テロを避ける唯一の方法:日本はイスラエルへの「関与」を今はやめるべきである
アルルの男・ヒロシです。イスラム国が殺害予告した日本人二人の人質事件について簡潔に分析します。
結論から言えば、このことによって、日本は「イスラム原理主義とのテロとの戦い」という「十字軍」の一員に仕立てあげられるということです。このことが、今通常国会の「安保法制審議」に影響を与える。
私がこの可能性に気づいたのは安倍首相のイスラエル訪問の際になぜか、中東歴訪中の共和党ジョン・マケイン米上院軍事委員長とわざわざ面会しているということに気づいたからだ。マケインは米国でも有数のタカ派、反イスラム原理主義派であり、同時に反ロシア、プーチン派である。要するに軍需産業の代理人だ。
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首相、米上院議員と会談…安保協力強化呼びかけ
【エルサレム=寺口亮一】安倍首相は19日夕(日本時間20日未明)、イスラエル・エルサレムで、同国を訪れているジョン・マケイン米上院軍事委員長(共和党)ら米上院議員7人の訪問を受けた。
首相は「戦火を交えた日米両国が戦後、和解して強固な同盟国となった。今後も連携して、地域と世界の平和と繁栄に貢献していきたい」と述べ、日米の安全保障協力強化を呼びかけた。マケイン氏は、沖縄県の米軍普天間飛行場移設問題などの米軍再編を進めることが重要だと強調した。
上院軍事委員長は、米軍再編予算の決定などに大きな権限を持っている。
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ネタニヤフ氏「日本もテロに巻き込まれる恐れ」
両首相は、ユダヤ人の犠牲者も出たフランスの連続銃撃テロ事件を厳しく非難した上で、テロ対策で連携を強化する方針で一致した。安倍首相は、イスラエルとパレスチナによる中東和平交渉の早期再開をネタニヤフ氏に呼びかけた。
安倍首相は「卑劣なテロは、いかなる理由でも許されない。国際社会と緊密に協力し、テロとの戦いに引き続き取り組む」と表明した。ネタニヤフ氏は「世界的にテロの動きに直面している。日本も巻き込まれる可能性があり、注意しなければいけない」と述べた。
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そして、イスラエル首相の発言の二日後に日本がテロに巻き込まれていることがわかったわけである。偶然にしては出来過ぎである。安倍首相がこれまで発言していた「積極的平和主義」というものの責任をみずから取らされることになった。
イスラム国が人質殺害予告ビデオを公開したタイミングが重要である。この演説は明らかに安部晋三首相の中東歴訪開始後に作成されている。撮影場所がスタジオであるか、実際のシリアの砂漠であるかはどうでもよい。「2億ドルのイスラム国対策支援」をあげていることからも分かる。
実は人質の一人であるジャーナリストの後藤健二氏の家族には事前にイスラム国側からのコンタクトがあって、身代金が要求されていたようだ。次世代の党の田母神俊雄元航空幕僚長らと親しい湯川遥菜氏のところに来ていたかどうかはわからない。
「イスラエルと連携しておけば、サイバーテロ対策やインテリジェンスの部分で日本に必要な情報が手に入る」と事情通の軍事アナリストなどは言うのだろうが、同時に日本がこれまで培ってきた、イスラエルにもアラブにも加担しない(ある意味ではアラブ寄り)の外交政策を放棄することに繋がるのである。こういう基本的なことを理解していないで、日本のNSCが外交政策を立案していたのであれば愚かであるし、知っていてイスラエルとの関係強化を図っていたのだとすれば、日本の政府内部に「イスラエル・ロビー」が深く浸透していると見なければならない。
私の分析を述べる。安部晋三がイスラエルと組んで日本を「テロとの戦い」に参加させようとしていたかは未だ分からない。安倍は騙されただけかもしれないが、日本をイスラエルの準同盟国にしようとする動きは水面下で進んでいた。
今回の中東歴訪で安倍首相がやろうとしていたことは、イスラエルとの投資協定である。これがもっとも重要なアジェンダだった。
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投資協定の年内締結で一致 日イスラエル首脳会談
ネタニヤフ首相は投資協定について「今年末までに締結することをターゲットとしよう」と提案。安倍首相も「今年中の妥結を目標として頑張ろう」と応じ、両首脳から担当者に協議を加速するよう指示する方針を確認した。
