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“自転車革命都市”ロンドン便り<43>走れば走るほどハッピーに 自転車が引き出す社会の潜在能力

2016/07/08 06:00更新

by 青木陽子 / Yoko AOKI
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 EU離脱問題で大揺れに揺れているイギリスからこんにちは。国民投票の結果が多くの人の予想を裏切り(どうやら離脱派を率いていた政治家本人の予想すら裏切り!)、離脱票が過半数を超えてしまったことで、通貨ポンドは急落、株価も急落。英経済の先行きには暗雲がたれこめています…トホホ。

当連載2015年2月の記事(/170509)でご紹介した東西サイクルスーパーハイウェイが今年4月末に開通、テムズ川沿いはこのように幅も広く右左折レーンもある立派なものになりました! Photo: Yoko AOKI当連載2015年2月の記事(/170509)でご紹介した東西サイクルスーパーハイウェイが今年4月末に開通、テムズ川沿いはこのように幅も広く右左折レーンもある立派なものになりました! Photo: Yoko AOKI

 キャメロン首相が辞任を表明した現政権は緊縮財政で知られていますが、3月に発表した予算では、自転車の環境整備予算も削って今後5年で3億1600万ポンド(約440億円)にするなど惨憺たる状態でした。これから経済が悪くなるとすると、自転車の将来についてもさらに不安になるところです。

クルマ側の主張は「税収」

 自転車環境整備予算の大小を考えるときによく引き合いに出されるのは、市民1人あたりにしたときの金額です。自転車先進国オランダ(短距離移動手段の27%が自転車)やデンマーク(同19%)では、1人あたり年間20ポンド超が充てられています。ところがこの発表になった予算ではイギリスは1人あたりわずか年1.39ポンド。短距離移動手段のうち自転車の占める割合が2%程度と低いイギリスですが、これではいつまでたってもオランダのような状況は実現しないでしょう。

 ちなみに、上記と同じ5年間の高速道路や国道などの基幹道路整備予算は150億ポンド(2兆円)。道路は物流の要とはいえ、この開きが正義と言えるのか、自転車普及キャンペーンNGOや『タイムズ』紙などが批判を投げかけています。

ショーディッチのほぼ同じスポットで撮ったビフォー(左 2015年1月)/アフター(右 2016年5月)。クルマは通りぬけ禁止(自転車は通行可)にすることでクルマを減らし、車道全体が主に自転車用になった。芝生のスペースなども増やし、一気に気持ちのいい街角に Photo: Yoko AOKIショーディッチのほぼ同じスポットで撮ったビフォー(左 2015年1月)/アフター(右 2016年5月)。クルマは通りぬけ禁止(自転車は通行可)にすることでクルマを減らし、車道全体が主に自転車用になった。芝生のスペースなども増やし、一気に気持ちのいい街角に Photo: Yoko AOKI

 この話になると必ず湧いてくる疑問(反論)が、「自転車は金にならないから税金は使えない」というもの。「自動車は自動車税からガソリン税までたっぷり税金を払っているのに、自転車は税金を払っていない。優先されなくて当然」というクルマ脳な勘違い意見が飛び出してくるのもイギリスとて同じです。むしろクルマ依存・クルマ愛好は日本よりイギリスのほうが重症で反論も激しいため、自転車の普及のために活動する政治家やキャンペーン団体はこのあたりをしっかり調べて理路整然と発表しています。

走るだけで車は社会に負担、自転車は貢献

 社会から見た場合、クルマと自転車はどちらを大切にすべきなのか? 国によって税金・インフラ整備・医療などのあり方が違うので数字はバラつきが出ますが、スウェーデンのルンド大によるデンマークでの調査では、1km走るごとにクルマは社会に0.15ユーロ負担をかけるけれど、自転車は社会になんと0.16ユーロ貢献しているとしています。これは社会コスト全般を計算に入れているため、自転車に乗る人の健康が増進して医療費が減り、勤務先への病欠が減ることなどが入り、自動車は渋滞・交通事故や騒音・大気汚染などの損失を含めたものです。

カナダの都市バンクーバーの5km区間をモデルに調べた、自家用車・バス・自転車・徒歩それぞれの本人負担コストと社会負担コスト。個人所有のクルマが社会にかけているコストの大きさに驚く Picture: Discourse Media, data and analysis by George Poulosカナダの都市バンクーバーの5km区間をモデルに調べた、自家用車・バス・自転車・徒歩それぞれの本人負担コストと社会負担コスト。個人所有のクルマが社会にかけているコストの大きさに驚く Picture: Discourse Media, data and analysis by George Poulos

 カナダの都市バンクーバーを使った同様の調査では、1km走るごとにクルマは0.56カナダドル社会に負担をかけ、自転車はここでも0.15カナダドル貢献していると出ています。

 これらの数字を見ると、クルマに乗る時には「みなさんの税金使ってしまってゴメンナサイね、ちょっとクルマ使わせてくださいね〜」くらいの謙虚な気持ちでいなければいけないことが分かるというものです。そして都市行政は、クルマが使われる頻度をできるだけ減らし、代わりに自転車や歩行や公共交通機関が活用される街づくりをするべきなのです。英交通省のレポートでは、自転車活用のための公共投資の費用対効果は5〜19倍にのぼるとしています。

