国連の裁判所が12日、中国の主張する南シナ海の領有権を無効とする判断を下したことで、中国は国際舞台で存在感を高めていくうえで重大な時を迎えた。焦点は中国が国際法の判断を受け入れるのか、あるいは国益に資する場合にだけ受け入れるかどうかだ。
国連がオランダ・ハーグに置く仲裁裁判所の判決は、世界の海洋利用に関する各国の権利と責任を定めた国連海洋法条約(UNCLOS)の下で拘束力を持つ。中国は条約締結国として判決に従うべきだ。従わなければ、通商や環境、政治、防衛に関する多数の条約に基づく国際体制の中で、信頼が傷つくことになる。
判決を無視すれば、中国は力による国際問題の解決を第一に考えているというメッセージを世界に送ることになる。中国はすでに判決が無謀で不当だと批判している。だが、中国はならず者国家などではなく、むしろ不当な裁判からUNCLOSを守ろうとしてきたのだという答弁は、およそ重みを持たない。審理にあたった5人の仲裁人が全員一致で判断した。今回の判決が最終となる。
フィリピンが2013年に申し立てた仲裁裁判の判決のポイントは、中国が独自に設定した境界線で、南シナ海の約85%を占める「九段線」内の資源保有権を持たないという点だ。加えて仲裁裁判所はベトナムやマレーシアなども領有権を主張する南沙(英語名スプラトリー)諸島について、人が住んで経済的な生活を送っていないと判断した。つまり、周辺国は沿岸200カイリの排他的経済水域(EEZ)を設定できないということだ。
中国は予想通り強硬な反応を示した。外務省は12日、判決は「無効で拘束力はない」と宣言した。一方、国防省は国家主権と海洋権益を守るため、いかなる種類の威嚇と挑戦にも対処すると表明した。国としてのプライドを傷つけられたことで中国政府が軍事力の誇示に走り、南シナ海の航行の自由を守ると宣言した米海軍と衝突する危険が高まる事態になりかねない。
■欧州、断固とした外交的圧力を
世界の国々はこの問題の意味するところを完全に理解する必要がある。対応を誤れば、現在の超大国と将来の超大国との戦争が現実味を帯びてくる。従って、まず必要なのは全ての当事者の自制だ。しかしながら、その先は国際社会が一つになって中国と向き合い、判決に従って中国がUNCLOSと国際法全般を順守することを再確認できる方策を見つけ出さなければならない。
欧州の主要各国は地理的には遠く離れているが、年間5兆ドル規模の貿易路となっている海での二大大国のにらみ合いが、誰にとっても問題であることを認識すべきだ。中国が法治による国際秩序を守るよう、欧州のすべての国は断固とした外交的圧力をかけ続ける必要がある。英国は目先にとらわれた対中通商重視を捨て、この極めて重要な戦略的問題に米国と共に関与すべきだ。
南シナ海は中国と米国が対立する舞台だ。そこでの行動は世界中に余波を広げる。この係争地域で領土と資源を追い求めれば、通商上の主要相手国に対し大きな代償を払わなければならないことを中国にわからせる必要がある。今秋、中国・杭州で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会議をその場にすることもできるだろう。
(2016年7月13日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
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