テムズのほとりで満喫!
ヘンリー・ロイヤル・レガッタを征く
河岸には多くの着飾った人々が集い、思い思いにレースを観戦。
熱い声援を送る人もいれば、シャンパングラス片手に談笑に忙しく、レースどころではない人々もいる。
水上のストイックな戦いと岸辺の華やかな雰囲気が鮮やかなコントラストを織りなすのもヘンリー・ロイヤル・レガッタ(以下、ヘンリー・レガッタ)の魅力だろう。
ロンドンから西へ55キロ離れたテムズ河上流を会場に行われる、ヘンリー・レガッタ。
ヨーロッパ最古のボート・レースであると同時にイングランド初夏の風物詩であるこのボート競技大会について今号ではお届けすることにしたい。
●征くシリーズ●取材・執筆・写真/秋穂ホートン・本誌編集部
上流階級のスポーツとして発展
戦争などの有事の際、あるいは日常生活で海上の移動手段として古代から活用されてきたボート。紀元前15世紀のエジプト王アメンホテプ2世も優秀なボートの漕ぎ手として当時の歴史書に刻まれるなど、ボート競技の歴史は非常に古い。英国では18世紀末にかけて、イートン校やウェストミンスター校といった上流階級の子弟が通うパブリックスクール、オックスフォード大学、ケンブリッジ大学など名門大学でボート部が次々と創設され、アマチュアスポーツ競技としてボート競技が盛んになったという。ヘンリーの町の経済的発展と中上流階級を中心としたアマチュアボート競技の盛り上がりが軌を一にしたことからヘンリー・レガッタが誕生したといえるだろう。
ヘンリー・レガッタの起源は1839年にさかのぼり、第一次、第二次世界大戦期間を除いて今日に至るまで毎年行われてきた。
レースの舞台となるヘンリー・オン・テムズはオックスフォードシャー、バークシャー、バッキンガムシャーの3つの県境に位置する町で、1179年にヘンリー2世の直轄領として歴史に登場する。黒死病が蔓延した中世には人口の60%が亡くなったといわれているが、17、18世紀にはガラス細工やモルトの生産で町は大いに発展。テムズ河畔で交通の要衝地でもあったため、農産物や工業製品の交易およびロンドンへの物資輸送で繁栄した。
ヘンリー・レガッタ開始に先立つ10年前の1829年、オックスフォード大学対ケンブリッジ大学のレガッタ競技が史上初めて行われたのがこのヘンリー・オン・テムズだった。町はレース観戦とお祭り騒ぎを目当てに訪れた人で大いに賑わった。しかし、当時のボートは現在のものに比べると重さも幅もあり、運搬は重労働。より遠方にあるケンブリッジ大学が「不公平」だと異議を唱えたことから、レース会場は翌年以降、両大学にとって等距離に近いロンドンに移されてしまう。
1829年のレガッタがもたらした経済効果を再びと、切望する地元の声の盛り上がりもあり、39年、レガッタがヘンリーでついに復活。その当時の大会はヘンリー・オン・テムズの市長が主催するイベントとして発足した。他の催しものと並行して楽しむ、いわば町内行事の一つだったという。
一方、1851年にはヴィクトリア女王の夫、アルバート公が大会のパトロンとなる。同公の死後も、王室メンバーがパトロンを務めることが伝統となったことからヘンリー・レガッタには「ロイヤル」の名が冠される。王室の主要メンバーが大会に臨席することもあり、近年では2010年にアン王女が出席している。
今日では、ウィンブルドン選手権(テニス)、ロイヤル・アスコット(競馬)、全英オープン(ゴルフ)と並び、英国の夏を彩る、社交界およびスポーツ界最大のイベントと見なされている。本特集では、ヘンリー・レガッタの見どころをご紹介したい。
どんなイベント?レガッタに出かける前に知っておきたい基礎知識
2016年のスケジュールは?
期日:6月29日(水)~7月3日(日)※木・金・土では午後4時20分~5時30分までは途中休憩でレースは行われない。
6月 29日(水) | 9:00am ~最終レースは7:20pm 計88レース(予選) |
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6月 30日(木) | 9:00am ~最終レースは7:25pm 計80レース(予選) |
7月 1日(金) | 8:30am ~最終レースは7:20pm 計67の準々決勝レース |
7月 2日(土) | 10:00am ~最終レースは7:25pm 計44の準決勝レース |
7月 3日(日) | 1:00am ~最終レースは4:00pm 計20決勝レース、 午後4時30分から表彰式 |
ポイント!
