南シナ海で中国主張の管轄権認めず 国際仲裁裁判

南シナ海で中国主張の管轄権認めず 国際仲裁裁判
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南シナ海を巡り、フィリピンが申し立てた国際的な仲裁裁判で、裁判所は中国が主張する南シナ海のほぼ全域にわたる管轄権について、「中国が歴史的な権利を主張する法的な根拠はない」などと判断し、中国の管轄権を全面的に否定しました。
中国が南シナ海のほぼ全域の管轄権を主張しているのに対し、フィリピンは「国際法に違反している」などとして3年前、仲裁裁判を申し立て、国際法に基づく判断を求めてきました。
オランダのハーグで審理を行った仲裁裁判所は、日本時間の12日午後6時ごろ、フィリピンの申し立てに関する最終的な判断を発表しました。
この中で、裁判所は、南シナ海に中国が独自に設定した「九段線」と呼ばれる境界線の内側に「主権」や「管轄権」、それに「歴史的権利」があると主張していることについて、「中国が、この海域や資源に対して歴史的に排他的な支配をしてきたという証拠はない」と指摘しました。
そのうえで「九段線の内側にある資源に対して中国が歴史的な権利を主張する法的な根拠はない」という判断を示し中国の主張を認めませんでした。
さらに裁判所は、本来は管轄権はないとしながらも「中国が最近行った大規模な埋め立てや人工島の造成は、仲裁手続き中に紛争を悪化させたり、拡大させたりしないという義務に反する」と強調しています。
通常、仲裁裁判所は、手続きが始まったあとに起きた状況について判断することはできませんが、今回は中国の行動に懸念を示す異例の対応といえます。
南シナ海の問題を巡り、国際法に基づく判断が示されたのは初めてです。
仲裁裁判では原則として上訴することはできず、今回の判断が最終的な結論となります。

中国政府「南シナ海の島々に主権を有する」

中国政府は日本時間の12日夜、「南シナ海の領土主権と海洋権益に関する声明」を出しました。
声明では「中国人は南シナ海で2000年以上の活動の歴史がある。中国は南シナ海の島々と周辺海域を最も早く発見して命名し、開発していて、最も早く、持続的、平和的、かつ有効に主権と管轄権を行使し南シナ海の領土の主権と関連する権益を確立した」としています。
そのうえで、中国は、国内法と、国連海洋法条約などの国際法を根拠として、南シナ海の島々に主権を有する、これらの島々は領海と接続水域、それに排他的経済水域と大陸棚を持つ、そして南シナ海に歴史的な権利を有する、と改めて主張しています。

比外相 画期的な判断が問題解決に重要な役割

フィリピンのペルフェクト・ヤサイ外相は、国際的な仲裁裁判の判断が示されたことを受けて記者会見し、「この画期的な判断が南シナ海を巡る問題の解決に向けて重要な役割を果たすと確信している」と述べました。
そのうえで「現在、判断の詳細について検討をしているが、関係者には、抑制的に、かつ落ち着いて対応するよう呼びかけている」と述べ、仲裁裁判所の判断を歓迎する一方で、中国に対する配慮もにじませました。

岸田外相 当事国は判断に従い平和的解決を

岸田外務大臣は談話を発表し、「日本は、海洋を巡る紛争の解決には法の支配と力や威圧ではなく平和的な手段を用いることの重要性を一貫して主張してきた。当事国は、今回の仲裁判断に従う必要があり、日本としては、当事国がこの判断に従うことで、今後、南シナ海における紛争の平和的解決につながっていくことを強く期待する」としています。

米国務省 声明で判断を支持

アメリカ国務省のカービー報道官は、12日、声明を出し、「今回の判断は南シナ海の問題を平和的に解決するために重要な貢献となるものだ」として判断を支持する考えを示しました。
また、カービー報道官は、詳細については分析中だとしたうえで、「中国とフィリピンがこの判断に従うよう望む。このような重要な判断を受けて領有権を主張する関係国すべてが挑発的な発言や行動を控えるよう求める」と述べ、中国を念頭に今回の判断を受け入れ、挑発的な言動をしないよう呼びかけました。

