参院選を受け、安倍晋三首相が大型の経済対策を担当相に指示した。経済の現状は政権担当前よりも悪化しており、効果がみえないアベノミクスをこれまで以上にふかそうという考え方は危うい。
発明王エジソンはあまたの「失敗」を繰り返したが、そのたびにこう言ったという。
「私は失敗したのではない。うまくいかない方法を見つけたという意味で、成功したのだ」と。
アベノミクスは参院選で失敗か成功かが論争となり、首相は「成功しているが道半ばだ」と言った。しかし、異次元の金融緩和でも「二年で2%」の物価上昇は達成できず、三年過ぎてもデフレから脱却できないままではアベノミクスの失敗は明白である。
ただ、金融政策で物価を上げることはできないと実証した意味では「成功」といえる。リフレ派の主張は間違っていたことがわかったのである。
首相は選挙戦を通じ、有効求人倍率が全都道府県で一倍を超え、賃金は二年連続で上昇したことをアベノミクスの成果と誇った。
だが、求人の改善は人手不足を反映した可能性が高く、賃金も物価を加味した実質賃金でみればマイナスが続いている。大企業や富裕層など一部を除けば、この所得が増えないことが消費を冷やし、経済低迷の最大の要因である。
異次元の金融緩和は限界論がささやかれ、三年間続いた円安・株高の流れは今年に入って逆回転し、アベノミクス開始時の水準近くに戻った。そこで今度は財政政策を最大限にふかす構えである。
早くも事業規模で十兆円超の大型対策が取りざたされている。中身より規模が先にありきという旧来の自民党的発想が問題だ。円高で企業収益は悪化し税収が期待できないのに財源はどうするのか。
伊勢志摩サミット前の欧州歴訪で独・英から「財政は短期的な景気浮揚効果しか望めず、成長戦略こそ進めるべきだ」と釘(くぎ)を刺されたのではなかったか。目先の景気よりも経済の実力を高めることが大事なのだ。それには再分配で格差を縮め、消費を担う中間層を厚くする。社会保障の再構築も待ったなしだ。
「失敗は成功の母」ととらえたエジソンだから成功を収めた。首相もアベノミクスの「失敗」から学ぶべきだ。選挙戦で約束した子育て支援など分配政策への積極投資を必ず実行する。アベノミクスを加速し、傷口をさらに広げることなど許される状況にはない。
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