そのあと
「あれ?あれは・・・」
今日の夕食の材料を買いに来たシンジは、場違いな人物を見つけた。
声をかけた。
「加持さん?やっぱり加持さんだ、どーしたんです?こんな所で会うなんて思いませんでしたよ」
「よぉ、シンジくんか・・・そうだ!どっちがいいと思う?こっちは一見綺麗なんだが中身が気になってな」
いつもはヘラヘラしているがまじめな顔で食料品を物色していた、専業主夫シンジ
その男の名は加持リョウジ、ネルフに所属する元スパイの宿六である。
「でも、珍しいですね?」
「シンジ君は知ってるだろ?葛城の料理は体を蝕むからな・・・俺が作るしかないんだ」
ホロリと寂しげに語る。
以前は、こんな表情は見せなかった。女性を口説くのに弱気は必要なかったからだ。
独身貴族を気取っていたのも昔の話、今では葛城ミサトと夫婦の関係をもっている。
ミサトに強引に引導を渡されても潔く観念しなかったこの男の女性遍歴は凄いらしい、ネルフではもっぱら噂。
「蝕む・・・確かにそうですね」
「一回目はまだ耐えれるんだよ、でも甘く見てはいけない・・・アレは普通の食材から作られているのか不思議な程なんだ」
背の高いこの年代の男が似合わない主夫をしているのにはワケがある。
シンジに見つかったのは初めてだが、結婚してからずっと料理をしているのはリョウジなのだ。
「そうですか・・・やっぱりさすがの加持さんでも」
「シンジ君、君は俺を買いかぶりすぎだよ。ミサトの料理から逃げるためにこうして安い肉を捜しているつまらない男さ」
はははっ、と冷たく自虐的に笑いながらもしっかり肉の良し悪しを見ている主夫。
「そうですか・・・まぁ主夫がんばって下さい、じゃぁ」
スタスタと去ろうとするシンジの手をつかむリョウジ、シンジが振り向くと必死な顔のリョウジ。
「まってくれ!」
「自分で作ったとはいえ毎日カレーは嫌なんだ・・・俺もレパートリーはカレーしかなくて」
「え?まさか・・・ミサトさんに、あのおぞましいカレーの作り方を教えたのは・・・加持さん!?」
時が止まる。
ミサトの料理の被害者は、多い。
シンジの知っているだけでも自分を含めたパイロット、綾波レイ、惣流アスカラングレー。
そして伊吹マヤ、赤木リツコ、のミサトの部下や同僚、上司までも。
・・・鈴原トウジと愉快な仲間たち。ミサトの容姿にだまされた年端も行かない名もなき同級生たち。
時が動き出す。
ブルブルと怒りで震えるこぶし、シンジはリョウジの手を振り解き行ってしまった。
「加持さんっ!裏切りましたねっ、やっぱり加持さんって最低です!」
「違うっ!違うんだっ!アレはミサト独自の発展をしてしまっただけなんだ!100パーセント、俺のせいじゃないんだ!」
必死に弁解して誤解を解こうとする・・・嘘をついて。
アレはミサトの誘惑と脅しの結果生まれたのだ、大学時代に付き合っていた時・・・手作りカレー弁当。
それは一見ただのカレー弁当・・・だが不味い。ひたすら不味くても彼氏は愛情たっぷりと言われてはお手上げ。
加持の若気の至り。
「じゃあ、基本はやっぱり加持さんなんですねっ!?」
「ああっ、待ってくれーっ!?インスタントとカレーと酒だけの生活はもう嫌なんだぁっ!頼む助けてくれぇ!」
大の大人が泣きついてきたので呆れつつ、アスカのおねだりでいつも作るハンバーグを伝授してあげた。
願わくばハンバーグカレーが葛城家の『お袋の味』にならない事を願ったシンジだった。
「なるほど、肉の分量と味つけには・・・ふむふむ、ああこれでましなモンが食える・・・ありがとう」
メモる加持に奢ってもらった缶ジュースを飲む。
「本当にすまない、お礼にスイカを」
「それはありがたく・・・いただきません!」
