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ライブダンジョン! 作者:dy冷凍

第二章

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 それから三日ほどバルバラは草原でモンスターに囲まれないように訓練を重ね、現在は荒野に現れるスケルトンというモンスターを相手にして訓練していた。

 スケルトンは成人男性ほどの身長をした骨だけで動く人型のモンスターであり、外のダンジョンでも度々見かけられるモンスターである。外のダンジョンでは女性型や子供型も見かけることがあるが、神のダンジョンでは一律して男性のスケルトンがほとんどである。

 武器は自身の骨を鋭く研いだ短槍や剣のようなものを持っていることが多く、動きが素早く力も骨ではあるがゴブリンなどに比べると強い。なので人型系モンスターとしてはオークに次ぐ中級のモンスターである。

 草原のゴブリンと違い武器も鋭利で並の技術も使う。なのでバルバラは一対一でも相当苦戦を強いられていた。身を低くして迫ってきたスケルトンの攻撃を受け止めたバルバラは咄嗟に槍を突き出す。鈍い音を立ててスケルトンの鎖骨が欠け、追撃しようとするバルバラ。


「攻撃は最小限! 無駄な攻撃はしないように!」


 ゴブリンたちに対しては苦もなく立ち回れるようになり自信がついたせいか、また無意識に攻撃動作に入っているバルバラに努は厳しい声を飛ばす。今の彼女にはスケルトンを倒すことなど努は求めていないし、それはこの三日間で口酸っぱく努は口にしていた。バルバラは努の声に粛々(しゅくしゅく)とした様子で従いながら槍を引いた。


「ヒール」


 努の背後から緑色の丸い気が飛んでスケルトンに当たると、スケルトンの欠けた鎖骨が再生し始める。ユニスは宣言通り二日ほどでヒールを飛ばすことを習得し、基本の飛ばし方は出来るようになっていた。

 まだ制御や精神力の込め方などはまだまだであるがヒールの形は整いつつある。ユニスはエリアヒールの上に立ちながらも更に続けて杖を構えながら口にする。


「ヘイスト」


 飛ばすヒールと同じイメージでヘイストも飛ばせるようになったユニスは、スケルトンにヘイストを飛ばして付与した。スケルトンが青い気を纏い素早い動きで更にバルバラを追い立てる。


「いち、に」


 ユニスはスケルトンにヘイストを付与した途端に秒数を口にし始める。飛ばす回復、支援スキルを習得したユニスが次に努に出された課題が、回復、支援スキルの効果の均一化だった。

 努の放つ回復スキルなどは精神力を一定値込めることによって回復量を均一させている。そしてモンスターのヘイトを見ながら精神力の量を増やしたり減らしたりして、自身がモンスターに狙われないようにしながらも最大限の効果が発揮できるように調整されている。

 支援スキルも同じく精神力を多く込めたり減らしていたりしているが、支援スキルの場合は一定の精神力を込めて秒数を一律に保つことが何よりも大事になる。秒数が自身で把握出来ずバラバラでは味方の支援スキルがいつ切れるかわからず、過剰な支援をしたり支援スキルを切らしてしまうことになってしまう。

 なので二日で飛ばす回復スキルを習得、という有言を実行して少しドヤ顔をしていたユニスに努はすぐに次の課題を与えていた。何食わぬ顔で次の課題を突きつけられたユニスは努を静かに睨みつけた後、無言で効果時間を把握する練習に入った。


(今に見てるのです。すぐにあれを真似して成果を出して、お前を追い出してやるのです)


 バルバラに指示を送っている努を後ろからねめつけながらも、ユニスは秒数を数えて一分きっかりでヘイストが切れるように込める精神力を調整していた。ユニスの頭には努が峡谷で行った動きが焼きついている。あれが出来れば自分は間違いなく一軍ヒーラーを維持することが出来ると、ユニスはレオンの様子を見て確信していた。

 ユニスの頭の中にはすぐにあの動きを会得してレオンに褒められて頭を撫で撫でされる未来と、自分が厄介払いをするように努を金色の調べから追い出す光景が浮かんでいた。四十二秒でスケルトンのヘイストが切れたことを確認したユニスは、込める精神力を少し多くしてまたヘイストをスケルトンに当てた。


(早く出て行くのです、とか思ってそうだなぁ。あの子)


 背後からのユニスの嫌な視線を度々感じていた努は苦笑いを噛み締めながらも、バルバラのスケルトン戦を見守っていた。三十分ほど打ち合ってようやく要領を掴んできたか、動くが良くなり始めてスケルトンに押されることが無くなってきたバルバラ。

