自民党の文部科学部会が、学校教育で「政治的中立を逸脱するような不適切な事例」を党のホームページで募っている。

 授業で生きた政治課題を扱おうとする現場に水をかけ、自由に政治を語る空気を封じかねない行為だ。中止すべきである。

 教員が子どもに政治的な主張を押しつけてはならないのは、言うまでもない。

 だが、政党がわざわざ事例まで調べることが許されるのか。今回の調査は「いつ、どこで、だれが、何を、どのように」などと具体的な情報を記入するよう求めており、なおさら疑問を禁じ得ない。

 部会は教育公務員特例法を改め、中立性を逸脱した教員に罰則を科すことを検討している。

 その政党が実態調査に乗り出せば、学校は監視されていると受けとめよう。ネットで「生徒や保護者に密告を促すのか」との批判が相次いだのも当然だ。

 18歳選挙権がスタートし、学校が主権者教育に向けて踏み出している時期でもある。

 これまで教員は政治問題を扱うのに及び腰だった。腫れ物にさわるように扱う学校もなお多い。そんななか、現に生じている政治問題を取り上げようと工夫する先生も少なくない。自民党の調査は、そうした取り組みへのブレーキとなり、子どもたちが政治問題への理解を深める機会を奪いかねない。

 調査のホームページは当初、「子供たちを戦場に送るな」と主張する教員がいると挙げていた。それがネット上で批判されると、「安保関連法は廃止にすべきだ」と主張する教員がいるとの表現に差し替え、さらにはそれも省いた。

 政党として安保関連法を推し進めるのは自由だ。だが、反対する主張に「中立性の逸脱」とレッテルを貼ってやり玉にあげるのは、表現や思想・良心の自由に照らしてもおかしい。

 何が「政治的中立」かは人によって違う。それを与党が独自に判断し、都合のよい価値観だけを子どもたちに押しつけるようでは、多様な視点や意見への芽を摘むことになる。

 ホームページは「偏向した教育が行われることで、生徒の多面的多角的な視点を失わせてしまう恐れがある」とするが、自民党はそれをそっくり自らへの指摘として受け止めるべきだ。

 ものが言いにくくなり、息苦しい空気が社会をおおう。そんな感覚を、多くの人々が抱いているのではないか。

 自由な考えと言葉を育むべき教育の現場を、息苦しさを助長する場にしてはならない。