自転車の利用拡大は商店街を救う

 さらに、クルマを減らして自転車の利用が増えると地元商店街が潤うというデータも出そろってきているようです。

東ロンドンの入り口にあるオシャレなエクスマス・マーケット通りは最近改修を受け、配達車両など以外は基本的に通らない半歩行者天国に。同時にスポーツ賭博店などが撤退しアルチザン系ベーカリーが入るなど商店街としてアップグレード変身中。自転車駐輪ラックもたくさん増えた Photo: Yoko AOKI東ロンドンの入り口にあるオシャレなエクスマス・マーケット通りは最近改修を受け、配達車両など以外は基本的に通らない半歩行者天国に。同時にスポーツ賭博店などが撤退しアルチザン系ベーカリーが入るなど商店街としてアップグレード変身中。自転車駐輪ラックもたくさん増えた Photo: Yoko AOKI

 欧州などでの平均では、クルマを街中心から締め出して歩行者と自転車だけにすると、25%ほど売上が上がる。イギリス同様に自転車活用には後発のニューヨーク市では、自転車レーンの敷設で49%売上がアップした商店街の例も報告されています。

ロンドン大学キャンパスの間を通る通りのビフォー(左)/アフター。現在試験的に車道の西行き(写真では手前向き)1車線を潰してクルマを一方通行にし、隔離式の自転車レーンを新規に敷設して効果を計測している。10年前に敷設された両面通行のレーンはとても走りにくかったので、いまここを走るたび愉快なきもちになる Photo: Yoko AOKIロンドン大学キャンパスの間を通る通りのビフォー(左)/アフター。現在試験的に車道の西行き(写真では手前向き)1車線を潰してクルマを一方通行にし、隔離式の自転車レーンを新規に敷設して効果を計測している。10年前に敷設された両面通行のレーンはとても走りにくかったので、いまここを走るたび愉快なきもちになる Photo: Yoko AOKI
ひとつ前の写真を反対向きに見た図。クルマの交通量が減って、カフェの路面席でくつろぐ人の快適度も相当アップしたはず。クルマを減らすと街が人間にやさしくなる Photo: Yoko AOKIひとつ前の写真を反対向きに見た図。クルマの交通量が減って、カフェの路面席でくつろぐ人の快適度も相当アップしたはず。クルマを減らすと街が人間にやさしくなる Photo: Yoko AOKI

 たしかに郊外のなんとかモールのような商業コンプレックスに週末クルマで行っての買い物よりも、いまシャッター街になっている商店街に灯りが戻って通勤途中に自転車で立ち寄れるようになれば、そのほうが豊かな暮らしができそうな気がするではありませんか。

 「でも、イギリスはともかく日本は自動車が基幹産業だから、クルマが売れなくなったら困る」と心配する声もあると思いますが、自家用車をすでに所有していない自分(昔は自動車誌の編集もしていてクルマ漬けでした)が何にお金を使っているかを見てみると、クルマに使わない分自転車や旅行に使っていると言えそうです。

1ブロックほどずれた同じ道で2015年10月に撮った朝の通勤ラッシュの図。現在は自転車の交通量はさらに増えているが、クルマが減り自転車レーンの幅が広くなったことで信号ごとにさばける自転車の数も増えて走りやすさは劇的に改善している Photo: Yoko AOKI1ブロックほどずれた同じ道で2015年10月に撮った朝の通勤ラッシュの図。現在は自転車の交通量はさらに増えているが、クルマが減り自転車レーンの幅が広くなったことで信号ごとにさばける自転車の数も増えて走りやすさは劇的に改善している Photo: Yoko AOKI

 当サイト読者の皆さんなら、「自転車が好きになるとクルマと大差ないくらいお金が出ていってしまう」という怪奇現象を経験している方も多いのでは。クルマに乗るための服を毎シーズン新調する人は少ないと思いますが、自転車用となると何万円もするジャケットをすぐ買ってしまったり…。冗談(?)はともかく、自転車本体の生産からアクセサリーやアパレル生産、小売り、修理、旅行など自転車関連の産業は意外に裾野が広く、2010年のイギリスの統計では、サイクリストひとりあたり230ポンドの自転車関連消費があったということです。

同じ道の動画。自転車で通勤通学する女性がぐっと増えてきた。本当は乗りたいけれど危なくて諦めていた人が多かったのだろう。動画後半は、ロンドンでごく少数導入され始めている、自転車レーン専用信号が先に青になる信号。ロンドンのアムステルダム化が地味にスタートした! Video: Yoko AOKI

駅のそばの裏道をクルマの通りぬけができないようにし、駐輪場にした例。ハイバリー&イズリントン駅のそば Photo: Yoko AOKI駅のそばの裏道をクルマの通りぬけができないようにし、駐輪場にした例。ハイバリー&イズリントン駅のそば Photo: Yoko AOKI

 経済を心配するあまり、税金を食い、環境に負担をかけ、都市での人々の暮らしを殺伐とさせているクルマを優遇し続けることにどれほどの意義があるのか…既存の政策に挑戦するイギリスの政治家や研究者、キャンペーナー、ジャーナリストたちの発信は日本からも参考になると思います!

青木陽子青木陽子(あおき・ようこ)

ロンドン在住フリー編集者・ジャーナリスト。自動車専門誌「NAVI」、女性ファッション誌などを経て独立起業、日本の女性サイトの草分けである「cafeglobe.com」を創設し、編集長をつとめた。拠点とするロンドンで、「運転好きだけれど気候変動が心配」という動機から1999年に自転車通勤以来のスポーツ自転車をスタート。現在11台の自転車を所有する。ブログ「yokoaoki.com」を更新中。

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