レース数が多く、比較的観戦客も少ない水曜日と木曜日が狙い目。また最終日の日曜日は、決勝だけが行われるためレース数は少ないものの表彰式があり(スポーツ界の著名人がプレゼンターを務めることも多い)、さらに華やかな雰囲気。ボート競技の種類は?
スイープ種目sweep…1人が1本のオールで漕ぐ。ボートの漕ぎ手の人数により、エイト(8人)、フォア (4人)、ペア(2人)に分かれる。
※「+」は「cox(コックス=舵手)」付種目、「−」は舵手なし種目。
2- Coxless Pair(舵手なしペア)2+ Coxed Pair(舵手付ペア)
4- Coxless Four(舵手なしフォア)
4+ Coxed Four(舵手付フォア)
8+ Coxed Eight(舵手付エイト※エイトには必ずコックスが同乗)
スカル種目sculling…スイープ種目のオールよりも小さいオール2本を1人の漕ぎ手が両手で握り漕ぐ。
※「×」はスカル種目を指す。
2x Double Scull(ダブルスカル)
4x- Coxless Quadruple Scull (Coxless Quad)
(舵手なしクォドルプル)
4x+ Coxed Quadruple Scull (Coxed Quad)
(舵手付クォドルプル)
レースコースの長さ、形式は?
距離…全長1マイル550ヤード(2,112メートル)形式…バッキンガムシャー側とバークシャー側の2つのレーンに分かれ、1対1で争う2艇対抗レース。
ポイント!
通常のボート競技の距離は2,000メートル。エイト艇は時速20キロ以上の速さで進み、レースの平均時間は7分程度。ボートの長さもエイト艇の場合、全長約17メートル、重さも100キロあり、迫力十分だ。コックス(cox)の役割
ボートに乗っていながらオール(oar、英語では「オーア」と聞こえる )を漕いでいないあの人は誰? と不思議に思うかもしれないのがコックス(舵手)。一見、クルーに大声でハッパをかけているぐらいにしか見えないが、実は高度な技術と冷静な判断力が求められ、クルーの信頼を背負うのが舵手のポジションである。オーケストラの指揮者に喩えて「船上の指揮者」とも呼ばれる。エイトでは艇の左右にそれぞれ4人ずつのクルーが座り、オールを漕ぐ。そのためにまっすぐに進んでいるかのように見えるが実は微妙に蛇行して進んでおり、この舵取り(rudder work)を行うのがコックスの重要な役割。コックス席には舵を取るための器具が備え付けられている。蛇行は大きなタイムロスを招くため、できるだけ蛇行しないようにするのがコックスの腕の見せ所。クルーの漕ぎによる艇の動きを感じ、風や波のコンディションを読み針路を予測、ラダーを扱う指の繊細な感覚を鍛えることが求められる。また、クルーへの的確な声かけもコックスの仕事だ。どんな賞を争う?
5日間で合計200レースが行われ、20の賞が種目、男女、レベル別に用意されている。ポイント!
また、ヘンリー・レガッタが学生の競技としてスタートし、名門パブリックスクールとも深い関わりをもつという歴史を考えると、男子ジュニア部門のプリンス・エリザベス・チャレンジ・カップも要注目。高校野球の甲子園球児のような感覚で応援したくなる。将来の有望選手を見つけることができるかもしれないレースだ。
- 男子オープン(最上級レベル)
- Grand Challenge Cup (8+)
Steward's Challenge Cup (4-)
Queen Mother Challenge Cup (4x)
Silver Goblets & Nickalls' Challenge Cup (2-)
Double Sculls Challenge Cup (2x)
Diamond Challenge Sculls (1x)
- 女子オープン(最上級レベル)
- Remenham Challenge Cup (8+)
Princess Grace Challenge Cup (4x)
Princess Royal Challenge Cup (1x)
- 中級
- Ladies' Challenge Plate (8+)
Visitors' Challenge Cup (4-)
Prince of Wales Challenge Cup (4x)
- 男子クラブ
- Thames Challenge Cup (8+)
Wyfold Challenge Cup (4-)
Britannia Challenge Cup (4+)
- 男子学生
- Temple Challenge Cup (8+)
Prince Albert Challenge Cup (4+)
