このホームページでは、既に、予選を勝ち抜いた【「名作」回】のベスト20が発表され、7月9日の生放送では、最終結果・上位ベスト10が発表になります。巷ではどれがベスト・ワンになるのかさまざまな憶測が飛び交い、予想屋まで現れる始末、というほど盛り上がってくれれば本望なのですが、ここでは、誠に残念ながら既にランク外となってしまったけれど、個人的には大好きな「名作」回に焦点を当てていきたいと思います。
『ウルトラQ』からは第12話「鳥を見た」
『ウルトラQ』からは、なんといっても第12話「鳥を見た」です。少年が一羽の小鳥と仲良くなるも、実はそれは、夜になると巨大化して暴れ回る古代怪鳥ラルゲユウスだった、というお話ですが、モノクローム映像で綴られるジュヴナイル・ストーリーが、まるでヌーヴェルヴァーグ作品を想起させるほど瑞々しく感じられるのは私だけでしょうか。のどかな漁村を舞台に心を通わせてゆく少年と小鳥、一方で、夜な夜な動物や人間を襲う怪鳥、異なるテンションを対比させながら少年の成長物語を紡いでゆく、シリーズ屈指の寓話的傑作です。また、音楽も素晴らしい。各話ごとに作曲されていたと言われる『ウルトラQ』の宮内國郎氏による楽曲群の中でも、出色の美メロだと思います。ラストシーン、飛び去るラルゲユウス(少年はクロオと名付けています)を見送る少年、そのバックに流れる音楽、思い出すだけで涙が出ます。川崎の「怪獣酒場」のメニューには、是非、「鳥を煮た」というメニューを加えて欲しいと思います。
『帰ってきたウルトラマン』は始祖怪鳥テロチルス!
続いては『帰ってきたウルトラマン』から第16話「大怪鳥テロチルスの謎」、第17話「怪鳥テロチルス 東京大空爆」の前後編。こちらも登場するのはトリ型の怪獣ですが、その内容は、「鳥を見た」とは対称的に、怪獣出現〜謎の解明〜怪獣退治というストーリーに若い男女の愛憎劇をからめたハード・ボイルドです。幼馴染みの恋人(由紀子)を奪われた青年(三郎)が、ダイナマイトで相手もろとも恋人を吹っ飛ばそうとするが、その刹那、謎の飛行物体が頭上に飛来するという冒頭シーン。怪獣の吐く毒ガスによって視力を奪われた由紀子を気遣う郷に、アキが嫉妬するという中盤。由紀子を拉致しビルに立てこもる三郎だったが、屋上には怪獣が巣をかけており、そんな極限状態の中、2人は互いへの愛情を取り戻すという終盤。怪獣を巡るストーリーと、罪を犯してまで愛を奪回しようとする狂おしいまでの青春物語が、全く乖離すること無く描かれます。見事な脚本、見事な演出、見事な演技に支えられた傑作だと思います。
この他にも…じゃみっ子(糸を吐くことの出来ないカイコのこと)と呼ばれ、いじめられていた弱虫少年が、怪獣との戦いを通じてたくましく成長してゆくが…という『帰ってきたウルトラマン』第25話「ふるさと地球を去る」。私が個人的にウルトラマンシリーズ最強のヒロインと信じて疑わない美川のり子隊員が、ヤプールの手先となった漫画家によって捕らえられ、私服のワンピース姿のまま捕縛されてしまうという『ウルトラマンA(エース)』第4話「3億年超獣出現!」。私が個人的にウルトラマンシリーズ最強のヒロインと信じて疑わない美川のり子隊員が(くどい)、浴衣姿を披露しつつ、愛した男が実はヤプールだったと知りながら「坂井さん、私はあなたを信じたい! いえ、信じています! みんなの前で潔白を証明して下さい!」と、最後まで相手を愛し抜こうとする女心を炸裂させる『ウルトラマンA』第22話「復讐鬼ヤプール」。いつも植木バサミをカチカチ鳴らしている捨て子の少女が、捨てられて亡くなった子どもの供養塚に生えた吸血植物(赤ん坊の声を発する!)を配って歩くが、それは実は怪獣で…というホラー・テイスト満載の『ウルトラマンタロウ』第11話「血を吸う花は少女の精」…などなど、ウルトラマンシリーズには「名作」回が目白押しなのです。
特撮ドラマだからこそ「名作」回は生まれる!
こうした「名作」回の数々が、積み重ねられてきた50年という時間の賜であることは、言うまでもありません。同時に、“怪獣という架空の災厄が人間社会に出現する”という基本フォーマットを有した特撮ドラマだからこそ、これらの「名作」回が誕生したと言えるのではないかと思います。必ずしも現実世界の尺度では説明しきれない“怪獣”という謎を秘めた災厄だからこそ、そこに様々なバリエーションの人間ドラマを絡めることが出来、また、巨大で無数の破壊行為を行う“怪獣”という極端な災厄だからこそ、30分に満たない放送尺でありながらも濃密なドラマを展開することが出来る。これがウルトラマンシリーズの魅力だと思います。子どものころ、ウルトラマンシリーズにインスパイアされ、学習ノートに鉛筆で、怪獣と巨大ヒーローが登場するオリジナルの漫画を描いたことがあるのは私だけでは無いでしょう。そこに“濃密でバリエーション豊かな人間ドラマ”など描き込めはしなかったけれど、そんな物語を自分でも作ってみたいと思った。こうした想像力(創造力)を刺激してくれたウルトラマンシリーズに感謝します。
西村 崇 プロフィール
NHKエンタープライズ・エグゼクティブプロデューサー。1985年NHK入局。「西田ひかるの痛快人間伝」「列島縦断鉄道12000km」「生物彗星WoO」などを担当。2007年から現職に。「怪奇大作戦 セカンドファイル」「サラリーマンNEO劇場版(笑)」「怪奇大作戦 ミステリー・ファイル」「洞窟おじさん」などを担当。