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彼の名前 作者:みなっち

第二章 文鳥

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第四話 買い物デート

「やっぱり加湿器あると思う?」
「風邪予防のためには必須だよ。」
「へー。」
「なんか、意外。文太君って、健康管理シッカリしてるイメージ。」
「まあ、できる範囲では……あ!あのクッション座りたい!」

 大学から歩いて一駅ほど、大型ショッピングモールへと買い物デートに来ていた。冬前に加湿器を買いたいと思っていたので、ついでにちょうどイイかな、と。友達とはこうやって、意味もなくぶらついて買い物はしたりするが……。デート、となると塩梅がわからなくて、暫く悩んでいたが、別に文太君とは恋人でもなかったので、いつも通りでいいや、と答えが出た。まだ自分でも良く分からないって事は、そんな時じゃないのだろう。うん、きっとそうだ。そうそう、文太君もいっていた。一つの経験にしよう。

「ね、ねえ文太君。デート、楽しい?」
「ク、フフ……楽しい?じゃなくて楽しむ物だよ。こういう些細な事でも楽しめるかなーとか、何が好きなのかなーとか。さぐれるいいチャンスじゃん。」
「んーなるほど……了解。」

「何か食べる?」
「えっ、あー……いいよ!」
「歩きっぱなしも疲れるでしょ。」
 あ、気を利かせてくれたのか、とちょっぴり感動した。
「文太君は?」
「飲み物でいいや。」
「じゃあ、私も……飲み物でいいや……。」
「アレ食べなよ、あの十連パンケーキ。」
「太る!!」


 帰り道、すっかり暗くなった。なんていうか、これがデート、かぁ。もっと緊張するものかと思ってたけど、友達と買い物いくみたいな感じだったし、そんなに気を張り過ぎなくてもいいのかもしれない。
「私の買い物に付き合ってくれてありがとう。あと、わざわざ家の近くまで送ってくれて。」
「本当は家の前まで送ってってもいいんだけど、それも、ちょっと、ねえ?」
「?」
「デート、になったならいいんだけど。うーん、そうだな。まだもうちょっと、足りないかも。」

「足りない?……!!!!」
 思った以上に強い力で腕を取られて、壁に叩きつけられるようにして追い込まれた。はっと顔を上げれば、文太君の顔の近さに驚いて体をのけぞると思いっきり頭を壁にぶつけてしまった。痛っと口に出して訴えれば、文太君が声を殺して笑う。その吐息さえ、鼻にかかる近さで、一体何が起きているのか混乱が加速する。
「あの、文太君……」
 慌てすぎて、逃がすまいと、腰に腕が巻きついている事にも気づかなかった。いつの間に!
「目、閉じないの?」
「目!?えっ!?何で?」
「何でって、言わなきゃ分からない?」
 ??!!?
 そう、いきなりすぎて、思考がぐるぐる回る。拒絶に肩を押すが、混乱が勝ってなんら抵抗になっていない。あ、としているうちに、鼻先に軽く唇が触れて、心臓が大きくはねた。
「文太君、ま、待っ……」

「おい、何してるんだよ!」
 めまぐるしい。
 腕をとられたと思ったら壁から引っペがされた。昔、小学生の頃にこうやって独楽を回したなーって位、反動でくるくる回転しながら、誰かに、抱きとめられた。

「何って、見て分からないの。超絶アピール。」
「嫌がってただろ」
「うっそ、今のがそう見えたの?何をどうみて分かるワケ。ていうか、誰。」
「おい、カナ!」
 呆然としていたが、名前を呼ばれてはっとした。割って入ってきたのは、見知った人物だった。
「楓……?」
「カナ!何ぼーっとしてんだよ。お前さ、何されようとしたか分かってんの。」
「え、あ……れ……わ、私……。」
「おい。」
「え、あー……ご、ごめん……?」
 ”楓”に捲し立てられるが、まだ状況についていけない私は……とりあえず謝っていた。

「何、カナさーん。つーか、彼氏いるんじゃん。最っ悪。」
 そう言って文太君は帰ってしまった。
「あっ文太君!」
 慌てて声をかけたが……行ってしまった……。

「何、彼氏?……じゃ、ないよな。お前そういうの一言も言ってなかったし。それにあの態度、彼氏じゃなさそうだし。」
「か、彼氏じゃない!……友達。」
「友達!?お前さ、昔から言ってるだろ。気抜きすぎ。」
「なんで、楓にそんな風に言われないといけないワケ。」
「あのな、心配してんの。友達なら尚更、あんないきなり襲い掛かるようなやつ、危なすぎ。友達も反対。」
「楓!」
 さっきから説教ばかりの楓になんだか腹が立った。文太君のことも悪く言われたように感じてしまって、つい喧嘩腰になってしまう。

「はあ……心配した俺の身にもなってよ……。隼を送り届けた帰りに、お前が襲われそうになってるの目の当たりにして、すげーびびったんだからさー……。」
 あ……。本気で心配させてしまったんだ……。なんだか楓に申し訳なくなってきた。
「えっと、心配、してくれて……ありがとう。でも文太君は、そういうのじゃないから……。えっと、じゃれてた、だけっていうか。うん、多分そんな感じの人だし。」
「あんな、襲われそうになってか!?」
「本気じゃないよ。うん、きっと、多分。」
「甘い。どんだけ、力の差があると思ってるわけ?俺がさ、同じ事したら、お前絶対逃げられないよ。」
「うーん……と……。しない、って分かってるから。近づけるんだと思うよ。」
「……。あっそ。」

 楓も行ってしまった。んんん、分からない。男心はわからん。

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「あれ、お帰りなさい。さっき楓君が来てたのよ。会った?」
「うん、下で会った。おかげでえらい目に遭ったよー……。」
 どうせ、カナがいらない事をしたんでしょ、なんて言ってる母は楓を気に入っている。娘より楓の味方だっていうのか!

 楓とは、父親方の従兄で幼馴染だ。中学に上がる前まで。同じ屋根の下でくらし、兄弟同然に育ってきた。別の家で暮らすようになってからも、家は一駅程度しか離れていないし、私の弟……隼の面倒を良く見てくれて時間が合えば家に送り届けてくれる。今日もその帰りだったのだろう。いい風に言えば面倒見がいい。実際のところ、口うるさいので、今度会ったらさっきの事をしつこく言われるんだろうなぁと思っていた。話の途中だったし。ちゃんと説明しておいた方がいいかもしれない。文太君とは一緒に勉強をしている事、友達だという事。あと……――いや、これは彼らとの秘密か。あ、そういえば、文太君も文太君で、怒ってしまった。とりあえず電話して謝ろう。膳は急げ。まずは、文太君に電話しよう。…………でなかった。

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