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格差社会と日本 置き去りにされた議論

 今回の参院選で格差を巡る論戦が最後まで盛り上がらなかったのは残念だ。もともと野党が主張していた同一労働同一賃金などを安倍政権が選挙前に言い出して「争点つぶし」を図ったためと言われる。有効な対立軸を打ち出せなかった野党も情けない。

     そうした間にも日本の社会ではあらゆる年齢層に貧困が広がっている。格差は国民間に不信を生み、社会の土台を腐食していく。選挙前の付け焼き刃ではなく、貧困と格差を解消する総合的な政策が必要だ。

     「国民総所得は40兆円近く増加し、企業収益は史上最高の水準に達し、就業者数は100万人以上増えた」。安倍政権の「ニッポン1億総活躍プラン」の冒頭はアベノミクスの成果を高らかに掲げる。

     ところが実質賃金は5年連続で下落し、暮らしが苦しくなったと実感する人は多い。春闘ではベア実施が続き、賃金は上がっているが、物価の上昇に追いつかないためだ。雇用が増えているのは賃金の低い非正規社員で、ベア実施の恩恵を受けている正社員はむしろ数が減っている。

     安倍政権が消費税10%への引き上げを延期したように、税財源による福祉の拡充や低所得層への支援が進まない一方で、保険料は増え続けている。非正規社員の場合、賃金が低いだけでなく、正社員に比べて相対的に重いと言われる国民年金や国民健康保険の負担が増えて、ますます生活を圧迫している。

     さらに厳しいのが生活保護受給世帯やその周辺の貧困層だ。安倍政権になってから生活保護の給付水準が引き下げられた。給付窓口では審査の厳格化が図られ、受給者が絞り込まれる傾向にある。年収122万円に満たない「相対的貧困」の状態にある人の割合は16・1%に上るが、その中で生活保護を受給しているのは2割に過ぎない。

     昨年から始まった生活困窮者自立支援事業では、全国に相談窓口を設け、就労に結びつけて自立を促すことになっている。参院選での各党の困窮者対策も「就労」「自立」が目立つ。しかし、現在の貧困は疾病や障害、孤立などが複雑に絡まり合っている例が多く、就労につなげるのは容易ではない。体力が落ちて衰弱しきっている人にリハビリ訓練を強いるようなものだ。

     貧困家庭の子どもたちに食事の提供を通して生活支援をする「子ども食堂」や路上生活者の支援などは民間のボランティア活動が中心となって担っている。厳しい格差の現実に焦点を当てた政策がもっと必要だ。

     居住環境、健康、教育、就労など総合的な貧困対策と財源の確保に本気で取り組まねばならない。

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