私の朝は早い。
私は、とある悪の組織でパートとして雇用されております。
悪の組織の人材事情 - 悪の秘密結社のアフター5
再雇用パートのトミ子(68)を主人公にしたスピンオフ企画を熱望します(笑)
2016/07/12 16:35
もう68になりますので本当なら家でノンビリおばあちゃんをやっていたいと思うこともありますが息子のことを考えると働きに出ざるをえません。
子どもは2人、授かりました。
娘はキチンとした勤め人の旦那さんに嫁ぎ、娘ができて私はおばあちゃんになりました。
初孫の可愛さといったらありません。
たまに会いに来てくれる孫が私の唯一の楽しみです。
翻って息子。
もうすぐ40になるというのに定職に就かず家の中でパソコンばかり。
私は彼が生活できるようにこの年にもなって働きに出ています。
もちろん息子も働く意志がないわけではありませんでした。
いくつかの企業様に就職したこともあります。
でもなぜかうまくできず辞めることになったりクビを言い渡されたこともあるようです。
あの人みたいにどこかのトップになるのかと親バカな私は夢をみたこともありました。
大きくなるにつれてあの人に似ていく息子。
今はそんな息子に胸を痛めるばかりです。
私は息子のために毎朝、朝食と昼食の支度をして仕事に出かけます。
こうして私たちが生活できるのもあの人が私に仕事を与えてくれるからです。
もうずいぶんと昔の話ですが困った私たちを見かねて私たちを養ってくれています。
奥様の手前、仕事をしない訳にはいきませんがそれでも生活できるだけで感謝しています。
あの人も息子のことは気にしているみたいですがさすがに息子を自分の組織で雇うことはできません。
いけない。もうこんな時間。
組織の皆さんが出勤する前にアジト駐車場のゲートを開放するのが私の仕事です。
その後は掃除と洗濯。
若い頃、無茶をしたツケでしょうか。
それとも外に出ない仕事が向いてないのでしょうか。
単純な仕事なのですが私はどうももの覚えが悪く、洗濯物の返却先を間違えたり、同じところばかり掃除して怒られてしまいます。
2年ほど前でしょうか?
中途採用で入ってきた方が存在感を増すにつれて怒られる頻度も増えてきました。
歳は息子と変わらないくらいでしょうか。
彼が発言力を増すにつれ、私たちのような仕事にも質が求められました。
もちろん。悪いことばかりではありません。
私たちの仕事は、世間様で底辺と呼ばれているような戦闘員の方々からも辛辣に扱われることもありました。
彼はそれを良しとせず、私たちを対等に扱うことを組織として決定してくれたのです。私たちパートタイマーも役割が違うだけで仕事としての価値は違っても尊卑はないと戦闘員の意識改革もしてくれました。
その分、掃除、洗濯にも質は求められますがおかげさまで私たちも仕事に誇りをもつことができました。
ただ、私はミスが多く彼に怒られることが多いのですが。
こないだも落とし物を拾った時、息子が見ているアニメキャラクターの人形だったので貰えないか彼に聞いたところ、遺失物対応の規則に従えと怒られてしまいました。
人形は掲示板に貼り出されてましたが戦闘員の皆さんは恥ずかしくて取りに来られないだろと言っていました。
それでしたら私に譲ってくださってもいいのに。
彼は真面目で固いところがあります。
それでも私は彼に感謝しています。
拾われたこの惨めな老いぼれに仕事をする喜びと誇りを与えてくれたのですから。
彼はわずか2年で組織に無くてはならない人材になりました。
ほぼすべての組織運営に関わっています。
忙しそうな彼を見て時々、身体を壊さないか心配になります。
息子と歳の変わらないのに忙しそうに働く彼を見て、彼が息子だったらと…。
いけませんね。こんなこと考えては。
私はあの人の、そして彼がいるこの組織が大好きです。
こんな私に目をつむって置いてくださる奥様にも感謝しています。
私はこうして日々感謝しながら仕事に精を出します。
おやおや、今日は駐車場がゴミだらけですね。
たまにあるんですよね。
あの人と彼に気付かれる前にお掃除しないと。
余計な些事に囚われてはいけませんからね。
今日は正義の味方か敵対組織か。
・・・
「うわっ!駐車場ゴミだらけじゃん!何コレ?赤いの?血?なわけないか。誰だよ?いつからだ?」
おやおや、歳のせいでしょうか。
今日は掃除まで間に合いませんでしたね。
老いたものです。
彼ももう少しゆっくり出勤してこればよいのに。
昨日も遅かったのですから。
「あ、トミ子さん。悪いんですけどゴミ片付けといてもらえます?またイタズラですかね?」
そうですね。
悪い人も昔に比べて増えましたからね。
「なんかカラフルなガラス?金属片?危ないなぁ。パンクしちゃうよ。悪質だなぁ。」
ああ、5人組の仮面ですね。
お顔を拝見したかったものですから。
「片付けの手伝い入ります?」
いえ。必要ありません。
まだお身体の処分も済んでおりませんし、何よりお手を煩わせる訳にはいきません。
「と、ところでトミ子さん。」
はい?
「こんな仕事で満足?もっと他の仕事もしてみたくないんですか?」
滅相もございません。
私はこのお仕事に満足しております。
このお仕事が好きなのです。
残りわずかな人生を送るにふさわしいお仕事と思っております。
ですから、他のお仕事などとおっしゃらないでくださいませ。
た、確かにミスも多いのですがこのお仕事を捨てられては…。
「そ、そうですか…。まぁ無理にとは言えないか…。じゃあ悪いけど片付けよろしくね。」
さて、お片付けして仕事に励みましょう。
息子のため、そして誇るべき組織のために。
・・・
なんのことかわからない方はこの記事からお読みください。