挿絵表示切替ボタン
▼配色







▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる
彼の名前 作者:みなっち

第二章 文鳥

9/10

第二話 講義室にて

 文太君に連れられた講義室は、本当に広かった。確かにこれなら、一人ぐらい紛れ込んでも分からないけど…けど…緊張する。
「おれがいるんだから堂々としてればいいよ。」
「私、文太君と違ってメンタルそんなに強くないので……」
「……。」
 返事がない。何か、表情が……もしかして怒ってしまったのだろうか。

「ごめん。ちょっと面倒な奴がいたから、そこで待ってて。」
 文太君はそう言い残し、階段を降りて、まっすぐ歩いていった。その先には座っている青年と、ソレを取り囲む三人がいて、耳を澄ませばかろうじて会話が聞こえてくる。
「どうしたの、森田クン。」
「うわ、文太じゃん。どうしたのって、中村が俺らの為にノートとってくれたから取りにきただけだし。」
「ふーん……。……。フィールド研究の小テスト、だっけ。おれ、完璧だからノート貸してあげよっか。ううん。貸してさしあげるよ、ハイ。」
「んだよ……調子乗ってんじゃねーぞ。」
「うるせーな。ノート貸すだけで、いちいち調子乗るかよ。いるの、いらねーの?」

 文太君に言われて、森田という人の取り巻きはノートを彼から受け取った。森田という人は舌打ちをし、その場から離れた。彼らは、品のない笑い声を上げながら、隣を通り過ぎる。文太君の学部は結構、有名なので彼らも勉強はできるのだろうが。それにしても、今の一連の流れは疑ってしまいたくなる。まあ、自分の大学もああいう層は少なからずや居るといえば居るのでどこの大学も一緒なのだと思う。思った以上に私の方が緊張していたらしく、肩がガッチガチに固まっていた。ため息と共に肩の力を抜く。特に何もなくてよかった。

「中村君、後でいいんだけどノート、コピーさせて。」
「ぶ、文太君……あの……」
「つーか。まさか本当にノートとるって約束したとか、ないよね?」
「ちが……本当……いきなり言われて……」
「だと思った。ま、交通事故にでも遭ったと思って自分を宥めなよ。」
「あ…あの……」
「カナー!あっち座ろ。」
 いきなり呼ばれて、大げさにびくっと肩が上がってしまった。文太君は大分前の方を座りたがった。前の席はやっぱり、たくさん空いている。途中、中村君と呼ばれた人の視線を若干感じながら、文太と並んで席に着いた。
「えっと、文太君。かっこよかったよ。」
「何が?」
「えっと、ああいう事できるのってかっこいいと思うな。」
「はあ?」
「とっさに誰かをああやって守れるなんてすごい事だと思う。」
「ふーん……。あんたにはそう見えたんだ。」
「?あ、ノート大丈夫?」
 なんだろう。違和感。
「ノートは別に、どうでもいいんだよ。ノートなんかなくても完璧の自信あるし。でも、ああ言わないと中村君が気を遣っちゃうでしょ。」
「えっ、大丈夫なの!?持ち込み可能のテストって結構、大変なんじゃないの……?」
「そだよ。でも、受講した後に復習すれば大抵忘れないでしょ。予習もできたら一番なんだけど、さすがに、そこまで時間とれないし。」
「えー……そ、そうなのかな……。それって文太君がすごいんじゃないかな……」
「ほら、おれって真面目だし。暗記得意なんだよね。なので、ノートに関しては全然困ってない。」
「うーん……文太君がそういうなら……。」
「あ、そうだ。じゃあさ、テストでいい点数とれたら、イイコトしてくれる?」
 文太君の目が輝いた。これは、私をからかう時の目だ。イキイキしている。
「えっいいこと?」
「そっいいこと。」
「うーん……いいよ……?」
「アハハ」
 戸惑いつつも話に乗ってみたのに、何故か笑われた。

 なんというか…
 もっととっつきにくい人なのかなって思っていたけれど、大分、印象が変わった。まあ、最初は私が遅刻して怒らせてしまったから悪いんだけど。
 また次もお昼一緒にできたらいいな。文太君の空いてる曜日っていつだっただろうか。
+注意+
特に記載なき場合、掲載されている小説はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている小説の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による小説の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この小説はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この小説はケータイ対応です。ケータイかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。
小説の読了時間は毎分500文字を読むと想定した場合の時間です。目安にして下さい。
↑ページトップへ