ミサトの家には冷蔵庫が4つもある、ひとつは通常使うもの。ひとつはペンペン。ひとつはビール。ひとつはスイカ。
シンジは加持が第三次のスイカ畑拡張で豊作貧乏になっているのを知っている、ちょっと前に
リヤカーいっぱいのスイカをゲンドウの所に嫌がらせのごとく贈ったのを知っている。かなーりご遠慮したい。
「そうか・・・はぁ・・・」
「・・・」
折角、家に腐るほどあるスイカを処理できると思ったのだが断られてしまった。しかし諦めきれない。
加持の脳裏に、食卓にいつも並ぶあの円柱形の物体が浮かんだ。
「・・・・・・じゃあビールなんてどうだ?家にたくさんあるから」
「ミサトさんに殺されますよ」
「そ、そうだったな・・・忘れていたよ、というか記憶から消していたよ、あの時のミサトは修羅だったな」
思い出したくもない伴侶の、ひとつの顔を封印していた加持リョウジは冷や汗をたらす。
震える手を意識を強めて止めると息を深く一回した、タバコを一本吸う。
「女は怖いな、シンジ君。ところでアスカはどうだ?君にはどんな風に接している?仲いいと聞くが・・・」
「別に普通です。ただ・・・」
「ただ?」
シンジがアスカと付き合うようになってから随分たつ、もう慣れてしまったがアスカとのキスは日に10はする。
そろそろ、結婚の話もしているので恋人気分は現在が最高だとシンジは思っている。
ネルフの予定を変えてまでデートしているが、それももう少しで終わると思う。それに子供ができて忙しくなるだろうと。
その考えが間違っているのを数年かけて理解していくのだが。
「普通っていう基準がアスカは少し高いみたいで・・・デートの回数とか、キスの回数が少し多いと」
「ふむ・・・そうか、俺の経験から言えばそういう女性は少ないな。
デートも大切だがアレも大切だ、アレの後なんかが顕著に特徴として表れるな。
俺なりに向こう岸に近づいた結果、タバコとアルコールと栄養ドリンクをコーヒー代わりにする女はミサトだけだった」
唖然とするシンジ。
「・・・それってかなりオヤジ入っていますね、普通コーヒーでしょう?」
「そうだな・・・普通は。だがしかし、ミサトは大学の時とちっとも変わってない。
それどころか8年間ほかっておいたら、パワーアップしていたんだよ・・・二カップになっていたんだ」
また一つ・・・いらない知識を加持に伝授されそうな雰囲気なったので、帰る事にした。
こんなに下らない時間を過ごして、愛しい恋人のアスカに寂しい思いをさせるわけにはいかない。
「カップ?まさかお酒ですか?アレのあとに迎え酒・・・僕には永遠に理解できそうもありません。
アスカを待たせすぎると厄介なので帰ります、加持さんは頑張って下さい」
「向こう岸にか?ふっ、シンジ君は俺を過大評価過ぎているな。
俺はこれでも既婚者だしな、プレイボーイは昔の話。独身女性に手を出すわけには行かないだろ?
しかし、盲点がある・・・そう既婚者なら。
知ってるか?そろそろネルフじゃ適齢期でお局と寿退社の二極化する時期に入ると推測されている。あ、これは俺の計算なんだがな。
シンジ君は知らないだろうが人妻というのも中々いいものだ、ドイツでの連戦連勝の話の第二章目でその良さは詳しく説明しよう。
その話は置いておいてー、俺の立場を最大限利用しない手はないんだ。フフフ。
そう俺は主夫だ、時間がとり放題で団地の偵察はスパイの腕を生かせる。あと時間帯をみないと間男としてやっていけない。
シンジ君。それとな・・・」
延々と喋っている、そばから離れても。
まだ愚痴と気の多さに事欠かないらしく、喋り続けている加持は小さな子供から指差されてお母さんたちに避けられていた。
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