投資協定を結ぶと、相手国に進出した企業が現地企業並みの待遇を受けられたりするなどの利点がある。投資財産の保護や規制ルールなどが明確になるため、企業が投資しやすくなる。
今回、安倍首相には大手電機や食品メーカーなど30社近くが同行するなど、イスラエルへの日本企業の関心は高まっている。同国にはソフトウエアやサイバーセキュリティー、医療などで世界最先端の技術を持つ企業がある。
安倍首相は19日、ネタニヤフ首相との共同記者発表で「経済界同士の相互交流の活発化など両国経済関係の進展を期待する」と述べた。
ネタニヤフ首相は18日の安倍首相との少人数会談でも「投資協定やFTA締結に向けて動きを進めたい」と提唱した。安倍首相は「投資協定を含めてFTAに関しては各国と積極的に進める立場だ」と応じた。
イスラエル政府は4日、日本との経済協力関係を強化する計画を閣議決定した。今後3年間で数十億円規模の投資で集中的に連携を進め、2017年までに日本からの観光客を45%増やす目標も打ち出した。
イスラエル中央統計局によると、13年の日本からの輸入額は11億1千万ドル(1302億円)で自動車や電気機器、化学品が多い。イスラエルから日本への輸出額は7億2千万ドル(844億円)で工学・医療機器や機械・電子機器などが上位を占める。同国の人口は818万人(14年5月時点)だが、1人あたり国内総生産(GDP)は日本と同規模で経済は好調だ。
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イスラエルとの投資協定を結ぶということは、イスラエルの電子機器などの軍事転用可能な製品を共同研究するということでもある。ここで日米イスラエルの軍需産業が連携しているという構図になってしまう。アラブ諸国はそのように見るはずだ。
日本がイスラエルと連携する理由は何もない。日本にとって中東諸国が重要なのは、中東の資源を日本が輸入し、日本の電力プラントを中東諸国に輸出することにある。UAEのような諸国との連携を深めることは重要でも、いま、ガザ侵攻やパレスチナ国家樹立に反対するイスラエルと連携する理由はない。
その辺のことはいくら外務省がバカでも理解しているはずだ。だから、安倍首相は今回の中東訪問において、イスラエル紙に次のようなイスラエルのリクード政権の入植政策を批判する寄稿を行った。
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安倍首相:「入植政策は国際法違反」イスラエル紙に寄稿
【エルサレム大治朋子】イスラエルを訪問中の安倍晋三首相は地元紙「イディオト・アハロノト」(19日付)に寄稿し、イスラエルが推進するユダヤ人入植(住宅)地の建設について「国際社会が国際法違反とみなす」ものだとして、改めて見直しを求めた。入植地拡大政策はパレスチナとの中東和平交渉再開の大きな障害となっており、改めて「苦言」を呈した形だ。
首相は「真の友からの提案」と題する寄稿で、昨年春以降、和平交渉が頓挫している「現状を懸念している」と指摘。一方で、入植地で作られた商品の不買運動については「当事者の一方をボイコットするような動きには明確に反対する」と述べ、「日本は友人として、イスラエルが国際社会で孤立しないことを願っている」とした。
(貼り付け終わり)
確かに安倍寄稿はイスラエルの政策を批判している。しかし、同時に「真の友」とも述べている。イスラエルの首相に対して、安倍首相は友人であると述べている。 去年の末からの中東情勢を見れば、このような書きぶりができるはずはない。イスラエルは、現在、3月17日に投票予定の解散総選挙の真っ最中であり、同時にパレスチナの国際刑事裁判所(ICC)加盟という新しい動きに直面している。
イスラエルが最も嫌がっているのは、ICCを通じてイスラエル国防軍の兵士たちが、ガザ地区で行っている軍事行動について国際法違反であると指弾されることである。産經新聞の報道によれば、「安倍首相は国際刑事裁判所(ICC)への加盟を申請したパレスチナ自治政府に対して「中東和平に支障がある動きは控えてほしいと伝える」と、ネタニヤフ氏に説明した」という。実は、ネタニヤフ首相は安倍首相がこのメッセージを出すように根回しをしていたようだ。
日本の独立系ニュースブログでは、マアリブ紙の報道を引用して、ネタニヤフ首相が、安倍首相に国際刑事裁判所にイスラエルだけとやり玉に挙げ続けるのは受け入れがたいというメッセージを伝えるようあらゆる手段を取って欲しいと要請する見通しである」と書いている。(http://blogos.com/article/103815/)
