韓国で7年ぶりに患者の体細胞をドナーの卵子で複製する胚性幹細胞(ES細胞)研究が再開されることになった。ES細胞論文不正事件で物議を醸した黄禹錫(ファン・ウソク)氏と同じ方式のES細胞製造法だ。韓国保健福祉部(省に相当)は11日、車医科学大が提出した体細胞クローン胚(はい)研究を条件付きで承認したと発表した。2009年以降で初の承認となる。これにより、黄禹錫氏のES細胞論文不正事件以降停滞していたES細胞研究が再び活性化しそうだ。ただ、ES細胞の生成過程では卵子とクローン胚の破壊が必要となるため、生命倫理をめぐる論争が再発する可能性もある。
■なぜ研究再開?
ES細胞は細胞分裂が完了した胚段階で細胞の塊を抽出してつくられる。ES細胞を含む幹細胞は体を構成する骨、脳、筋肉、皮膚、心臓などあらゆる細胞をつくり出す「細胞工場」の役割を果たす。現在幹細胞をつくる方法は3つに大別される。まず、黄禹錫方式の体細胞クローンで、不妊手術で残った受精卵を分化させて使用することもある。皮膚細胞に特定の遺伝子を埋め込み、逆分化させ、胚段階と同様の状態に戻すiPS細胞(人工多能性幹細胞)もある。iPS細胞を開発した京大の山中伸弥教授は2012年にノーベル医学賞を受賞した。いずれも胚段階からさまざまな細胞をつくり出すことができる。3番目は臍帯(さいたい)血や骨髄、脂肪組織に残る幹細胞を抽出、培養し、患者に投与するものだ。しかし、この方法で採取される幹細胞は既に育った状態で、さまざまな細胞をつくり出すことはできない。
iPS細胞は卵子が必要なく、生命倫理をめぐる論争を避けられるのがメリットだ。しかし、遺伝子の組み込みによる予想外の問題、幹細胞の安定性が一定しない点が指摘されている。このため、患者にとって最も効率的な幹細胞は生命誕生に最も近い体細胞クローン幹細胞だというのが医学界の評価だ。研究責任者を務める車医科学大のイ・ドンリュル教授は「卵子が必要で、生成に時間が数ヶ月かかり、費用もかさむという短所はあるが、さまざまな細胞をつくり出せる品質面では体細胞クローン幹細胞が最高だ」と指摘した。研究チームは2020年までの5年間に600個の卵子でクローン胚方式の幹細胞をつくり、視神経損傷、脳卒中、骨軟骨症など難病の患者に投与する細胞をつくる計画だ。