドゥテルテ大統領は、中国側と南シナ海問題について、協議を行うことに前向きな姿勢を示しており歓迎する」と述べる一方、「仲裁裁判の判断は脇に置いたうえで話し合いの場に戻るべきだ」とも述べて、フィリピンとは、今回の判断を踏まえた対話であれば行うつもりがないと強調しました。

中国政府がこうした強硬な発言を繰り返す背景には、領土主権にまつわる問題で弱腰ともとれる姿勢を見せれば、国内から批判を浴びると懸念していることがあるとみられます。

中国外務次官「仲裁裁判は柳井氏が操った」

中国外務省の劉振民次官は、13日の記者会見で、今回の判断を無効だと主張する理由の1つに、仲裁裁判の仲裁人5人のうちの4人が当時、国際海洋法裁判所の所長だった日本の柳井俊二元駐米大使によって任命されたことを挙げました。
劉次官は、柳井氏について「安倍政権の安保法制に関する懇談会の座長を務め、安倍総理大臣を支援して集団的自衛権の行使を可能にし第2次世界大戦後の国際秩序に挑戦した人物だ」と説明するとともに、「今回の仲裁裁判は、完全に柳井氏が操っており、仲裁裁判の過程においても影響を与えた」と述べました。

中国紙も反発

南シナ海を巡る国際的な仲裁裁判の判断を受けて、13日朝の中国紙の多くは、1面に、習近平国家主席の「南シナ海の島々は中国領土だ」という発言や、中国が主張する南シナ海のほぼ全域にわたる管轄権を記した地図を掲載しています。

ほとんどの中国紙は、国営の新華社通信の記事を掲載し「仲裁裁判の判断を受け付けない」とか「判断は単なる紙くずだ」といった見出しをつけて、仲裁裁判の判断を無効だとする中国政府の主張を伝えています。

また、中国共産党の機関紙・人民日報は1面に論評記事を掲載し、「中国はあらゆる必要な措置をとり、領土主権や海洋権益が侵されないよう守る。中国人民のそれらを守る決心は断固として揺るがない」として強硬な措置も辞さない姿勢を示しています。

今回の仲裁裁判の判断では、これまで中国政府が国内外で行ってきた領土主権に関わる主張が「法的根拠がなく、国際法に違反する」と全面的に否定された形です。このため、習近平指導部は、国民の批判が政府や党に向かうことを警戒し、これまでの主張は正しく、仲裁裁判の判断が誤りだと強調することで、国内の批判をかわすねらいがあるとみられます。

中国版ツイッターも反応

南シナ海を巡る国際的な仲裁裁判の判断を受けて、中国版ツイッター「ウェイボー」では、「南シナ海の水は、一滴も渡さない」とか、「祖国や領土を守れ」といった書き込みが相次いでいます。

とりわけ、「中国は、何一つ欠くことはできない」ということばが、頻繁に書き込まれていて、南シナ海における主権や権益は、あくまでも中国にあるという声が多く見られます。

また、「フィリピン製品をボイコットしよう」などと、バナナやドライマンゴーといったフィリピンからの輸入品を購入しないよう呼びかける書き込みも相次いでいます。

中には、仲裁裁判の仲裁人の任命に、日本人が関わったことを批判する書き込みもありました。

一方で、「中国政府も、仲裁裁判に参加すべきだったのではないか」などと、中国政府の主張や対応を疑問視する声も一部にあるものの、極めて少数です。

中国政府は、これまで、南シナ海を巡るみずからの領土主権の主張が正しいと国内外で繰り返し強調してきたため、当局が管理するインターネットでは、政府の主張に沿った意見が多く掲載されているとみられます。

EU大統領 「中国は受け入れるべき」

一方、EU=ヨーロッパ連合のトゥスク大統領は、南シナ海を巡る国際的な仲裁裁判の判断について、「EUは、国際法を遵守する立場から全面的な信用を置いている」と述べ、中国は裁判所の判断を受け入れるべきだという考えを示しました。

これは、13日までの2日間、中国の北京で行われたEUと中国の首脳会議のあとの記者会見で述べたものです。トゥスク大統領は、会議の中で習近平国家主席らと南シナ海の問題についても意見を交わしたことを明らかにし、「われわれの立場との隔たりはあるが、中国側の主張については、習主席から明確に示された」としたうえで、「裁判の判断が、南シナ海における対立を解消するきっかけになることを期待する」と述べ、中国に対し、平和的な解決を求めました。