「愛してる。愛してるよ、アスカ!」

「あたしもよ、シンジ!」

・・・あたしたちが「恋人」と呼ばれる関係になったあの日以来、あたしはときどきシンジに尋ねる。

「あたしのこと・・・愛してる?」

困った顔をしたあとで、シンジはいつもと同じ答えをくれる。

「愛してるよ、アスカ」

優しい微笑みを彩る涙。

嫌いなはずの男の涙。でも、シンジの涙は嫌いじゃない。

それは、あたしへの想いの証だから。

・・・けど、あの時あたしは、それを忘れていた。


Tears for・・・ II

ブレイズ


あたしたちは今、デート開始直後。

学校が休みで天気のいい日は、決まって二人でどこかへ出かける。

「今日はどこ行く?アスカ」

「ん〜、今日はシンジが決めて♪」

以前なら、『あんたが決めなさい』ぐらいは言ってたはず。我ながら丸くなったわね〜。

「えっ?う、うん・・・え〜と、どこがいいかな〜・・・」

相変わらず優柔不断なヤツ。でも、悩むのも無理ないわね。めぼしいとこは、あらかた行き尽くしちゃったし。

それでもシンジは一生懸命に、あたしの喜びそうなところを考えてくれてる。

ふふっ、行き先なんてどこでもいいのよ。シンジと一緒にいられるならね♪

それを教えてあげようと思った矢先、

「すいません、ちょっといいですか?」

横合いから、いきなり声をかけられた。

驚いてそっちを見ると、TVクルーらしき一団がいて、その中のマイクを持ったスーツ姿の男があたしたちに話しかけてきた。

「あの、『炎のエンデバー』という番組なんですけど、ご存知でしょうか?」

「あ、はい」

おたおたしてるシンジに代わってあたしが答える。

「炎のエンデバー」ってのはセカンドインパクト前にやってた番組のリメイクで、さまざまな難関・難問に挑戦して、それをクリアすれば100万円もらえるっていう番組・・・らしい。

あたしやシンジは見てないけど、放送翌日はクラスのみんながけっこう話題にしていて、なんとなく内容だけは知ってる。

その番組に、まさかあたしたちが出演することになるなんて・・・って、まだ決まったわけじゃないわね。

何やらされるかわかんないんだから、もう少し話を聞かないとね。

「ありがとうございます。それでですね、今、『カップル限定・20秒で泣けたら100万円』というのをやってるんですが・・・」

それを聞いた瞬間、あたしは心の中で跳び上がって喜んだ。

「チャレンジなさいますか?」

「はい」

即答。ふふふ、臨時収入、それも100万円とは、ラッキーね。

あたしたちの銀行口座には、エヴァのパイロットとしての給料および危険手当が振り込まれている。命かけた割には安いと思うけど、額面だけ見れば庶民が卒倒するような数字ね。

でも、財布のヒモはシンジ経由でケチのミサトが握ってる(加持さんと結婚して家を出たくせに!)から、月々の生活費及びお小遣いは一定額以上は絶対にもらえないの。

今月は出費がかさんで、お小遣い心もとなかったのよね。チャ〜ンス!

「あ、アスカ!?」

やっと落ち着きを取り戻したシンジが口をはさもうとする。けど、あたしはそれを制して、一方的に宣言した。

「彼がチャレンジします」

ふふふふふ、これで100万円はあたしたちのモノね。だってあたしたちには・・・。

「わかりました。では、ルールの説明を・・・」

スーツの男は細かいルールを説明しだしたけど、あたしはほとんど聞いてなかった。重要な点はただひとつ、

『パートナーとの会話は自由』

その一点につきる。

「それでは、スタンバイお願いします」

スタッフが、安っぽい作りの青いイスを持ってきた。これに座れってことね。

「アスカ・・・」

不安そうなシンジ。でも、

「だーいじょうぶ!心配しないの!」

そう言ってあげると、あきらめたのかゆっくりとイスに腰掛けた。

「それでは、チャレンジスタートです!レディー・・・ゴー!」

スーツの男の合図と同時に、あたしは例の言葉を言った。

「シンジ・・・あたしのこと、愛してる?」

さあ、シンジ!答えて!いつものように!そうすれば・・・あら?

「シンジ?」

なんで黙ってるの?なんでそんなつらそうな顔するの?なんでうつむいちゃうのよ!?

そして、シンジは涙を流した・・・何も言わずに、うつむいたまま。

「おめでとうございます!100万円ゲット・・・」

「ちょっと、シンジ!!」

大声で騒ぐスーツの男を押しのけてシンジに詰め寄ると、その胸ぐらをつかんで立ち上がらせる。こんなことするのは久しぶりね。

「どういうことよ!?なんで黙ってたのよ!?」

まだ泣きやまないシンジをガクガクと揺さぶる。『お金はもらえたんだから、いいじゃないか』なんて言ったら、絶対に許さない。

「答えなさ・・・」

バッ!