 そもそもステータス値が格段にバルバラの方が上なので、例え技術面で負けていてもステータス差でそれを埋めればいい。相手が剣の達人などであれば別であろうが、バルバラが相手にするものは所詮モンスター。稀に特異個体が生まれて強いスケルトンがいることもあるが、普通のスケルトンにそこまでの技術はない。

 それに加えてバルバラはスケルトンを自分で倒す必要はない。無理せず攻撃をしなければステータス差で負けることはないし、力押しもスケルトンにはされない。自身の力が通用することがわかったバルバラはスケルトンにクリティカル攻撃をもらうことはなくなってきて、戦況は安定するようになってきていた。


「ホーリー」


 努が白杖を向けながら唱えると地面から光の柱が立ち、足元からのホーリーを受けたスケルトンは炎に焼かれたように真っ赤になる。骨の密度がどんどんと無くなってスケルトンは崩れるように消滅し、無色の小魔石が地面にポトリと落ちた。

 荒野のモンスターはほとんどが白魔道士や灰魔道士が使える聖属性の魔法スキルに弱く、この階層では白魔道士がいるだけでグッと攻略が楽になる。努は勿論七十レベルのユニスもいるので荒野で苦戦することはまずない。

 時々乱入しようと現れるスケルトン、四足歩行の獣系スケルトンなどを努はホーリーで焼き尽くし、魔石を拾って小遣い稼ぎをしながらバルバラの戦い方を努は出来るだけ見ていた。努自体はゲーム内でしかタンクをしたことがないので実際の身体の動かし方などは指導できないが、ゲームに通ずる点ならば指導することが出来る。

 一時間ほど経過してスケルトンとの一体一はもう問題ないと感じた努は、スケルトンをホーリーで浄化してバルバラに休憩を取らせた。努は預かっていたバルバラのマジックバッグから水筒とタオルを取り出して彼女に渡した。

 バルバラが兜を外すと大きい熊耳が圧迫空間から開放されたことを喜ぶように立ち上がった。彼女は濡れた細い茶髪をタオルで拭った後に水をがぶがぶと飲んでいる。努は彼女が一段落したところで話しかけた。


「バルバラさん、もう少しスキルを使っていってもいいかもしれませんね。コンバットクライ二回打てる分精神力確保しておいて、あとはディフェンシブやシールドバッシュなどを使っていきましょうか。あ、でもディフェンシブは好みがあると思うので、使っても使わなくてもいいです」


 ディフェンシブとは重騎士特有のスキルでAGI(敏捷性)を下げる代わりにVIT(頑丈さ)を上げるスキルのことだ。そうすることで重騎士の高いVITが更に上昇して安定するため、取り敢えずディフェンシブを最初にかけておくのが努の中での重騎士の常識であった。

 しかしこの世界ではAGIが下がると自身の体感も変わってしまうため、ゲームだけの知識で考えて押し付けることはあまり良くない。なので努はディフェンシブの運用についてはバルバラに任せた。


「了解した。やってみよう」


 しかしバルバラは二つ返事で努の指示に従った。実は彼女も最初はユニス同様三人でダンジョンへ潜ることを提案してきた努に内心警戒心を抱いていた。クランでの男女関係のトラブルはよくあることで、バルバラも知り合いの不遇職の女性が下賎なことを要求されたという話を聞いていた。なので努もタンクという役割を教える代わりにそういった要求をしてくるのではないかという懸念があった。

 しかし努の下心を全く感じない純粋な指導を受けるにつれてバルバラの警戒心はどんどんと無くなっていき、彼の指導には好感すら覚えてるようになっていたし、実際に成果は出てきている。よほど変なことを提案されない限り、バルバラは努の提案を断らないであろう。

 その後スケルトンを二体、三体と増やしてバルバラに戦闘させていったが、三体を同時に相手にするまでで限界だと努は感じた。バルバラは兜を骨で突かれてクリティカル攻撃を連発され、耐えることは厳しそうに見える。

 斬撃が集中している頭に意識が向いているバルバラ。スケルトン一匹の曲がった骨が彼女の足を引っ掛けた。バルバラは転倒。努は白杖を向けた。


「ホーリー。ヒール」


 スケルトンの一匹を光の柱で浄化しつつ回復スキルをバルバラに飛ばす。その後ユニスもホーリーでスケルトンを一掃。バルバラは頭を振った後にスケルトンが掃討されたことに気づくと疲れたようにため息をついた。


「はい。休憩したら次行ってましょうか。三体相手を何度かやってみましょう」
「了解した」
「どんどん行きましょう!」


 バルバラは特に沈んだ様子もなく少しへこんだ兜を触った後、ぐっと片拳を握って掲げた努に自身も片拳を上げてにこりと笑った。


「…………」


 ユニスは仲良さげにしているバルバラと努を見て唾を地面に飛ばすと、自身にヘイストを当てて秒数を測り始めた。
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