- 男子ジュニア(19歳以下)
- Princess Elizabeth Challenge Cup (8+)
Fawley Challenge Cup (4x)
- 女子ジュニア(19歳以下)
- Diamond Jubilee Challenge Cup (4x)
どうやって楽しむ?エリア別!ヘンリー・レガッタ観戦法
広い会場の敷地は、次のとおり、大きく4つのエリアに区切られている。各エリアごとにプラス点、マイナス点があるので、観戦場所は予算や好みをふまえて選ぶといいだろう。【1】スチュワーズ・エンクロージャー The Stewards' Enclosure
◆ドレスコードも厳しく、男性はジャケットにネクタイ、女性はズボンやミニスカートはご法度で膝下ラインのスカートの着用が義務付けられている。入口でスカート丈が規定より短いために入場拒否された人を筆者も目撃。とはいえ、長いスカートさえはいていれば靴やトップスは自由なので、雨の日は長靴にレインコートで観戦というのもあり、だそう。
◆カメラやスマホでの撮影はOKだが携帯電話の使用は固く禁じられている。
◆レースそっちのけで商談やおしゃべりに興じる人も多く、人々のお洒落なファッションなど英国上流階級の『楽しみ方』が観察できるのがメリット。デメリットは、外からの飲食物の持ち込みは禁止、飲み物ひとつとっても値が張り、すべてにおいて物価が高いこと。
【2】レガッタ・エンクロージャー The Regatta Enclosure
◆スチュワーズ・エンクロージャー同様、飲食物の持ち込みは禁止されている。またエリア内では常にチケットでもあるバッジを身につけていなければいけない。メリットは一般人でも入れ、パーティーのような雰囲気を楽しめること。熱心なレガッタ・ファン、サポーターが多いのもこのエリアの特徴。デメリットは、人気の曜日はチケットが早々に完売してしまうこと。なお、最終日に行われる表彰式は、レガッタ・エンクロージャーの人もスチュワード・エンクロージャーにて見学可能。
【3】ホスピタリティ・エリア The Hospitality Area
◆接待を主な目的として企業が利用できるエリア。スタート地点近くにあるテンプル島とフォーリー・メドウと呼ばれるコース中間地点の河岸エリア(バッキンガムシャー側)を、テントやテーブル単位で企業・団体が貸切利用し、昼食や飲み物を提供しつつ大切な顧客の接遇にいそしむ。チャーター・ボートが島とスチュワーズ・エンクロージャーを往復してくれるのでフィニッシュ地点での観戦も可能。島と河岸から、両方レースを楽しめることがメリット。デメリットは企業関係者しか利用できないこと。【4】ピクニック・エリア The Picnic Area
最もカジュアルかつリラックスした雰囲気でレース観戦できるエリア。スタート地点から1マイルほどの距離の河岸(バークシャー側)は無料で一般に開放されている。ドレスコードも当然なし。中には水着姿で観戦する人も見られる。敷物や椅子を持参し、近所のスーパーで買った食料や飲み物を広げて夏の1日を楽しむ人であふれているエリアでもある。屋台村もあるので、安くて美味しいストリートフードが食べられるのもこのエリアのメリット。デメリットは、場所取りは早い者勝ちであること、雨が降った際には屋根がないということが挙げられる。ピクニック必勝法
快適なピクニック&レース観戦を楽しむために、ラグ(敷物)は必須。ラグで場所取りをする人も多い。さらに折り畳み用のピクニックチェアや日差しをよけるためのパラソルがあると便利。直射日光が照りつける場所でもあるので日焼け止めは忘れずに準備していきたい。ヘンリーの町中にあるスーパーとしてはウェイトローズ(33 Bell Street, Henley-on-Thames RG9 2BA)が便利。手作りサンドイッチやパンを売るお店もあるので利用するとよいかもしれない。河に足を入れて沐浴を楽しむこともできるのでタオルを持参するのもお薦め(あまりの暑さのため、足をテムズ河の水で冷やす人も昨年は続出!)。オフィシャル・プログラムの見方
↓画像をクリックすると拡大します↓
ポイント!チームの「平均体重」
なぜ選手の体重とチームの平均体重がプログラムに記されているのだろうと思うかもしれない。ボート競技の場合、体重が重い方がオールに伝わる力が大きくなるため有利とされる。すなわち平均体重の重い方が、競技には有利なチームとみなされる。ヘンリー・オン・テムズ 街歩きガイド
テムズ河のほとりにある小さな田舎町ヘンリー・オン・テムズ(以下ヘンリー)はヘンリー・レガッタ観戦以外にも魅力がたっぷり。歴史情緒あふれる街並みと緑豊かな河沿いのウォーキングをあわせて訪れる計画を立ててはいかが?①レッドライオン・ホテル