年明けに起きたパリでのイスラム原理主義派による風刺新聞襲撃事件の後にも、ネタニヤフは、わざわざパリに出かけ、フランスのオランド大統領やドイツのメルケル首相が参加するデモンストレーションに参加している。イスラエルの左派系のハーレツ紙によれば、「オランド大統領はネタニヤフにパリのデモ行進に来るなと伝えていた。ネタニヤフがイベントを利用しフランスのユダヤ人について演説することを懸念していた」ということである。つまり、イスラム原理主義のテロをシオニズムのプロパガンダに使われることを欧州はものすごく嫌がっているということだ。(http://www.haaretz.com/news/diplomacy-defense/.premium-1.636557)
イスラエルを支持する文脈での「テロとの戦い」という視点で物事を見る「仮説」をたてることが重要ではないかと思う。イスラエルと戦っているハマスというパレスチナの過激派を作ったのはモサドではないかという話がある。このことの真偽はともかく、ハマス幹部の息子がイスラエルに内通し、イスラエル総保安局シン・ベトに協力していたという本が少し前に話題になった。(『ハマスの息子』)イスラム国にも同様の情報網がイスラエルにはできている可能性は十分にある。
これにネオコン派のマケインが中東で暗躍しているのが非常に気になる。日本は知らない間に、イスラエルとパレスチナの戦いのイスラエル側にたって参加させられることになったのではないか。マケインは戦争を煽るプロフェッショナルで、ロシアとウクライナの対立にもウクライナを焚きつける役割をしていた。
言ってみれば、今の中東地域、イラク、シリアのイスラム国支配地域は、かつての旧満州周辺の馬賊が支配するような軍閥割拠地域であるだろう。そういうところに反シリアのアサド政権の文脈でアメリカが支援したイスラム過激派が紛れ込み、それが「ブローバック」となって、イスラム国が生まれた。それでもマケインのような過激派は、そうなったらそうなったで、「ならばイスラム国も潰す。別の反アサド勢力を育てるまでだ」というだけだろう。ツイッター上で、ジョン・マケインという政治家は「馬賊の長」だと書いていた人がいたが、言い得て妙だ。おそらくは「アラビアのロレンス伝説」も似たようなものだろう。 ネオコンは世界中に戦争の種をまき散らしている。これとオバマ大統領は戦っている。
ISIS : John McCain admits he met ISIS and says "We know these people intimately" (Sept 16, 2014)
さらに言えばウクライナ紛争の時に電話が傍受されて公開された、米国務省の東欧担当の高官であるヴィクトリア・ヌーランド(下の写真)だが、米国のフランス大使館主催でワシントンで開催された、風刺漫画家殺害に抗議する連帯デモには政府の代表で参加していたという報道もあった。ネオコン派とオバマ政権のリアリストの対立があるのは間違いない。
そのような中で、オバマ大統領とバイデン副大統領が、パリでの連帯デモに参加しなかったのは実に賢い判断だった。ネオコンが戦争をいたるところで煽っている中、アメリカの国益にかかわらない案件に深入りする必要はないという判断なのだと思う。
イスラエルがリクード政権のネタニヤフという危険なネオコンとつながっている指導者に率いられている今、安倍首相はネタニヤフとの結束をアピールするべきではなかった。これは反ユダヤ主義でもなんでもなく、イスラエルの外交政策、とりわけ、パレスチナへの入植政策が問題であるということだ。そのことを安倍首相は理解していたはずなのに、みずから墓穴をほってしまった。
かくして「テロに屈するな」というスローガンが飛び交うことになる。安倍首相のイスラエル外交が日本をその地獄の淵に引き寄せた、というのが後世の歴史家の適正な評価となるだろう。
NHK:http://www3.nhk.or.jp/news/html/20150120/k10014825031000.html
「イスラム国」“邦人殺害”と脅迫 身代金要求1月20日 19時33分
イスラム過激派組織「イスラム国」のメンバーとみられるナイフを持って覆面をした男が、72時間以内に身代金を支払わなければ拘束している日本人2人を殺害すると脅迫する映像が、インターネット上に公開されました。
この映像には、去年拘束された湯川遥菜さんとフリージャーナリストの後藤健二さんとみられる2人がオレンジ色の服を着てひざまずかされている様子が映っています。
そして、2人の間に黒い服で覆面をかぶった男が立ち左手にナイフを持って英語で話しています。