台湾 「島」認められず反発

台湾の総統府は、南シナ海を巡る国際的な仲裁裁判で、台湾が実効支配する太平島が「島」ではないとして排他的経済水域を認めない判断が出されたことについて、「絶対に受け入れらない」として強く反発しています。
今回の仲裁裁判では、南シナ海の南沙(スプラトリー)諸島で台湾が実効支配している太平島は「島」ではなく「岩」だとして排他的経済水域を認めない判断が示されました。
これについて台湾の総統府は、12日夜、声明を発表し、「今回の裁判の過程で台湾の意見は求められなかった」として手続きに不満を示すとともに、「絶対に受け入れられず、法的な拘束力はない」として、強く反発しました。
一方、「平等な協議を基礎に、関係国と共同で南シナ海の平和と安定を促進することを願う」として、対話を通じて平和的に問題を解決すべきだとの立場も示しました。
台湾では、国民党の馬英九前政権が、中国と歩調を合わせる形で仲裁裁判の判断を受け入れない立場を示していましたが、ことし5月に発足した民進党の蔡英文政権は、国際法を重視する姿勢を見せていました。
しかし、実効支配している太平島の権益を認めない判断が出たことを受けて、主権を守る強い立場を明確にした形で、総統府は、南シナ海のパトロールのため、海軍のフリゲート艦を予定を1日早めて、13日出発させることを明らかにしました。

ベトナム政府 裁判所の判断を評価

国際的な仲裁裁判の判断が示されたことについて、フィリピンと同じように南シナ海の島々の領有権を巡って中国と対立するベトナムは、外務省のレ・ハイ・ビン報道官のコメントを発表しました。
この中で、ビン報道官は、「裁判所が最終的な判断を示したことを歓迎する」と述べベトナム政府として国際法に基づく判断が示されたことを評価しました。
そのうえで「ベトナムは、地域の平和と安定のため、南シナ海の問題が武力や脅迫ではなく、外交プロセスや法律など平和的な手段で解決されることを強く支持する」と述べています。
ベトナム外務省は、今後、判断の内容を精査したうえで、正式な声明を発表するとしています。
ベトナムは、この裁判には直接は関わっていませんが、今回、南シナ海を巡る中国の主張を認めないという判断が示されたことは、ベトナムにとっても重要な意味を持つだけに、判断の内容や今後の情勢について慎重に分析を進めているものとみられます。

シンガポール外務省「法に基づく秩序を」

国際的な仲裁裁判所の判断が示されたことについてシンガポールの外務省は声明を発表し、「小さな都市国家であるシンガポールとしては、法に基づいて秩序が維持され、すべての国の権利が守られることを求める」として慎重な表現をしながらも中国を念頭に今回の判断を尊重するよう求めています。
そのうえで、「すべての関係国に対し、法と外交的な手続きを尊重し域内での緊張を高める行動を控えるよう求める」と述べて、各国に、挑発的な行動を取らないよう呼びかけました。
シンガポールは南シナ海で領有権を主張している国の1つではありませんが、先月行われた中国とASEANの特別外相会合ではASEAN側の議長国として中国に対して南シナ海の問題について「重大な懸念」を表明し、自制を求めていました。

韓国政府 公式見解は発表せず

南シナ海を巡り、フィリピンが申し立てた国際的な仲裁裁判の判断が出たことについて、韓国政府はこれまでのところ、公式の見解は発表していません。
ただ、裁判所の判断に先立って韓国外務省の報道官は、12日の記者会見で、「南シナ海における安全保障や航行の自由の観点から重要な判断になるだけに大きな関心を持っている。政府としての立場は判断の具体的な内容などを把握してから発表したい」と述べ、慎重な立場を示していました。
韓国とアメリカは、今月8日、最新の迎撃ミサイルシステム「THAAD」を韓国国内に配備することを決めていますが、中国政府はTHAADのレーダーが中国東北部などに展開する中国軍の監視に利用されるとして強く反発しています。
こうしたことから、韓国としてはこれ以上、中国との関係が冷え込むことを避けたい考えで、裁判所の判断にどのような立場を示すのか難しい判断を迫られています。

海外メディアの反応

南シナ海を巡り、国際的な仲裁裁判の判断が示されたことを受けて、アメリカの有力紙「ニューヨーク・タイムズ」の電子版は「今回の裁判は国際的な影響力を強める中国にとって重要な岐路になるとみられていた。周辺の国々は、中国との交渉のしかたについてモデルが示されるだろうと期待していた。裁判所は中国の南シナ海での活動を非難する決断を下した。インドネシアなどの国々は、この判断が中国の主張に疑問を投げかけ、自国の経済水域の保護につながることを望んでいる」と伝えています。
また、イギリスの公共放送BBCはオランダのハーグ、フィリピンのマニラ、それに中国の北京からそれぞれ記者が中継を行い、関心の高さをうかがわせました。
このうち、マニラの記者はフィリピンのヤサイ外相の記者会見について、「フィリピン政府の反応は控えめなものだった。ドゥテルテ大統領は裁判所の判断に対する控えめな反応の見返りに、中国から投資の約束を取り付けようとしているという見方も出ている」と指摘しています。