高速バスの昼行便に乗る最大の利点は、ゆっくりと思う存分集中して本を読んだり音楽を聴いたりできるところだと思う。
大人になるとなかなか読書や音楽にまとまった時間を取れなくなってしまう。せわしない日常生活に追われて、一冊の本をゆっくり読んだり、音楽のアルバムを一枚通して聴いたりすることが難しくなる。
高速バスの中だと、有無を言わさず長時間拘束されて何もすることがないのがいい。泣いても笑っても目的地に着くまではシートに座っているしかできないので、本や音楽に集中するにはもってこいだ。
僕がいつも高速バスの中に持ち込む一式は次のような感じだ。
・文庫本を数冊
・スマートフォン(音楽・ネット・読書・ゲームなどに使う)
・スマートフォン充電用バッテリー(長時間だとこれがないと死ぬ)
・アイマスクと耳栓(眠りたくなったとき用)
・水かお茶のペットボトル
・お菓子を2種類(飽きないように甘い系としょっぱい系を両方用意する)
これだけの装備があれば5、6時間くらいは余裕で戦える。
本を読んで、それに飽きてきたら音楽を聴いて、それも飽きたらひたすら景色を眺めながらぼーっと考えごとをしたりして、そうしたらいつの間にか眠ってしまったり、目を覚ましたらまたしばらくぼーっとしたりして、そんなことを繰り返しているうちに自然に何時間も過ぎていく。
しかしまあ、本を読んだり景色を眺めたりの繰り返しで退屈しないのは、5、6時間くらいまでかもしれない。
8時間以上の行程になると最後のほうはさすがにやることもなくなってきて「いい加減早く着かないかな」ということばかり考えるようになる。
まあそれはそれで「着いたらまず何食べようか」「明日は何をしようか」という、旅先への期待を心の中で膨らませる時間と考えるとちょうどよいかもしれないけれど。
逆に行程が短くて2、3時間くらいで着いてしまう場所だと、僕なんかは「もう少しバスに乗っていたかった」「これからがいいところだったのにな」と物足りなさを感じてしまう。
とりあえず中距離くらいの5~6時間くらいの便が高速バス入門としてちょうどいいだろうか。片道5時間くらいで、時間帯は昼行便、できれば乗客の少ない平日がベター、座席は隣の席との間隔が広い3列シート、というのが高速バスを堪能するためのベストなセッティングだと思う。参考までに、東京を基準とすると5、6時間で行ける都市は名古屋・仙台・新潟などだ。興味を持った人はぜひ試してみてください。
あと、高速バスでの旅と言えば、休憩で立ち寄る高速道路のサービスエリアも楽しみの一つだ。
なぜかサービスエリアには良い印象しかない。単調な高速移動の合間に挟まる砂漠の中のオアシス的な存在だからだろうか。
あと、
・無料でお茶や座席が提供されていていくらでものんびり滞在していいところ
・いくらでものんびり滞在していいけれど、あんまりゆっくりしてると目的地に着かないので、いつも「もう少しゆっくりしたいけどそろそろ行くか」と若干名残を惜しみながら離れることになるところ
などの点が、サービスエリアに対する好印象の原因な気がする。同じような好印象は空港にも感じる。
レストラン、ショッピングモール、屋台、温泉、足湯、仮眠スペース、コインランドリーなどさまざまな施設が揃っている高機能サービスエリアに来ると「ここに住みたい」と一瞬思ったりするけれど、実際に住んだとしたら一時間くらいで飽きてしまう自信もある。サービスエリアは短時間だからいいのだ。
最後によく使う好きなルートを紹介したい。
東京から京都か大阪に向かうJRバスの昼行便に乗る。3列シートより4列シートのほうが安いけれど、3列シートのほうが確実に快適に過ごせる。4列シートは隣の席に誰も座らなければ広々と使えるけれど、隣の席が埋まっていると窮屈なのでギャンブル性が高い。車両タイプによっては電源やWi-Fiが付いているものもあるので必要な人はチェックしよう。
東京を抜けて名古屋の辺りまではあまり変化がなく、東名高速道路をひたすら走り続ける。このあたりは本を読んだり音楽を聴いたりに没入するのにちょうどよい。天気が良ければ途中で右側に富士山が見えるので見ておこう(結構でかい)。富士を過ぎたあたりでしばらく海沿いを走るので左手に太平洋が広がるのを見ることもできる。
ずっと同じ姿勢で座っていると体が痛くなるのでこまめに体を動かしたりほぐしたりするのは大事だ。道中ずっと眠ってしまう夜行便よりも、起きたままでいる昼行便のほうが意識的に体勢をこまめに変えられるので疲れにくいと思う。エコノミークラス症候群にならないように足をこまめに動かしたり揉んだりしよう。
バスは道中に何回か休憩のためにサービスエリアに入っていく。
「停車時間は20分間、15時20分までとさせていただきます。15時20分までに必ずお席へお戻りください」
最近のサービスエリアは施設が新しくて食事や買い物などに便利なさまざまな店舗が充実しているけれど、高速バスの短い休憩時間ではゆっくり楽しむ余裕はないだろう。「もしゆっくり来ることがあるならあの丼を食べてみよう」とか思ったりするけれど、そんな機会はこの先何年も来ないかもしれないとも思う。
延々と続く静岡県を抜けると愛知県に入り、名古屋の南の湾岸地帯を抜けていく伊勢湾岸自動車道へと進んでいく。このルートは埋立地の工業地帯の間を走り抜けていくので、青い海に浮かぶ武骨な巨大工場群をたくさん見ることができて映画みたいで楽しい。遊園地(ナガシマスパーランド)があるので観覧車やジェットコースターも間近に見える。
湾岸エリアを抜けると三重県に入る。三重県では先ほどまでの工業地帯から一転して、鈴鹿峠あたりの起伏の大きい山々の中を通るので、視界が緑に包まれる。「こんな山奥にこんな大きな道路を通すなんて人間の文明の力は凄いな……」という気分になれる。
三重県の次は滋賀県に入るのだけど、このへんになると出発から6時間くらい経っていて「いい加減バスも飽きてきたな……早く着かないかな……」という気分になっている。持ってきた本も読み飽きたし音楽も聞き飽きた。ツイッターに「バス飽きただるい」などと投稿して気を紛らしたりする。
でも、いい加減疲れてだるくなってきていても、到着まであと30分くらいになるとなんだかそわそわしてきて、バスを降りるのが名残惜しいような気持ちになってくるものだ。やがて高速道路を降り下道に移行すると、遠く離れた別の都市にやってきたのだという実感がじわじわと湧いてくる。
「長時間の御乗車お疲れ様でした。まもなく終点、○○駅に到着致します」
荷物を持ってバスを降りる。道のりは長かったが着いてみるとあっけなかった気がする。久しぶりに地面を踏んだような気分になる。もう外に出ても20分後の発車時間までに戻ってくる必要はない。シャバだ。自由を感じる。自分の好きなようにどこに歩いて行ってもいいのだ。
町の人々が聞きなれないイントネーションで話している。日常の生活は遥か遠い土地に置いてきた。しばらくしたらまたそこに戻らないといけないとしても、今は全部忘れたことにして、とりあえず今日の宿に荷物を置きに行こう。
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