この中で男は、「日本の総理大臣へ。日本はイスラム国から8500キロ以上も離れたところにあるが、イスラム国に対する十字軍にすすんで参加した。われわれの女性と子どもを殺害し、イスラム教徒の家を破壊するために1億ドルを支援した。だから、この日本人の男の解放には1億ドルかかる。それから、日本は、イスラム国の拡大を防ごうと、さらに1億ドルを支援した。よって、この別の男の解放にはさらに1億ドルかかる」と述べ、2人を解放するためには合わせて2億ドルを支払うよう要求しています。
さらに、「日本国民へ。日本政府はイスラム国に対抗するために愚かな決断をした。2人の命を救うため、政府に2億ドルを払う賢い決断をさせるために圧力をかける時間はあと72時間だ。さもなければ、このナイフが悪夢になる」と脅迫しています。
この映像の信ぴょう性については、まだ分かっていませんが、冒頭にNHKの国際放送「NHKワールドTV」が日本時間今月18日の未明に放送したニュースの映像が引用されていることから、18日以降に編集されたものとみられます。
シリアを管轄するヨルダンの日本大使館は「動画が配信されたことは承知している。邦人とみられる2人の殺害が予告されているが、その真偽については、現在、確認中だ。仮にこれが事実であれば、人命を盾にとって脅迫するのは許し難く、強い憤りを覚える。日本国政府としては、関係各国とも協力しつつ、早期解放に向けて、最大限の努力を尽くす所存だ」と話しています。
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コメント
コメント一覧
以下http://yamatekunihiro.blog.fc2.com/blog-entry-8.htmlより
山手さんプロフィール
(引用開始)
1924年10月10日、広島県生まれ。戦争とその後の混乱の中で、東京大学医学部を中退し、生活装置研究会を設立。その後、企業と社会のオリエンテーション機関として有限会社「イオ」(集団頭脳プロダクション・生活プロダクション)を設立。現代ヨガの会も主宰し、「原気呼吸による脱カルマ瞑想」を江古田・浅間湯コミュニティ・ホールにて行なっていた。1996/12/5に亡くなられる。
(引用以上)
現代のアラブ世界では武器をふりまわして勝敗を決着するという、日本の戦国時代と同じ原理で動いていて、そこに現代の先進国の常識(人権とか契約とか…)を持ち込んでも時代が違うので噛み合うわけが無いといった発言をされてて、それが以前WEB上に公開されてたのですが、今はそのサイトが閉じられてしまってるので、似たような内容の下記を引用します。
(引用開始)
現在というのは、よく“エンカウンターの時代”と言ってますよね。エンカウンターというのは、さっき言ったように、いろんな時代が今、共存してますね。アラブは今、ヨーロッパとは違った時代に生きてますし、アフリカはまた違った時代、インディオもまた違った時代……。ですから地球上に違った時代が共存してるんです。タイム・マシンに乗ってるのと同じことなんです。地球上全体が、交通・通信の発達によって、各時代が今エンカウンター遭遇してるんです。もちろん各民族・各国家も遭遇してるでしょ、入り交じって。
(引用以上)
上記の文章は1993年にたま出版というとこから出た「創業夢宿 remix」と言う本の中の一節です。
http://www.amazon.co.jp/%E5%89%B5%E6%A5%AD%E5%A4%A2%E5%AE%BF%E2%80%95Remix-%E5%B1%B1%E6%89%8B-%E5%9B%BD%E5%BC%98/dp/4884812999
なんら矛盾は無い多神教的宗教観であるといえる。
なのでキリスト教にもイスラム教にもそれぞれ正義があることは理解する。
が、イスラム国のやっていることは悪党そのものである。
まさに絵に描いた悪党である。
日本人は変なところが潔癖でこの分かりやすい悪にめっぽう弱い。
ややこしい問題に首を突っ込んだのがそもそも問題だ、というリベラルの意見などはもはや全く相手にされないだろうと思う。
実際、安部政権に懐疑的な左系の新聞ですら今回の件は安倍寄りの論調である。
今回の日本の中東外交は「我関せず外交」から「八方美人外交」への転向でしょ?
(それ自体に対しての是非はあると思うが)
イスラエルとの協定はたしかにイスラエルへの土産だ
しかしイスラム原理主義との戦いはむしろイスラム諸国への土産では?
なぜならイスラム国のような組織に頭を痛めているのはイスラム諸国の方だから
日本のイスラム原理主義との戦いをUAEやサウジは批判してるのでしょうか?
おそらくそんなことはないはずですよ。
そもそも今回イスラエルの前にサウジを訪問しています。
イスラム社会全体を敵に回したかのような兆候はありません。
(もちろん全ての国から歓迎されたかどうかは不明ですが)