あたしは自分の目を疑った。シンジはあたしをにらみつけると、次の瞬間あたしの手を払いのけたのだ。こんな経験は初めてだ。

「シンジ!?」

シンジがあたしの手を払った。シンジがあたしを拒絶した。あの優しい、誰よりもあたしに優しいシンジが・・・。

その理由は、続くシンジの言葉ではっきりとわかった。

「アスカ・・・アスカにとって僕の想いは、僕を泣かせるための手段でしかないの?」

あたしは息を飲んだ。さらにそこへ追い打ちがかかる。

「僕はアスカへの想いを、お金で売ったりなんかしないよ」

・・・今度はあたしが涙を流す番だった。

あたし・・・最低だ。

「シンジィィーッ!!!」

泣きながら、シンジにしがみつく。シンジはあたしを、こんなあたしをいつものように優しく包んでくれた。

「ごめんなさい!許して!もう二度としないから!嫌いにならないで!お願い!」

あたしは子供のように泣きわめきながら、シンジに許しを請うた。

「いいんだよ、わかってくれれば、それで・・・」

許されるはずもないあたしの罪を、シンジは許してくれる。

抱きしめてくれる。頭をなでてくれる。背中を優しく叩いてくれる。

そのうれしさと、自分の情けなさに、あたしはただただ泣き続けた。

 

そう、あたしは慣れてしまっていたんだ。シンジに愛されることに。

『愛してる』と言うたびに涙を流すシンジ。それは、心の底からあたしを想ってくれているから。

それをあたしは、シンジをパブロフの犬みたいに・・・。

ううん、パブロフの犬は、あたしの方ね。

いつからかあたしは、シンジの涙でしか、シンジの想いを確認できなくなっていたのね。

許して、シンジ・・・。

 

どれぐらい泣いただろうか。少し落ち着いてきたあたしは、シンジに尋ねた。それは、心に残る最後の不安を消し去るため。

「ねえ、シンジ・・・もうお金なんて関係なくなったから・・・もう一度改めて聞かせて・・・」

シンジの目を見つめながら、

「あたしのこと・・・愛してる?」

「もちろんだよ」

間髪入れず、シンジが答えてくれた。その瞳からは、新たな涙があふれている。

「愛してるよ、アスカ」

優しい微笑みが、涙ににじんで見えなくなる。でも今のあたしには、シンジの心がはっきりと見える。

あたしたちは唇を重ねながら、二人で涙を流し続けた。

言葉にしきれずに心からあふれ出した、純粋な想いの雫を。

 

長い口づけが終わると、例のスーツ男が遠慮がちに話しかけてきた。

「・・・あの、おめでとうございます。賞金の100万円です」

そう言って、手に持った紙幣の束を差し出す。でも、あたしはきっぱりと言った。

「「いりません」」

思いがけないユニゾン。うれしい!

「は?」

男がマヌケな声で訊き返してくる。もぉ、聞いてなかったの?

「「お金なんて、いりません」」

またしてもユニゾンで答えると、あたしたちは見つめ合い、微笑みを交わした。

そう、この笑顔は、お金なんかじゃ買えない。

この想いは、いくらお金を積まれたって、絶対に売ったりするもんか。

呆然とするTVクルーをよそに、あたしたちはもう一度熱い口づけを交わした。

 

 

それから、スタジオ出演の話も断り、改めてデート再開。

コース自体はありきたりだったけど、今までで一番楽しかった。

そしてその夜、あたしたちは久しぶりに、その・・・ひとつになった。

もう何度も体を重ねてはいるけど、今回はまさに「心も体もひとつになった」って感じで、とてもとても気持ちよかった。

終わったあと、あたしはシンジに訊いてみる。

「ねえ・・・昼間のこと、怒ってない?」

「昼間のことって?」

本当に忘れてるのか、それとも言外に『気にしてない』と言ってくれてるのか。どっちにしても、すごくうれしい。でも、それに甘えるわけにはいかない。

「TVのことよ。・・・あたし、最低なことしちゃったわね。ごめんなさい」

思い出しても胸が痛む。でも、この痛みはあたしへの罰。

「気にすることないよ」

シンジはそう言ってくれるってわかってた。

「でも!」

そう、でも・・・あたしはまだ、自分が許せない。

「じゃあ訊くけど、あのとき黙ってた僕に怒ったのはどうして?」

「それは・・・シンジが答えてくれなかったから・・・」

「ほら、アスカは最低なんかじゃないよ」

シンジがあたしを優しく抱き寄せる。

「僕が答えなかったからこそ、アスカは怒った。それって、アスカが僕を想ってくれてる証拠だろ?」

「シンジ・・・」

「あのときの答え、今言わせてもらうよ。・・・『愛してるよ、アスカ』!」

あたしたちは、もう一度泣いた。

もう、シンジを一人じゃ泣かせない。

これからは二人で、幸せな涙をいっぱい流そう。

ずっと、二人で・・・。

 

 

最後に、あたしたちのラブシーンはほぼそのまま放送され、学校の連中や、偶然番組を見ていたミサトにさんざんからかわれたことを付け加えとくわ。

・・・ま、幸せだからいいけどさっ!

−了−



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どうも、ブレイズです。

初投稿作品「Tears for・・・」の続編を書いてみました。

書いてみて、読み返して、思ったこと。

「・・・泣きすぎ」(鉄槌)

私の書くSSのコンセプト自体が、

「とりあえず シンジとアスカ 泣かしとけ   無礼頭」

ってなもんですから、しゃーないんですが(鳥葬)。

でも泣かない話も考えてます・・・って、それが普通か?(迷宮)

といふわけで(脱兎)、ブレイズでした。ありがとうございました。

P.S.

作中登場の「炎デバ」(白髪)のチャレンジ内容については、限りなくフィクションに近いうろ覚えです(彼岸)。