Red Lion Hotel
●ヘンリーのランドマークとなるのがテムズ河に架かるヘンリー・ブリッジ。この橋のたもとという一等地に位置するのが町で最も古く由緒あるホテル、レッドライオン・ホテルだ。旅宿として、その歴史は17世紀にさかのぼり、清教徒革命で処刑されたチャールズ1世やその宿敵オリバー・クロムウェルなど、多くの王侯貴族が滞在したという。皇太子時代は浪費家で知られたジョージ4世が、ここでラムチョップ14本を平らげたという逸話も残っている。
●落ち着いたホテルの雰囲気は伝統と格式を感じる一方、家庭的なぬくもりがある。アフタヌーン・ティーも人気。建物の裏庭には17世紀当時の建物もそのままの姿をとどめ、現在はスパ施設として利用されている。
②ジ・エンジェル・オン・ザ・ブリッジ
The Angel on the Bridge
●テムズ河沿いにあり、眺めのよいパブ。夏は河に面したテラス席でビールを飲みたい。弟がレガッタに参戦していたことから、応援にきていた故グレース・ケリーもこのパブに立ち寄ったとのこと。店内のフロアには「グレース・ケリーがここに立った」という文字が小さなプレートに刻まれているので目をこらして探してみては?
日11:30-19:00(サンデー・ローストは日曜12:00より) 住所:Thameside, RG9 1BH
Tel: 01491 410 678
www.theangelhenley.com
③ショーン・ディケンズ・アット・ザ・ボートハウス
Shaun Dickens at The Boathouse
●ミシュラン2つ星を有するオックスフォードシャーのレストラン「ル・マノワール・オ・キャトル・セゾン(Le Manoir aux Quat’ Saisons)」やニューヨークの3つ星レストラン「パーセ(Per Se)」で修業を積んだ気鋭のシェフ、ショーン・ディケンズ氏が2009年にオープンし自ら腕を振るうレストラン。 。
●ボートハウスを改築した開放的な雰囲気の中で、細部にまでこだわった遊び心のある一流モダン・ブリティッシュ料理を堪能できる。驚きがたくさん詰まった味に出会えるはず。ランチは土日・平日を問わず2コース25.95ポンド~と良心的な料金設定で超オススメ!
住所:The Boathouse, Station Road, RG9 1AZ
Tel: 01491 577 937
www.shaundickens.co.uk
④ホブズ・オブ・ヘンリー
Hobbs of Henley
●1870年創立の老舗貸しボート会社。1日1~3回(季節により変動)運行される1時間のリバー・クルーズを楽しむことができるほか、セルフドライブの各種小型ボートを借りることも可能。
- リバー・クルーズ運行スケジュール
- 4~6月および9月…14:30
7、8月…12:00、14:30、15:45
住所:The Boathouse, Station Road, RG9 1AZ
Tel: 01491 572 035
www.hobbsofhenley.com
⑤リバー&ロウイング・ミュージアム
River & Rowing Museuml
●コンテンポラリーアートの企画展のほか、常設展としてヘンリーの町の歴史やヘンリー・レガッタ、ロウイングに関連する2万点のコレクションが展示されている。また晩年をバークシャーで過ごした、エディンバラ出身の児童文学作家ケネス・グレアムが1908年に出版した名作『たのしい河べ』(原題『Wind in the Willows』)に関するコレクションでも知られている。利用者参加型の展示も多く、子供連れで楽しめる施設となっている。併設のカフェはガラス張りで明るい空間。テラスへ出ることもでき、天気の良い日には外でお茶を飲みたくなる。
料金:1回の入場料金で1年間有効
大人…£11 子供(4-16歳)・学生…£9
住所:Mill Meadows, RG9 1BF
Tel: 01491 415 600
http://rrm.co.uk
Travel Information
※2016年6月14日現在
Henley-on-Thames
ビジター・センター(タウン・ホール内)Visitor Information Centre
Town Hall, Market Place, Henley-on-Thames, Oxfordshire, RG9 2AQ
Tel: 01491 578 034
www.henleytowncouncil.gov.u
※月~土 9:00-16:00(日曜休み)
ビジター用ガイドはhttp://visit-henley.comからダウンロード可。