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第五話 夜が明けて
10万文字突破!
なんとか書き上げられました!
ちょっと一息回です!
七瀬さんが我が家にお泊りをした翌日、木曜日。
今日も営業があるため、七瀬さんには朝のうちに帰城してもらうことになった。
「昨晩はありがとう。ほんの少し、気が楽になったわ」
玄関にて、七瀬さんと言葉を交わす。
「ん。どういたしまして……ふぁ……」
「随分と眠そうね」
「うん。そりゃね」
欠伸を殺しながら、俺は苦笑いを浮かべる。
寝不足の原因はただ一つ。
昨晩、ずっと七瀬さんの手を握っていてよく眠れなかったのだ。
寝なきゃ寝なきゃと思いながらも、胸の高鳴りがうるさくてなかなか寝付くことができなかった。
結局眠りについたのは、夜明けが近づいてきたあたりだと思う。
気分は修学旅行にて、夜遅くまで友達とはしゃいだ翌日の朝だ。
「あんまり無理しちゃダメよ? たまには休まないと」
心配そうに言う七瀬さんは、俺に反してスッキリしたような表情だった。
憑き物が落ちだような、そんな顔をしている。
「んー、まあ動けない程じゃないし、まだ営業に慣れていないスタッフもいるから、欠勤するわけには……」
「それで上条君が倒れたら元も子もないでしょ。責任者が過労で倒れるなんて、本末転倒よ」
「……まあ、たしかに」
体調管理も仕事のうちだ。
明日あたり、半日ほど休みを取らせてもらおうかな。
午前中、二度寝三度寝を繰り返してゴロゴロしよう。
「ねえ、上条君」
「ん?」
「その……機会があればの話だけれど、また温泉、入れてもらえるかしら?」
七瀬さんが、もじもじしながら尋ねてきた。
もちろん、断る理由はない。
「お安い御用だよ。客として異世界温泉のほうに来るのもいいし、昨日みたいに営業終わりに教会の温泉に入ってもいい」
「やった」
小さくガッツポーズする七瀬さん。
可愛い。
なんだか昨晩以降、七瀬さんの自然な笑顔をたくさん見れているような気がする。
今日も朝食を摂ってる時も、ずっと上機嫌だったし。
「そろそろ行くわ。本当にありがとう」
名残惜しそうに目を伏せ、七瀬さんはぺこりと頭を下げた。
「うん。気を付けて」
「それじゃ、また」
くるりと踵を返す七瀬さん。
その時、俺は昨晩の事を思い出した。
──ううんっ……違うの……私が謝りたいのは……。
「ね、ねえっ」
声を掛ける。
七瀬さんが立ち止まる。
「昨日言ってた、謝りたいことって……」
聞いたらまずいような気がしないでもない。
けど、俺は尋ねていた。
魚の小骨が喉に刺さったような、そんな引っ掛かりを覚えたから。
七瀬さんは動かない。
しかし、拳が少し震えていた。
まだなにか、七瀬さんは気負いしている事があると確信した。
だけど、
「さあ、そんなこと言ったかしら?」
わずかにこちらに向けたその横顔は、また今度ねと言っているように思えた。
◇◇◇
「浮かない顔をしているな、タクマ殿」
「……エイリか」
教会の裏庭。
七瀬さんを見送った後、時間があったので魔法石採取に精を出していると、赤髪エルフのエイリが尋ねてきた。
「あれ、エイリ。今日朝からシフト入ってたっけ?」
「入ってはいないが、リズがタクマ殿から戦果を聞けとうるさくてな」
「ああ、なる」
何が戦果だ。
「言っておくけど、俺と七瀬さんは二人が思っているような関係じゃないよ?」
「思っているような?」
「いや、えっと……その、なんというか、恋人同士的な?」
「違うのか?」
「違うよ!」
俺はエイリに、七瀬さんとは決してそのような関係ではない事。
クラスメイトと委員長、言うなればただの友達同士だということを必死に説明した。
もう二度と、あんな悲劇が起こらないように。
「ふむ。なるほど。どうやら私とリズは盛大な勘違いをしていたようだな」
「それはもう、特大級のね」
「しかし、傍から見る限りでは、イオリ殿はタクマ殿に気があると踏んだのだがな」
「何を根拠にそんな事言うのさ」
エイリは少し考え、悪戯っぽくフッと笑って。
「女の勘、だな」
「割と怖い事言うね、エイリ」
女の勘は馬鹿にできない。
特に、恋愛が絡むと絶大な効力を発揮する。
しかしそれにしても、七瀬さんが俺に気がある、か。
うーん。
……ないわ。
かたや才色兼備、皆からの信用も厚い完璧委員長。
かたやクラスのド底辺のいじめられっ子オタク。
軽い美女と野獣だ。
俺を異性として見れる要素が見つからん。
砂漠の中からアリのコンタクトレンズを見つけようとするくらい見つからん。
今回ばかりは、女の勘もアテにならない。
「そういうタクマ殿はどうなのだ?」
「……え?」
「いやだから。タクマ殿はイオリ殿の事をどう思ってるんだ?」
「俺が、七瀬さんの事を……?」
うーん。
腕を組んで悩む。
悩む、悩む。
ボンッと、頭脳がオーバーヒートして煙が出そうになった。
「好きな部類かもしれない可能性が50%くらいあるような気がしないでもない」
「答えになって無さすぎて笑えないのだが」
「せめて腹を抱えて笑ってくれ、じゃないと俺がただの優柔不断男で終わってしまう」
「答えはわからないでファイナルアンサー?」
「……ファイ○ルファンタジー」
「意味の分からない言葉でごまかそうとするでない」
だって今まで、人とあまりにも接してこなかったんだ。
他人が俺に対して向けてきた感情といえば……あまりいいものは浮かばない。
ましてや自分が他人に対してどんな感情を抱いてるかなんて、俺からしたら東大入試よりも難しい問題だ。
特に相手が、まさに高嶺の七瀬様となればなおさらだ。
けど。
──本当に、すごく嬉しい……ありがとう!
ラノベを渡したときに七瀬さんが見せた、とびっきりの笑顔。
あの時、もの凄くドキドキした事は確かだ。
だけどあれは、男なら誰しもそうなるであろう生理的な現象であって、あの瞬間に恋に落ちたからとか、そういうのではないはずだ。
……の、はずだ。
うん。
俺が意味不明な理論を頭の中でぐるぐるさせていると、エイリは呆れたように溜め息をついて、
「自分の気持ちに嘘をつき続けていると、そのうち他人の気持ちまで嘘にしてしまうぞ」
その言葉は、小さな鉛となって俺の胸に当たった。
図星を言い当てられたような、そんな気分になった。
「俺と七瀬さんのことはいいんだって! 今はそれよりも、魔法石の採掘に集中しないと!」
これ以上考えていたら頭がパンクしてしまいそうだ。
とりあえず目先の事に集中しようと、俺は魔法石採取に戻った。
その様子をエイリが、どこか悲しそうな目で見つめて、
「……私のようにはなるなよ、タクマ殿」
エイリが放った小さなその呟きは、俺の耳に届かず風に攫われていった。
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