国際法による秩序の発展に責任をもつ国になるのか、それとも秩序に挑戦する国か。中国の習近平(シーチンピン)政権は、その岐路にあることを自覚すべきである。

 オランダ・ハーグにある常設仲裁裁判所がきのう、南シナ海の問題について判決を下した。中国が唱えるこの海域での権利を認めないと結論づけた。

 国連海洋法条約にもとづく正当な司法手続きの結果である。自国に不利でも受け入れねばならない。それが国際社会の一員として当然の選択だ。

 裁判は3年前にフィリピンがおこしたもので、判決は、その訴えを全面的に認めた。

 中国が南シナ海の大半に歴史的権利をもつとの主張は無効であり、中国が支配する岩礁も海洋権益の基点にならないとした。さらに、裁判所が審理をしていた間にも岩礁の埋め立てを進めたことは、事態を悪化させたと非難している。

 中国政府は裁判に参加せず、判決に従わない旨を明言してきた。領有権を当然視する一方、こうした問題は当事者間で協議すべきだと主張した。

 しかし、そもそもフィリピンによる提訴は、ルソン島西方沖の岩礁の支配権を、中国が公船を繰り出して奪い取ったのがきっかけだ。実力を行使しておいて、当事者間で話し合おうというのは身勝手にすぎる。

 海洋法条約は、紛争解決策の一つとして仲裁裁判を位置づけている。条約には様々な解釈を生むあいまいさがあるほか、米国が加盟していない問題もしばしば論じられるが、それでも国際的な「海の憲法」として秩序を守る機能を果たしてきた。

 そのルールにもとづく裁判に背を向け、権威を否定する中国政府関係者の発言は、国際法秩序に対する軽蔑であり、責任ある国の態度とはいえない。

 中国は裁判の不当性について多くの国々から賛同を得たとも主張しているが、多数派工作で正義は揺るがない。そうした無為な外交アピールは、むしろ中国政府が国際社会の視線を意識している証拠でもある。

 中国自身も、過去には海洋法条約を根拠とする対外主張をしてきた。改革開放以来の歩みを振り返れば、各分野の国際ルールに自国を合わせたことで、国の繁栄と国際的な地位の向上に成功したのではなかったか。

 中国による周辺海域への軍事的進出や一方的な資源採掘に、近隣国は懸念を強めている。

 国際秩序の枠組みから逸脱した国に長期的な発展はない。国際協調がもたらす重い価値を、習政権は熟考すべきだろう。